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㉓攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

朝目覚めると、何故かエリーは俺のベッドに潜り込んでいた。
そう言えばアリンガムのアルマのところの宿では一緒のベッドで眠ったなと思い出していた。
それよりも、何故こっちのベッドにいるのかが先に気になった。
俺はエリーに背を向けているが、その背後に同じ向きにエリーが眠っている。
寝息を後ろの首筋から肩にかけて感じてる。
外は新しい日が射しているというのに、俺は昨日の続きのような気がしていた。
眠気というよりか、ベッドの心地よさに少し負けていた。
そして何より、誰かと一緒にベッドに入っているという特別感に浸っている自分がいた。
すると、エリーが寝返りを打とうとしたので、そのままだと落ちてしまうから俺は慌ててエリーの肩を抱き、こちらへ引き寄せる。

「んっ……」

エリーが目を覚ますと、俺は大急ぎで言い訳、いや理由の説明を始めようとした。

「あ、危ないところでしたわね。すみません。やはり王宮のベッドと比べたら狭いので……ってこちらはルカのベッド?」

「どんな寝相してたら、隣のベッドに入り込むんだ」

「えっと……寝返りを連続して……コロコロっと」

「そんなわけないだろ!」

俺はベッドから抜け出し、洗面器にお湯をもらいに行く。
人肌程度に冷まして部屋に持っていく。

「ありがとうございます」

「なんか、他人行儀じゃない? 夜はあんなに……」

「あ、あれは夜の雰囲気に呑まれただけです」

「お二人さーん、朝食もうできてるよー」

リュカの呼びかけに俺たちは応えると急いで支度をした。

「やはり、竜人族の里のコーヒは絶品だな」

「でもあんた、えらい砂糖とミルク入れてるけど……わかるのかい?」

「当たり前だ。私は常に砂糖とミルクの分量は同じにしている。だからこそ、素材の差がわかるんだ」

「へぇ、そんなもんかい」

長老夫人は半笑いのまま台所仕事へ戻った。

「これは……」

「里に流れている川で漁れる魚です。ヤマメと言って背中の方から食べるといいですよ」

長老が魚について解説する。

「俺、川魚初めてかもしれない」

「私も魚自体王宮ではあまり出てこなかったので」

二人でヤマメを齧って頬が蕩けそうになっていた。

「私、この旅で一番の収穫は色んな食べ物を食べられたことだと、後世に伝えようと思います」

「俺もだ。食べたことないものばかり、めちゃくちゃ美味しいものばかりだった」

「おいおい、旅を振り返るにはまだ早いぞ。最後に王都に行ってからにしろ」

俺達はそのヤマメの美味さに感動過ぎて我を忘れていた。
そして後か出てきた卵料理は初めて見た。
オムレツとはまた違う、薄焼き卵を巻き重ねて作るものだ。魚の出汁と仄かな甘塩っぱいのがクセになる。
そして、炊き立ての米。昨日夜に食べた米だ。

「なんでも極東の温帯地域ではこう言った朝食の献立らしい」

ルシアが解説をしてくれる。
少し観察して思うに、ルシアも昨晩は夜の雰囲気に呑まれたのだろうか。

「そうそう今朝の鳩で届いていたよ」

夫人がルシアに紙切れを渡す。

「伝書鳩ですか? 内容はなんと?」

「ジェフ達は昨日昼に王都へ向かう中継地であるクリングトンを発ったらしい」

「クリングトン?」

俺は全くわからず、ルシアに聞くと、王都からそう離れていないところ、丁度、ボスウェルと王都を線で結んで真ん中の地点にある街である。
そこは炭鉱の街で、鉱夫が大勢住み込みで働いている。
人の出入りは激しいが、そこにいるものの結束力というのは凄まじく、労働者以外の訪問者に対しては冷たいらしく、行商人達もあくまで中継地点、休憩のために夜程度らしい。

「クリングトンからなら、荷馬車も引いているのを考慮すれば、今日の夕方には王都に着くな……だったら、それまでの街道で落ち合うのがベストか……」

「どうするんですか?」

ルシアはその場に地図を出して、指を指した。

「恐らく今頃はこの辺りで野営を張っているだろう。
だから、リュカにこのあたりまで運んでもらおう」

話が決まれば善は急げだと言わんばかりに、支度を始める。
リュカはボサボサの寝癖を整えに、エリーはなるべく動きやすい服をチョイスしに、俺は折角貰ったんだからと父さんの鎧を身に付けた。
ドラグライトの剣は本当に軽く振りやすい。だけど、実戦で使ったことがないのが少し怖い。

「準備はどうだ」

「俺はいつでも」

「私もいつでも行けますわ」

「あーちょっと待って」

リュカはど偉いことになっている髪の毛と格闘していた。
見かねたルシアが後ろから魔法をかける。

「魔法にこんな使い方があったんだ……」

「今度教えてやるから、早く来い」

ルシアはリュカを引き摺るようにしてエントランスへ連れてきた。

「準備は大丈夫ですかな?」

長老の言葉に一同、大きく頷いた。

「それでは……武運を祈るのは違うな……」

「どうでもいいさ。希望溢れる未来にでも祈っていてくれ」

ルシアはそういうと、歩き出したので俺達もそれに続いた。

「いよいよですわね」

「俺はこの前急に行って帰ってきたけどね」

一旦はクリングトンと王都の間の街道でジェフ達と落ち合う。そこで詳しい作戦を決める。
里のはずれに行きリュカが変身すると、森の鳥達が一斉に飛び立った。

「乗って!」

リュカは首を下げてそういった。
全員が乗り込むと、リュカは飛び始めた。

「い、意外と高いんですね」

「エリーは高いところ苦手なの?」

「苦手ではないですけど、飛ぶという感覚が間接的に伝わってくるので、少し恐怖を感じます」

少し下を覗き込むと、すごい勢いで木々が通り過ぎていく。
俺はその速さに興奮していた。
暫く飛んでいると、王都の姿が見える。
なるべく王都から離れた山沿いを飛ぶリュカ。
一筋の道が見える。これが街道か。
街道を目でなぞっていると、ルシアが何かに気づいた。

「あれはまさか……リュカ、あの黒煙が上がっているところを目指せ、とにかく早く!」

「わかった!しっかり捕まっててね!」

リュカがそういうと、エリーは俺に後ろからしがみ付いてきた。

「これは不可抗力です。話すと危ないので……」

徐々に煙の根元へ近づくと、そこには見覚えのある百合の紋章が転がっていた。

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