見出し画像

㉔攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

リュカは瓦礫のそばに降り立つ。

「皆さん、無事なのでしょうか」

「とにかく手分けして生存者確認だ」

俺達は別々の方へ走り出した。
俺は荷馬車であっただろうところを隈なく探す。
転がっている車輪と放たれた馬車馬。どうやら怪我はしていないみたいだ。
盗賊の仕業だとしても、派手にやりすぎではないかと疑う。
とにかくこちらに人影はなく、他の者と合流しようとする。

「ん? 生き残りか?」

煽り成分の多めの声がする。
濃い紫色の甲冑を見に纏う男二人組がミモザを縛り付けていた。

「ミモザっ!」

俺は剣を抜き、構えた。

「へっ、子どもとはやり合いたくないが……」

「待てジョーンズ。あの鎧……確か聖騎士の物だが」

「そんなの関係ないぜ。向こうが先に剣を抜いたんだ。正当防衛成立だな」

ジョーンズと呼ばれた鬱陶しい男は剣を抜き、構える。
俺は魔力を全身に行き渡らせると、一気に切り掛かった。

「まさかっ、魔導士!」

「ひ、卑怯だぞ……ぐぅ」

ジョーンズは何とか剣で剣撃を受け止めたが、手首があらぬ方へ向いてしまっていた。

「魔導士の剣士だと……それも腕もいい。それに聖騎士と同じ装備……まさかランドールではあるまい」

「命を奪うとまでは言わない。誰の命令でこんな事を」

「それは言えん。暗黒騎士としての誇りだ。隠密性に秘匿性。まあバレてしまっているから前者はすでに面目立たないが……」

「暗黒騎士……」

「そう、かつて存在した聖騎士と相反する存在。聖騎士が騎士として象徴されるのとは逆、暗黒騎士は基本アングラの集まり。汚れ仕事に特化した騎士団だ」

「そんな暗黒騎士が、平凡な行商団に何のようだ?」

「裏切り者の排除だ。知らなかったのか? ここのジェフという男は元暗黒騎士ジェフリー・シュミットだ」

ジェフが元暗黒騎士と彼は言うが、そんな素振りは見せなかった。ある意味、隠匿するのが上手いだけだったのか、俺が間抜けだったのか。

「ジェフさんが裏切り?」

「ああ。騎士団を辞めただけで裏切りにはならんが、今回の件は王もお怒りだ。王女殿下の誘拐など」

「違うっ!王女を誘拐したのは別組織だろう!」

「その証拠は?」

これは確信犯だ。全ての罪をジェフに擦りつけて、全てを無かったことにする。それで求心力を高める狙いなのか?

「腐ってる……この国は」

「ランドールも似たような事を言っていたな。挙句、妻を寝取られておったが」

「……情報はもう十分だ。最後に、ジェフさんやウィルさんはどうした?」

「逃げられた。あの爺さん、本当に引退したのか? 俺の部下のほとんど切り倒してくれた」

「そうか。ありがとう」

それは一瞬だった。
俺が切り掛かった瞬間、奴はミモザを盾にした。
俺は寸前のところで剣を止めた瞬間、腹に一発の蹴りが入る。

「卑怯な……」

「お互い様だろう。それに自分の娘を置いて逃げたジェフにも同じことを言ってやれ」

「私はあいつの娘じゃないよ?」

ミモザは俺の剣が少し触れて綻んだ縄の部分から一気に縄を千切り、男の喉をナイフで掻き切った。

「元から暗黒騎士が動いてるって情報はあったから、一つ芝居をうった」

「へ、へぇ……」

俺は少し言葉を失っていた。
ミモザは何者だ?
そんな疑念よりも、今までの様子と全く違うところに驚いていた。

「……正体バレちゃった」

「と言うことは、ジェフさんは……」

「無事。そもそも大声で『お父さーん!』って叫んだ時の棒読み具合でバレたかと思ってたけど」

「てかもっと早く抜け出せたんじゃない?」

「その、縛られるのが久しぶりだったから、練習しようと思って。バレずに解く方法を」

「余裕すぎるだろ……」

そう話していると、他の皆んなも集まってきた。

「ミモザっ!何もされてないわよね!」

「うん。ルカが助けてくれた」

エリーと話すミモザは元のミモザだった。

「まあ……それもそうか」

ルシアは流石に何かを知っている素振りだった。
リュカの姿だけが見えず、周りを見渡してみたが、どうやら空を飛んでいるようで、近くにおりてきた。
背にはジェフとウィルを乗せており、二人は恐る恐るリュカの背から飛び降りていた。

「いやーうまくいったな」

「な、何がですの!危うく命を奪われるところ……」

「まあ、落ち着きなされ姫様。これは全て暗黒騎士を嵌めるための罠だったってことです」

「最近、レジスタンス組織が悉く潰されているって話があってな、それでやたらと暗黒騎士団の出動が増えてる。だからそろそろきな臭いことになってきそうだって、王妃様からの直々の依頼でな」

「お母様が?」

「何より十四年前に呆れ果てるような事を起こした王の監視をするべく、陛下は地下に潜られた。多分だが、王も所在を知らないだろう」

「王妃は私の屋敷にいる」

ルシアがそう言うと、エリーは不安げな顔をした。
なんせルシアからの告白は常に辛いものになるからだ。

「どうして……」

「最も安全だからな。それに、彼女も魔導士だ。今まで気づかなかったらしいが」


「そんなことありえませんわ。だって誰でも生まれてから検査するはず……」

「彼女は元は孤児だった。先の大戦で両親を失った貴族の娘。まだ赤子だった彼女だけが生き残った。だから、魔導士であることに誰も気づかなかった。と言うよりも、知らなかった」

「では……王都からいなくなったのは……」

「もちろん、王に愛想を尽かせたのもあるが、エリーを抱いた時に感じたらしい、自分の心臓あたりに波動を」

王城や王宮にあまり魔導士は近付かない。その為発覚がそこまで遅れてしまったんだろう。
俺と同じような話だ。
そう思いながらその話を聞いていた。

「では、この度の一件、父は何を目論んでいるのでしょう」

「これまでの傾向を考えると、十中八九、独裁だろうな。まあ、形の上ではすでにそうだが、より強固なものにするのが狙いだろう」

それは止めなければならない。俺が思うと同時に、エリーもそう思ったのか、俺の方をジッと見てきた。
それに対して一つ頷いた。

「目指すは王都だ。王に真意を聞く。事と次第では……」

俺の中では迷いがあった。これでもし話を聞いて理にかなっている、なるほどとなってしまった場合の身の振り方だ。
それに、王を失脚させた後は一体どうする?
前に漠然と考えていたことが、直近にまで押し寄せてきている。
これが重大な決断、そんな気がしてならなかった。

よろしければサポートいただければやる気出ます。 もちろん戴いたサポートは活動などに使わせていただきます。 プレモル飲んだり……(嘘です)