怖い夢

 エイとビーが話をしている。

「今日、怖い夢見た?」
「うん、見たよ。超楽しかった!」
「へぇ、エイも見たんだ」

 こいつら、今日見た怖い夢の話してるけど、なんでそんなに呑気なんだ? 特にエイ、怖い夢のどこが超楽しいのか?

「で、感想は?」

 感想は、ってビーも呑気かよ。

「鬼がおじさんを追いかけ回して、とにかく超楽しかった!」
「えっ、鬼じゃなくて警察が追いかけたんだよ、エイ?」

 明るい調子で話すエイに、流石のビーも突っ込んだ。いや、そこじゃないだろ。

「じゃあエイ。聞くけどさ、警察に追いかけられて、結局おじさんはどうなったか知ってる?」
「うん、八つ裂きのズタズタフルボッコにされて、真っ先に地獄行き!」
「違う、流石に警察はそんなことしない。まぁ後味悪い終わり方だったけど。おじさんはね、普通に逮捕されてね、一生牢屋に入れられたんだよ?」

 超楽しそうに怖い言葉を使うエイに、ビーはまた突っ込んだ。いや、夢って普通、個人の自由で好きなように見るもんじゃないの?

「やっぱりエイ、見てるようで見てないね?」

 それはそうだよな。あんな超楽しそうな様子じゃ、今日怖い夢を見たとは思えない。

 というか普段は元気なエイと真面目なビーなのに、どういうわけか今日だけ怖い夢の話を楽しそうにしている。
 いや、怖い夢を見ているのは私の方かもしれない。
 とりあえず私は二人に、何の話をしているのか、勇気を出して聞いてみる。

「ねぇ二人とも、何の話してるの?」

 私は無意識に思った。もしかしたら次の瞬間、私は怖い夢から覚めるのではと。よくいう夢オチだ。何かいつもと違う事が起きたら、それは夢なんだ。

「『怖い夢』だよ、知らないの? 最近流行りのドラマ!」
「ていうかシー、いつの間に起きてたんだ。話に夢中で気がつかなかったけど……」

 エイに続いて、ビーも相変わらずの調子で答えた。

「……目を覚ませ、ここは夢じゃない。だから、夢オチでは逃げられないよ」

 エイもビーも平常運転だった。
 こうして今日も、いつものハチャメチャな一日がはじまった。

おわり

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