ジュースとメロンパンと待ち合わせ
エイはまた失敗をした。
友達のビーからすすめられて買った美味しいメロンパンを、一人でベンチに座りながら食べようとした時のことだった。
その時エイは手を滑らせて、メロンパンを地面に落としてしまった。せっかく楽しみにしていた、美味しいメロンパンを。
落ちたメロンパンを見て、エイはまた悲しくなった。
「最近、失敗が多くて、いいことがない」
そしてまた、数ヶ月も前の失敗を、昨日のことのように思い出してしまう。
今から一、二ヶ月前。エイはお気に入りの服を着て、ビーと二人でカラオケ屋へ行った。
しばらく楽しい時間を過ごしたが、一時間ほど経ち、突如エイは便意を覚え、ビーに声をかけた。
「トイレに行きたくなっちゃった。一人じゃ怖いから、ビーも一緒についてきて」
エイとビーはトイレに向かい、部屋を空けた。
二人が出ていった隙を狙い、怪しい男が部屋に侵入した。男はエイのジュースに毒を入れると、速やかに部屋から去った。
何も知らずに戻ってきたエイは、ジュースを飲もうとした。ところが、うっかりコップを倒しジュースを全部床にこぼしてしまった。お気に入りの服まで、びしょ濡れに汚れてしまった。
「せっかく買った、お気に入りの服が」
メロンパンを落としてから数日ぐらいが経ち、エイはまたまた失敗をした。
「大変、間に合わないよ」
その日は、ビーと待ち合わせをする予定だったが、うっかり時間を間違えてしまったのだ。
気がついたエイは、近道の桜並木を渡って待ち合わせの場所へ急いだが、約束の時間はもうとっくに過ぎていた。
「エイ、遅い」
ビーはかんかんに怒っていた。
「もう一時間も待っていたんだよ、何回言ったらわかるの」
「ごめんなさい」
エイは頭を下げて謝ったが、ビーの怒りは収まらない。二人の間に気まずい空気が流れた。
「もういい、今日は疲れたからもう帰る」
とうとう、ビーは帰って行ってしまった。
「エイって最近、失敗ばっかで本当むかつく」
同じ頃、桜並木の付近ではパトカーのサイレンが鳴り響いていた。
その日の夕方、帰宅したビーはたまたま流れたテレビのニュース速報を見る。最近、近所で話題になっている凶悪指名手配犯シーが今日の午後、殺人未遂で現行犯逮捕されたのだ。
事件現場は近所のあの桜並木からそう遠くない住宅街で、シーは桜並木を通って現場へ向かった。事件発生時刻から逆算すると、シーが桜並木を通ったのは、約束の時間から約十分ぐらい前ということになる。
シーは住宅街で、道を歩いていた女性をナイフで刺そうとしたが、駆けつけた警察に現行犯逮捕された。
犯行動機についてシーは「誰でも良かった」という。つまりあの時、約束に間に合うように桜並木を通っていたら、エイもシーに目をつけられ事件に巻き込まれていたのかもしれない。
他にもシーは、パン工場でたくさんのパンに毒を混ぜたり、カラオケ屋で飲み物に毒を仕込んだりもしていた。パン工場はビーがエイにすすめたメロンパンの製造元で、カラオケ屋も一、二ヶ月前に二人で行った店だ。
「まさかエイ、メロンパン食べちゃったんじゃ。カラオケは大丈夫だったけど」
一連の事件を知ったビーは、エイがメロンパンで体調を崩していないか心配になった。翌日、ビーはエイを呼んだ。
「この頃、体調おかしくなったりしなかった?」
ビーは心配そうにたずねたが、もちろんエイは元気に返事をした。
「大丈夫だよ。それがどうしたの」
エイに聞き返され、ビーは謝った。
「昨日は、本当にごめんね」
「いや、悪いのは私のほうだよ? ビー」
「違う、エイは何も悪くなかった」
ビーはエイに、昨日の事件のことを話した。話を聞いてエイは、メロンパンは地面に落としてしまって結局食べられなかった、と言った。エイの無事を聞いてビーは安心した。
「それは良かった。失敗は人を成長させるってよくいうけど、人を助けてもくれるんだね」
おわり
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