空の上の世界
晴れの日、散歩中の私たち二人。
彼と楽しくしゃべりながら、私はふと空を見上げた。
空はとても広くて、そして青かった。まるで、海のように。
「どうして空って青いんだろう?」
何気ない疑問を口にしたら、彼が目を輝かせて私に言った。
「海だって、青いでしょ。ひょっとしたら、空より上には海があるかも知れないよ!」
話の途中で唐突に、頭をポツポツと弱く打たれたような感じがした。
小さな水の粒が空から地上へと、したたれ落ち始めたのだ。
「あ、雨だよ!」
「本当だ、帰らなきゃ」
私と彼は、急ぎ足で家へ帰った。
その時には、もう大雨になっていた。
「なるほど。雨が降るのは、海からしずくがたくさん地上へ落ちるからなんだね」
そう言う私に彼は頷き、そのあと話をした。
「どこで聞いたか忘れたけど、雨水にも生き物が住んでいるらしいよ!」
「えっ、こんな小さなしずく一つ一つに、お魚さんがいるの?」
私は必死に目を凝らして、窓越しから雨水を見つめた。彼は笑いながら首を横に振る。
「さすがにお魚はいないけど、微生物っていう、目に見えない小さい生き物がいる。微生物は空気の中や土の中、そして海の中にもいるよ!」
「それじゃやっぱり、雨は海の欠片でできてるわけだね」
「そういうこと。そして、冬にはマリンスノーが降ってくるのさ!」
雨が止んで再び晴れるまで、私と彼は楽しくおしゃべりを弾ませた。
「あっ、見て。弓の形の、七色サンゴ礁が見えるよ!」
彼が指さしたのは、雨のあとに出てくる美しい虹だった。
「本当だ、きれいな虹だ」
「大雨が降ったから、海が一気に削られて浅くなって、虹が見えるんだね!」
「でもどうして、さっき、空の上に海があるってわかったの?」
「それは僕が勝手にそう考えただけ。本当にその通りかは、わからない……」
空の上の海が、あくまでも彼の空想にすぎないことに、私は少しがっかりした。
しかし、疑問のモヤモヤはすっかり消え去っていた。何より、今日は想像力豊かな彼の面白い話が聞けて、とてもワクワクしたし、とても楽しかった。
「今の話を聞いたら、空を見るのがもっと楽しくなってきた」
そしてまた、新たな疑問が生まれた。
「空には……もう一つの海には、何があるんだろう。誰がいるんだろう」
その夜、彼は、空にきらめく無数の点を指さした。
「今夜は、ウミボタルがきれいだよ!」
私は彼と一緒に星空を眺めながら、空の上の世界に思いを馳せるのだった。
おわり
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