氷と炎

 ここは火山の地。小さな炎は、親友の風の旅立ちを見送った後、南の山に登った。

 山頂まで着き、炎は向こうの北の山へ向かって、元気よく大声を出した。

「やっほーー」

 すると、やまびこが二回、炎の元へ返ってきた。直後、北の山から聞いたことのない謎の声が聞こえてきた。少なくともそれは炎の声ではなかった。

「やっほーー」

 もう一度炎は叫んでみたが、二回自分の声が聞こえた後、三回目だけ聞いたことのない声が聞こえた。

「こんにちはーー」

 炎がまた叫ぶと、謎の声からも同じ言葉が返ってきた。炎は嬉しくなり、謎の声と一緒に話をした。二人は仲良くなり友達になった。そして、お互いまた明日会おうと約束する。

 それから二人は毎日のように、仲良く話を交わした。

「こんにちはーー」

 その日もまた炎は南の山に登り、謎の声に呼びかけた。すると、謎の声もあいさつを返してくれた。そこで、炎は謎の声にこんな質問をしてみた。

「君はどこに住んでいるの? 僕は火山の地に住んでる」

すると、謎の声は答えた。

「私は極寒の地に住んでいるよ」

炎は驚いた。

「そんなとこに住んで、寒くない?」
「寒くないよ。むしろ、とても過ごしやすいよ」

 こうやって話をした後、謎の声の方から直接会わないかと誘ってきた。炎は、しばらく考えさせて欲しい、と答えた。

「そうね、明日もまた話そうね」
「うん、また明日ね」

 一方、炎の親友の風は、極寒の地を旅していた。風はそこで出会った小さな氷とすぐ仲良くなり、一緒に話をした。

 氷には、謎の声という友達がいた。南の山から聞こえてくる謎の声と話すために、毎日北の山に登っているのだという。その謎の声との会話が楽しく、今度は直接会いたいと、氷は考えていた。氷の相談を聞いた風は、その声の主は悪い奴かもしれないから直接会うのは危険、と助言した。

 北の山から聞こえてくる謎の声の主は、小さな氷だった。

 次の日、旅から帰ってきた風は炎と再会した。炎は風に相談した。北の山からの謎の声と会う約束をしようか悩んでいる、と聞いた風は、その声の主は氷なのでお互いの安全のためにも決して会ってはならない、と教える。

 炎は謎の声の正体を知って動揺した。その夜、炎は南の山に登り、北の山の氷にその事を伝えた。

「だから、僕たちは会えないんだ」

 もし氷と炎が近づき合えば、氷は炎を凍らせ、炎は氷を溶かす。すなわち、二人は相容れない者同士であり、近づき会うことも繋がり合うこともできない。残酷な現実を突きつけられた二人は、それっきり会わなくなってしまった。

 そんなある日、炎は風からとある物語を聞かされる。

 その昔、冷たい氷でできた種族と、熱い炎でできた種族がいた。お互い近づき合うだけで、氷は炎を凍らせ、炎は氷を溶かす。そのため、両者間で土地を巡る争いが何年も続いた。しかし本当はどちらも共存を願っていた。何とか争いを鎮めるべく、風の種族を代理人として両者は話し合った。結果、お互い別々の場所で暮らそうという結論に話がまとまり、長年の争いにようやく終止符が打たれた。氷は極寒の地へ、炎は火山の地へと移り住んだ。極寒の地と火山の地は山脈で隔てられていたため、両者間で争いが起こることはなくなった。

 この二つの種族の間で起きた戦争の物語は、氷と炎が相容れない事を決定づけている。しかし教訓はもう一つある。お互いの距離がどんなに遠く、離れ離れでと、愛し合い思いやることはできる事だ。

 思い立った炎は、急いで南の山へ登った。そして、大声で叫んだ。

「氷さん、氷さーーん!」

 北の山へ向かって、何度も叫んだ。

「どんなに遠くても、離れ離れでも、僕たちは友達だよーー!」

 炎が呼びかけ続けているうちに、どこかで聞いたことのある謎の声が聞こえた。

「炎さん、炎さーーん!」

 炎は喜んだ。それは氷の声だった。二人は久々の再会を喜んだ。

 それからというもの、氷と炎は以前のように毎日話を交わすようになった。

おわり

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