本人の目の前で

◆そんな大声で言わないで

「こらっ!
 公の場で、そんな大声で言わないで!

 しかも、本人の目の前で……
 それどころか、1メートルも離れてないし……
 正確には、くっついちゃうくらい近いところで……
 なんなら、もうキスしそうな距離で……
 耳元で……
 そんな大声出さないで!

 鼓膜破れちゃうし、恥ずかしいし……
 みんなに見られてるよ!」

◆食べ物の恨みとネットのツケ

「お前は今、何をしていたんだ?
 公の場で、本人の目の前で。
 隠しても無駄だ、もう本人が見ているからな。
 俺のアイス食べたよな!

 は? 家での出来事?
 違う、ここは公の場、ネットの海!
 逃げても無駄だ、みんなに見られているからな。
『弟のアイス勝手に食べてみた!』
 ってお前の投稿。
 アイスの恨みは、ネットの恨みは、お前を一生許さない!
 自分たちを舐めてかかった、馬鹿なお前をな!」

◆残されたノート

「今あなたが読んでるそれは何?
 いや、知らないって言ったって、何でもなくないよ。

 これは人のノートよ。しかもあなた、持ち主本人の目の前で読んだよね。あら? 必ずしも周りに誰かいるとは限らないと?

 確かにね。あなたがこのノートを読んでいるとき、目の前に持ち主本人の姿はないように見える。でも今、あなたがこのノートを読んでいることを、私は知っている。それも、このノートを書く時点で、既に。

 本当のところは、あなたに読んでもらいたかったの。不特定多数の目に触るところに、このノートを一般公開したのはそういうことよ。あら? さっきまでは読むなって、言ったにもかかわらず? そう思うだろうけどね。人の魂は死んだ後も残り続けるって、生きていた時に聞いたことがある。

 この話が本当ならば、あなたがこのノートを見ている時、私はそんなあなたを見ているわけね」

おわり

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