四性国

 昔その国では、"抗生の人"、"情緒の人"、"知性の人"、"力の人"の四つの民族が暮らしていた。同じ場所で暮らす彼らは一見共存しているように見えて、実はある問題が起こっていた。

 まずはじめに、"抗生の人"への差別問題があった。のんびり屋で他と比べて平均能力が低い抗生の人は、社会的地位が低く日頃から冷遇されていた。普段は互い対立を起こしがちな他の民族も、抗生の人を差別するときに限って団結していた。そんなある時、大飢饉が起きて差別はさらに強まった。食糧節約のため、抗生の人を大量虐殺する命令が出された。人口激減の結果、抗生の人は絶滅してしまった。

 残った三つの民族は、いつもと変わらない生活を送っていた。ところがしばらくして、今度は"情緒の人"が差別を受け、最下層に置かれるようになった。
 知性の人と力の人、二つの民族からの差別迫害が続き、情緒の人は我慢できなくなった。彼らは差別に立ち向かう組織を結成し、他二民族に対して共存と差別反対を訴えた。彼らの中でも特に立場の弱い者たちは差別反対組織の活躍を見て、生きる希望をもらっていた。結成当初こそ、差別反対組織は異民族との共存を呼びかけるまともな集団なはずだった。
 ところが、次第に他二民族を侮辱し自分たちを美化する内容の訴えが増え、挙句の果てには「他二民族を滅ぼす」と過激な発言までしてしまった。これに怒った二民族は連合軍を結成する。共通の敵がいる時に限って力を合わせて、差別反対組織を追い詰め鎮圧する。一方の差別反対組織は鎮圧された腹いせで、同族の弱者に理不尽な暴力を働くようになった。矛先を向けられた弱者は、もはや差別反対組織に不信感を抱くようになる。

「お前たちはもう信用できない。私たちは自分たち専用の国家を作る。お前たちはもう二度と、私たちの国に関わるな」

 一連の騒動後、差別反対組織率いる多くの情緒の人はこう宣言した。これに対し他二民族は、自分たちの問題をしっかり自分たちで解決するならば、と条件を示しつつ同意する。こうして連合国を離脱した情緒の人は、彼らだけの国家を建てた。
 しかし同族だけになった途端、彼らは互いに争いをはじめた。彼らは「情緒の人だけの安全な国家」ではなく「情緒の人だけの同族同士で争う国家」を望んでいたのだ。彼らにそういうつもりはないのだろうが、人間というのは相手が同族だからといって必ずしも仲良くやっていけるわけではない。争いは同族異種族関係なく起こるものなのだ。
 同族同士の争いの末、疲弊し物資不足になった彼らは二民族に助けを求める。当然、二民族は条件に反するとして無視した。こうして彼らの国は滅び、情緒の人も絶滅した。

 残るは二民族。今までしばらく、知性の人と力の人は力を合わせて生活していた。しかしそれは共通の敵がいた時の話。情緒の人がいなくなると、一転して彼らの間で深刻な対立が起こる。
 日が経つごとに対立はますます深まっていった。そしてある時、ついに彼らは武器を手に取り……

おわり

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