#5 自転車に乗ろうとしている子供
いつからか、自分を守るための「プライド」が自然と体に染み付いてしまうのかもしれない
新しい世界に飛び込んだ時、「仕事に絶対の正解はない」とか「自分なりのやり方で努力をする」という自分を守る言い訳(という名のガード)を作ることで、周りからとやかく言われてもなんとか自尊心を保とうとするのは、もはや動物としての生存本能なのかもしれない。
飲食関係の仕事に初めて従事する僕も、日々先輩から教わることばかりの毎日です。
幸い、うちのスタッフは優しい方ばかりなので、こっぴどく叱られるということはそうそうないのですが、それでもミスを指摘されると凹むこともままあったり。
そんな時に「いや自分は自分のやり方で頑張ってるんだ」とか、「それだけが正解の接客じゃないでしょ」と言いたくなる気持ちはわかるけれど、そういう思考はあまり合理的ではないな、ということを教わったという話。
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僕の勤めているバイト先は、青森県弘前市にあるPizzeria Miaという、まちのピザ屋さんです。
僕のバイト先は、比較的ルールが少ない職場なのではないかと思います。
服装も、似合っていて、かつお店の雰囲気に合っていれば基本的にはなんでもよし。ある程度バイトの人数もいるからかシフトの融通もかなりききます。
でも一つ、わかりやすく決められているルールみたいなものがあります。
それは、シェフ(店主)と、バイト上がりで帰る前に必ず一言話して、握手をしてから帰るというもの。(衛生的に問題ない範囲で、です!なので料理中とかはもちろんしませんよ!)
先週のバイトで、シフトの時間も終わり、例のごとくシェフのところに行き「お疲れ様でした!お先に失礼します。」というと、シェフからいつも通りの「今日はどうだった?」という質問。
実をいうと、その日はバイト終わりの1時間前から何をいうか考えていて。
その返答はというと、
「今日はビビっちゃいました。そろそろ電話も取れるようになりたいし、タイミングを見計らってピザカットとかにもチャレンジしてみようと思ってバイトに臨んだんですけど、そのチャンスが回ってくるたびどうしようかとたじろぎ、そうこうしているうちに他のスタッフの方にやっていただいてしまって。」
というコメントです。
もう、その日のバイトはまさにこのコメントのまんまという感じでした。
だんだんできる仕事も増えてきているからこそ、そっちをやっていると他のできるスタッフが僕の仕事をやってくれます。だからこそ、自分からまだできない仕事に挑戦しないと成長しないとわかっていながらも、できる仕事に安住し、消化不良な1日だったわけです。
そして、こんな弱気なコメントにシェフが返してくれた言葉は、
「まぁ、まだ自信がないんだよね。でも大丈夫。まずやってみて、それで周りから色々言われて、それでだんだん仕事はできるようになってくもんだからさ。自転車も転ばないと乗れるようにはならないんだしさ。ミスはしても大丈夫。挑戦しようぜ」
というコメント。
ミスしても大丈夫という言葉に少し安心をもらいながらも、正直自分の中で引っかかるところもある言葉でした。
「自転車も転ばないと乗れるようにはならないんだしさ。」
この例え。確かにミスを繰り返して徐々にできるようになるということに対する例えとしては、誰もが経験したことのある身近な例ではあるけれど、あまりにも陳腐というか軽いな、という気がしてしまい、ここ数日ふと思い出すたびに考えてしまいました。
そして至った、自分なりの一つの結論があります。それは
「あ、シェフから見たホールスタッフのあどけなさは、親から見た、転びながらも自転車に乗る子供のように見えているのか」
という気づきです。
あくまで本人に聞いたわけではなく自分なりの考察です。
子供に自転車の乗り方を教える時、親は自転車に乗れず転ぶ子供をいちいち叱ったりはしないと思うのです。
逆にその姿が微笑ましかったり、その時に必要なアドバイスをしながら、あとは子供自身の頑張りに任せていると、気づいたら子供は勝手に自転車に乗れるようになっています。
もしかしたら、こんな風にシェフは私(たち)のことを見てくれているのかもしれないなということです。
ミスしてしまいながらも、頑張って仕事を覚えたりお客さんと接したりする新人の姿を見守りながら、時に必要なアドバイスや声がけをし、あとは何度も現場で経験を積んでいくと、気づいた時には接客は誰にでもできるようになるよ、という風に。
もし本当にこう考えてくれていたなら、それはひとえにシェフの懐の深さに感謝するばかりです。
そして自転車の乗り方は、自転車に乗れる人なら全員が知っているように、接客の仕方だって、できる人はほぼある程度知っているはずだということです。
そこに「自分なり」、とか「本当の正解」とかグダグダ言ってんじゃないよと。平均点も取れないのに、満点をいきなり目指すなと。
言葉はその人の思考を表すとよく言いますが、その人の言葉についてじっくり考えてみるとまた新たな発見があり、その発見が人に感謝するきっかけをくれたり、自分を成長させてくれるエネルギーを与えてくれることもあるんだな、と感じさせてくれる経験でした。
来週も、Pizzeria Miaにきてくれる全てのお客さんに感謝し、シェフはじめ共に働いてくれる同僚の皆さんに感謝しながら、頑張っていきたいなと思う週末でした。
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