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#「いま」コロナ禍の大学生は語る①

 2020年4月 緊急事態宣言による外出自粛が続く中で大学入学を迎えたわたしは、紛れもない「コロナ禍の大学生」なのだろう。

 けれども自分にはそのラベルがそぐわないように感じて、なんとなく落ち着かない。だから、あくまで2020年に大学へ入学した "わたし" の話であることを強調したい。
 ある大学生が経験したコロナ禍を「いま」語り直す、今回はただそれだけの営みにとどめておこうと思う。


#いまコロナ禍の大学生は語る

 このハッシュタグ企画に参加するにあたって、自分の中に大きなためらいがあった。
原因はこの投稿である。
(※引用先の記事には一部不快な表現があります)

2020年2月27日。私はTwitterで政府からの休校要請を知った。

私にとっての休校と居場所。|紗良

という書き出しから始まるこの記事は、当時の私をあまりにも生々しく覚えている。


 この頃の記憶はかなり曖昧だ。かすかに残っているのは動かない身体の重さ、眠れぬ夜のベッドライト、反射的に強張る手足、小さな窓から差すやっと迎えた朝。そして、怒鳴り声の入ったボイスメモと、綴られた無数の言葉たち。


 そんなに抵抗があるなら、この記事に言及しなければいいだけの話ではある。けれどもどうしても避けて通ることはできなかった。コロナ禍の大学生としてわたしが「いま」語るためには、原点にある「いま」じゃない語りを蔑ろにできない、そう感じてしまった。


「いま」コロナ禍の大学生は語る

 当時の私は、ストレスにさらされるたびに現実を直視しないように言い聞かせていた。

 吸い込もうとしてはだめ、吐くことに集中しないと苦しくなるから。
 何も感じない、聞こえない、きっとどこか違う世界のお話。
 大丈夫だよ。全てあなたの気のせいなんだから。だいじょうぶ。

そう唱えていれば、あたかもそのときが現実ではなくなるかのように感じられた。


 けれども、残念ながらわたしは知っていた。
「なかったこと」にして乗り越えた経験が自分の首を絞めることがあると。

 あのとき苦しんだ自分が確かにいるはずなのに、それを示すものがない。
日々の中に当時の断片を見つけて毎日もがき苦しんでいるにも関わらず、それが自分の被害妄想ではないと、確かにあった出来事なのだと、そう証明してくれるものなど存在しない。
 18年生きてきて、「現実を吸い込まない」ということが何をもたらすのか、嫌というほど思い知らされていた。


 だから、ことばを吐き続けないといけなかった。
苦しくても、どんなに罪悪感に駆られても、必死に言葉を手繰り寄せては吐き出した。ベッドの中で震えながらも録音を回した。ちいさなちいさなSNSで膿を出すかのように、少しずつ、少しずつ言葉を重ねた。そうしないと、今の私は「なかったこと」にされてしまう。

 エピソードとして完成した「過去」についてしか口にしなかった私はこのときにはじめて、自分の置かれた「いま」を語り始める。


 家族に見つかったらどうしよう、周囲に特定されたらどうしようという恐怖で有料記事にしたり、下書きに戻したりしたけれども、削除することだけはしなかった。SNSのアカウントを消すこともしなかった。
 この記録を、この断片を失ってしまったとき、わたしは私のことを信じられなくなる。でもわたしが信じなかろうと私は苦しみ続ける。そして、そんな私のことを私は許せない。深い海の中でもがくことから逃れたかった。


2023年5月1日という「いま」

 この生々しい記事を公開すること、これを私と結びつけることには未だ抵抗がある。社会から断絶された部屋で、誰かに見つけてほしいという思いと、誰かに見つかったらどうしようという恐怖が入り混じった文章。こんなことを書いたら誰かに非難されるかもと必死に張り巡らされた予防線。自分の見苦しさと被害妄想っぷりに言いようのない痛々しさを感じてしまう。これ以外にも当時を記したものはたくさんあるにも関わらず、やはり私はそれらを疑ってかかることしかできない。
日常に当時の跡を見つけては不安に苛まれるのは、今も変わらないはずなのに。

 はじめにこのハッシュタグを知ったとき、良いタイミングかもしれないと思った。けれども踏ん切りがつかず、目を背けていた。そんなときに友人から直接誘いの連絡がきた。それでもしばらくの間、見ないふりをした。

 昼間、いつも足を運んでいるスペースで眠っていたとき。近くを通っただけの他の子の足音で覚醒した私は、咄嗟に「殴られる」と思って頭を庇った。他人に勝手に怯え、相手を不快にさせてしまったことへの罪悪感と "被害妄想” を未だに繰り返していることへの自己嫌悪で埋め尽くされている今日にはぴったりの記事かもしれない。そんな勢いで書いた記事なので、いつのまにか下書きに戻されているかもしれないです。


企画について

 この文章は、「#いまコロナ禍の大学生は語る」企画に参加しています。
この企画は、2020年4月から2023年3月の間に大学生生活を経験した人びとが、「私にとっての『コロナ時代』と『大学生時代』」というテーマで自由に文章を書くものです。
企画詳細はこちら:https://note.com/gate_blue/n/n5133f739e708
あるいは、https://docs.google.com/document/d/1KVj7pA6xdy3dbi0XrLqfuxvezWXPg72DGNrzBqwZmWI/edit
ぜひ、皆さまもnoteをお寄せください。

また、これらの文章をもとにしたオンラインイベントも5月21日(日)に開催予定です。
イベント詳細はtwitterアカウント( @st_of_covid をご確認ください )
ご都合のつく方は、ぜひご参加ください。
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今日のあなたが、少しでも息をしやすい世界でありますように。
紗良