誰にも言えなかった僕の高校野球時代の葛藤〜もっと上手くなりたい、でも試合には負けたい心境とは〜

僕は野球が上手くなりたかった…

でもそれは結果を残して試合に勝利する為ではない。

試合でミスをしない…それだけの為に上手くなりたかった。

僕の高校野球時代、ほとんどそんな想いで過ごしていた。

僕は、小学校から野球を始め中学校でも野球部に入った。

そして、その流れで高校でも野球部に入部した。

僕は野球が好きではない。

でも学生時代の僕には野球部に入部する以外の選択肢は無かった。

田舎育ちの人であれば分かる人にはわかると思う…この気持ち…

僕は長崎県の西海市大島町で生まれ高校時代まで大島で過ごした。

小学校時代の同級生は全部で12人、中学校は約30人、高校では約40人こんな感じなので小学校からの友達がそのまま高校でも一緒だった。

僕が高校でも野球部に入部した理由は簡単。

もし僕がサッカー部に入ったら、なぜ今まで一緒に野球をしてきたのに今更サッカーなの?と問い詰められることを恐れたからだ。

今思えば…別にそんなことを気にせずに好きなことをしたらいいじゃないかと思うが高校生の僕にはそんな余裕は無かった。

そんなこんなで僕の高校野球が始まった。

島の高校…野球部…

2.3年生で計9人…そんなギリギリの部員数の中で僕らの代が奇跡的に9人入部し合計で18人でスタートする。

僕はライトになった。

中学校時代から外野を守っていたからだ。

僕は外野が大嫌いだ。

内野はエラーしても後に外野がいてカバーができる。外野はエラーすると誰も助けてくれない…

つまり外野のエラーは絶望でしか無いのだ。

また内野はエラーしてもしょうがないという空気があるが外野にはそれがまったく無い。

捕って当たり前。それが外野の宿命なのだ。

日々の練習では、4時頃学校が終わり自転車で10分かけて専用グランドへと向かう。

バッティング練習が始まり、自分の番が回ってくる。

この時間が僕にとって1番こころが安らぐとき…

打っても打てなくても何も起こらないからだ。

つまりミスという事が起きないからだ。逆に打つことだけに集中できる為、よく打てていた…!

そして、悪魔の時間のノックが始まる。

僕らの使用するグランドは、外野が天然芝であったがデコボコでボールがよくイレギュラーしていた。

ゴロを捕る時なんか特に緊張した。先輩もいる中でエラーすることが怖かった。

だからこそ、エラーをしていた。そりゃそうだ。怖がってちゃ、いいプレーなんかできるはずもない。

そんなミスを怖がる僕だったが、上手くなりたい…その気持ちだけは持って毎日練習に挑んでいた。

そして、初めての高校野球での練習試合。

もちろん一年生は皆ベンチスタート…僕もその中の1人であった。

7回が終わり監督に呼ばれた。代打で行くぞと…。

緊張したが少しだけ優越感に浸っていた。一年生の中で1番最初に試合に出ることができたからだ。

そして、僕はセンター前にヒットを放つ。

嬉しかった。試合に勝った負けたは覚えていないがヒットを打てた嬉しさだけ10年経った今でも覚えている。

そんなこともあり試合にレギュラーに出るようになった。

たまたまライトを守っていた先輩が僕よりも実力が劣っていたということも相まった。

あっという間に日は流れ、夏の高校野球の予選が始まる。

僕はスタメンだった。

また僕は試合に出るのが嫌だった。

僕の一つのミスで先輩達の夏を終わらせるようなことが起きればと想像するだけで怖かった。

球場へ向かう道中…僕はイヤホンで音楽を聞き必死に自分を自分で応援した。

とにかくやるしか無いんだと…やるなら思いっきりやれと。

そして、試合が始まる。

7番ライト。

その試合で僕はどん詰まりのライト前ヒットで打点をあげた。そして、試合にも勝利し2回戦に進むことになった。

皆喜んでいた。

島の弱い高校だったこともあり一回戦を突破するだけでとても盛り上がった。

僕も嬉しかった。勝った瞬間は嬉しかった。自分も貢献できたと感じたからだ。

でも帰りのバスの中でこう思った。

勝ってしまった…二回戦まで進んでしまった…一つのミスに対する責任度が上がってしまった。

正直負けたかった。自分が活躍する分には問題はない…ただ、負けたかった。

ミスが生まれる機会がまた一つ増えたからだ

そして、二回戦…相手が強豪校ということもありコールド負けになる。

先輩達が泣いている。僕も泣いた、悔しいからではない。先輩達の3年間の想いが僕の心の中にも響いたからだ。

そして、バスで島へ帰った。とても夕日が綺麗に見えた。僕は内心ホットしていた。終わって良かったと…

それでも、野球から離れることが出来ず新チームとして僕にとっての第二章が始まる。

そして、この第二章で僕にとって大きな出来事が起きる。

ショートで4番バッター…誰もが憧れる言葉…

僕もそう思っていた1人であった。

叶わない夢だがそうなれたらかっこいいと思っていた。

新チームとなり今までショートとピッチャーを兼任していた先輩がエースになるにあたりショートというポジションが空いてしまった。

そして監督からこう告げられる、

ショートをやってみないかと…

よっしゃーと思った。最高の気分だった。夢であったショートに挑戦することになった。

そしてそのことが僕にとっての最大の試練であった。

そもそも僕の内野経験はほぼ皆無に等しい。ファーストか外野しか守った事がなかった。

内野の捕り方すら分からない。動画を見て動きが分かったところで身体はそんなに上手く言うことを聞いてくれない。

さらにミスをする機会も増える事になった。当然だ。ボールが良く飛んでくるポジションでもあるからだ。

秋に入り練習試合が始まるがミスの連発だった。

エラーはするわ、暴投はするわで本当に苦しかった。周りの目がとても怖かった。エラーしたときの空気感が僕を苦しめた。

ただショートのポジションを誰にも奪われたくはなかった。だって憧れだったから。だから練習をがんばった。でも毎日が怖かった。そして僕はイップスになった。

いつのまにか、暴投を恐れる気持ちから投げる瞬間に手に上手く力をいれる事ができなくなっていた。

このイップスが僕をさらに苦しめた。

練習の時でも怖かったのに、試合となるとその恐れが100倍になった。

一度エラーや暴投をすると、僕の中の全てが狂ってしまう。

相手チームに、ショートへ打てば塁に出れるぞっと思われてるんだろうなと思いながら、ショートの守備位置に立つ度に劣等感が僕を襲った。

ボールを捕れても暴投する。気持ちの問題であることは分かっている。でもどうにもできない。

そんな日々が、冬を過ぎ春を超えても続いた。

日が経つにつれ、イップスが治らないにしても技術は確かに向上していた。

そんな矢先のこと…

2年生となり夏の予選の前に行われる公式戦のNHK杯…

僕は2度エラーし、試合にも負けてしまった。僕のせいで負けたといっても過言ではなかった。

僕は泣いた。悔しかった。必死に頑張ってきたのに、その試合でもミスを恐れファンブルはするわ、暴投するわでもう絶望感がえげつないものとなった。

毎度言うが僕は公式戦では勝ちたくはない。

結果として僕の望みは叶えられた。

ただ自分のせいで負けることだけは絶対避けたかった。

それが今回は完全に僕のせいだった。

皆の顔も見られず、ただ下を向くしかなかった。


 

試合後、島へ戻った僕ら…

皆着替えたり道具の手入れをしたりする中、僕はコーチに呼ばれてワンツーマンでノックをした。

長い時間ノックをしてもらった…

僕は完全に心がやられている中ノックを受け続けた。

ノック後僕はコーチの前に立ち…号泣した。

野球人生の中で1番屈辱的で悔しかった。

そして、僕は思わず…コーチにこう告げた。

「もう夏の大会まで2ヶ月を切っています。このままだとまた、みんなに迷惑をかけてしまいます。もっと上手くならいといけないんです。だから一緒に朝練をしてくれませんか…ただこれは誰にもバレたくないので2人だけの秘密にしてほしいですと」

コーチは快く受け入れてくれた。

今更だがコーチには本当に感謝している。

コーチといえど外部コーチの為、普段は企業勤めをしている。つまりは僕の為に時間を犠牲にして早起きをしてその後仕事に行っていたのだ。

僕も社会人になり思うが、コーチが僕の為にしてくれたこと、僕にはとてもじゃないけどできない。

僕にとって本当に感謝しきれないほどの恩がある人だ。

それから夏の大会まで2ヶ月間の朝練が始まる。

毎日6時にグランドへ行き7時まで毎日ノックを打ってもらった。

普段の全体練習ではできないような変わった練習もしてくれた。

早起きするのは大変だったけど、僕にとっての大事な時間となった。

その反動で学校では授業中に寝てしまうことが多くなった。

朝練を始めて4日を過ぎたあたり、問題が起きた。

ある部員が、練習用のボールが重くなっていると言い出したのだ。

そりゃそうだ。朝練の時間帯は地面が湿っている為、特に外野にボールが転がれば芝についた水分がボールに染み込んでいたのだ。

ヤバイと思った僕は、全体こ練習後先輩の部室に入り正直に話した。コーチと一緒に朝練をしていることを…

怒られると思った…でも怒られなかった。

そして次の日…

いつも通り朝練の為グランドへ向かうと先輩が来ていた。

そしてその日からコーチ、先輩、そして僕の朝練が始まった。

この朝練のことは、後に部員全員に知れ渡ったが

流石にそれ以上参加する者はいなかった。

そして僕は少しだけ上手くなった。

高校2先生としての2回目の夏が始まった。

3番ショートとしてスタメンで出場した。

僕はまたエラーをした。打撃で貢献することも無かった。ただ試合に勝った。

何度言うが、僕は上手くなる為に努力をした。

でも公式戦には勝ちたくなかった。

ミスをする機会が増えるだけだし、自分のミスのせいで負けるということが1番怖かったから。

そんな思いで2回戦へ挑む。

最後までもつれた試合だったが負けてしまった。

そして試合後また泣いた。

そしてまた内心ホットした。

そして、最後のシーズンが始まる。

あと一年で高校野球が終わる…早く終わってくれ…その時の僕はまだそんなことを思っていた。

そんな僕に2つの転機が訪れる事になる。


僕の野球人生の中で一番の悩みは、ミスに対する恐れだ。

この原因は前回に話したが少年野球時代にコーチから言われた一言が原因だった。

この心の病がいつも僕を苦しめていた。

しかし2年生の秋この病を克服することになる。

練習試合に行く道中での野球部専用のバスの中でそれは起きた。

バスの中では、黙っている者もいればベラベラと喋っている奴もいた。

僕はミスに対する恐怖心から音楽を聴きながらいつものように自分を落ち着かせていた。

途中でコンビニにより飲み物などを買い戻った直後であった。

ある同学年の奴と後輩の話し声が聞こえた。

「今日勝ちたいよなー!、いや、勝てますよ!」

僕はその言葉を聞いてハッとなった。

あいつらは試合に勝ちたいと思っている。

でも僕は負けたいと思っている。

みんなが勝ちたいと思っている中で僕1人が負けたいと思っている。

本当に今更って感じだか…実際に、勝ちたいという言葉を聞いてそこで初めて実感が湧いたのだと思う。

僕もその他の皆も上手くなる為に練習をやっている。

けど皆は勝つ為にやっている。

僕はミスをせず結果的に負けることを望んでいる…



結局僕は自分の身を守るた為に今まで野球をやってきたことに気がついた。

自分さえ良ければチームは負けてもいい。いや負けて欲しいとさえも思っていた。


そのとき初めて自分を客観的に見ることができた。

ミスを恐れて野球をやっている自分がとてもカッコ悪く思えた。


僕は心の中でみんなに謝った。今までごめんなさい。これからは自分の為ではなく皆の為に野球をすることを誓った。

その後、僕はミスに対する恐怖心は消えずとも

皆の為にも勝ちたいと思えるようになれた。

心がスッキリとした。本当にスッキリした。


さあ、これからだというときにもう一つの転機が訪れた。

遊びんでいるときにジャンプをして着地した際、左足の膝を痛めてしまい水が溜まってしまった。思いの他このケガが厄介であった。

全力疾走が出来ず膝を曲げる行為すら痛みで上手くできなくなってしまった。

怪我した週末に公式戦があった。僕が出るより他の人が出る方が良いと僕は監督へ伝えた。

結果として僕は試合に出た。

今の高校野球ではケガ予防の為に休ませるチームが増えたと思うが、その時は痛くても出ろ。

そんな時代であった。ただそこで転機が訪れる。

全力で走れないなら、3番ではなく4番に回れと…

そのとき僕は憧れであった4番になるという夢を叶えた。

そこから僕は最後の夏まで4番を務めた。

また膝を低く曲げれなかった為ショートから外野に戻ることになった。

後輩に僕より上手いショートもいたし、しょうがないとも思った。

4番になり僕は今まで以上に努力した。

冬はご飯を死ぬほど食べ沢山の筋トレをして4番として相応しい身体作りを行った。

年を越し春が過ぎ最後の夏の大会を迎えた。

高校野球の集大成…その時の僕は勝ちたくてしょうがなかった。勝てばみんなが喜んでくれるし何より、弱小高ながらも甲子園を夢を見ていた。

結果から言うと一回戦敗退。個人的にも結果を残すことはできなかった。

試合後僕は泣かなかった。というより泣けなかった。

泣いている部員もいた。

その泣き顔を見ても僕の顔からは涙が生まれなかった。

三回目となった一番大切な甲子園とつながる最後の夏の予選大会…

初めて心から初めて勝ちたいと思った試合を終えて、僕はスッキリしていたのかもしれない。

もちろん悔しいし

まだ、この仲間と一試合でも多く野球をしたかった。




僕の最後の夏が終わった。




今振り返れば僕の高校野球人生は良かったと思える。

試合に負けたいと思う日々が長かったが、それを変えることができた。

努力する事の大事さも知った。

ミスの先に成功があることも知った。

苦難がほとんどで楽しい思い出は少ない野球人生だったが僕にとって大切な思い出だ。



社会人になっても、もちろんミスは怖い。

上司から怒られるのも嫌だし取引先とのトラブルやクレームなんてもっと怖い。



でも僕は知っているミスを恐れた先に心の成長が無いことを…











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