見出し画像

秘密の共有、罪を隠す俺の姿にこそ栞子の【咬福論】は宿る。愛を試す悪魔のラブソング

運命の赤い糸より
目に見える 信じられるもの
それ以上 何もいらないの

咬福論/三船栞子(小泉萌香)

【咬福論】の「咬」という文字からどんな言葉を連想する?
私は「咬ませ犬」という言葉を連想する。引き立て役として戦わせられる存在に使われる言葉だ。
この咬ませ犬という言葉が【咬福論】にはとても良く似合う。明確に咬む者と咬まれる者、引き立てられる側と引き立てる側が別れているのだから。

咬む者である栞子はこの言葉通り、引き立てる側だと思う?

【咬福論】は虹ヶ咲公式ラブソングの中でも頭3つくらいぶっ飛んだ神の曲だ。全ての方面においてぶっちぎっているのだがブレーキを持っている。ちゃんと栞子らしく節度とブレーキは実装されている。そこがなお恐ろしい点である。

この曲に対して、多くの解釈が存在する。だから最初に私の結論、スタートラインを提示しておく必要がある。その答えは最初に聞いた時からブレない。

【咬福論】は略奪愛をモチーフとしたラブソングである

これが世界の真理である。あの品行方正真面目で完璧主義の栞子との略奪愛が謳われているのだ。だがただの、略奪愛ではない。ちゃんとそこには節度と制約とモラルが存在している。
前述の通り、そこが最も恐ろしい点だ。そして【咬福論】の最も魅力的で栞子の魅力を引き出している部分である。
略奪愛というモラルなき行為にモラルが存在している。そもそもモラルを重んじるのであればそんな行為に及ぶなという話であろう。そんな理屈をぶっとばすのだから

既に一度咬福論の話をしているが前回した話は一番までしか歌詞が開示されていなかった為、ここでは主に2番以降の歌詞と全体観に着目する。

これより本題に入る。いかにこの曲が三船栞子のラブソングとして究極であるか、歌詞中に宿る略奪愛要素とは何か。それらを突き詰め紐解くことが戦いとなる。

さあ─────「大好き」をしよう?


(本来の)恋人になら何しても良い

きちんとしたくないの
押し付けてくつもりもないの
”恋人なら何しても良い”なんて嫌

咬福論/三船栞子(小泉萌香)

2番の歌詞の中で私が最も震えた部分はここだ。あまりにも恐ろしすぎる。一見すると優しいがこの優しさは人を狂わす優しさ。
最初に伝えた通り、私はこの曲を略奪愛のラブソングだと解釈し認識している。それを加味してこの部分の歌詞を考えたら何を意味しているのか見えてくる。

【”恋人なら何しても良い”】の部分における「恋人」とは誰のことを指しているのだろう?

これを突き詰めることで栞子のやばさと可愛さと愛おしさが無限に溢れ出る。
まず略奪愛概念なので栞子から見たあなた(私でありあなたであり俺であり君)のことではない。なので思考をシフトする必要がある。「誰が恋人」かではなく「誰の恋人」なのかに。
そう、つまりここでいう「恋人」とは「あなたの本来の恋人」のことを言っている。

この情事を公にしたくない、その関係性をきちんとしたくない。栞子こそ私の恋人であると言ってほしくないし言わせたくない。そう栞子は考えている。だって私には恋人(歩夢でありかすみんでありしずくであり果林さんであり愛さんであり彼方ちゃんでありせつ菜であり菜々でありエマさんであり璃奈ちゃんでありミアでありランジュ)がいるのだから。
いくら恋人だからといっても許されないことはある。

私のことのほうが大切ならば本来の恋人にはなにをしてもいいなんて考えは嫌だ、という解釈が私の世界だ。
ちゃんと「恋人」が好きで大切なあなたでいて欲しいと栞子は言っている。それこそが彼女の言う【あなたらしく】であり【”あなた”で暮らしてて欲しい】の意味だ。

栞子はとても慎ましい。別に一番を自分にしてほしいだとか恋人と別れてこちらを選んで欲しいだのとは言ってこない。彼女が求めるものは慎ましい、それは私との間に共有する「秘密」を持つこと。

栞子との密会との時、彼女にその八重歯で噛まれたその痕。その秘密の共有だけが俺達の幸せ足り得る。
キスマークや歯型では周囲に浮気がバレてしまう。だから咬み痕がちょうどいいのだ。栞子の八重歯でかぷかぷされる程度の、2人でなければ気付かない程度の痕。
それだけが「縛り」や「重荷」にならないライン。

大好きの形

次はどんな 痕 あなたに上書きして
気持ち再確認して「大好き」をしよう?
想像だけで ニヤニヤです

咬福論/三船栞子(小泉萌香)

栞子からの力の暴走は留まることを知らない。ここに至っては【次はどんな】なのだ。この関係は不変ではない。生殺与奪の権を栞子に握られている。
だから今のこの八重歯で2人にしか分からない秘密を付けられるだけの関係は栞子の気まぐれ一つで簡単に崩壊する。「あなたらしくいてほしく”ない”」と彼女が思えばその瞬間にでも世界は崩壊する。
愚直に秘密を守り続ける姿だけがこちらから栞子へ伝えられる純然たる大好きの形。彼女が今のこの関係を望んでいるのだから秘密を秘密であり続けさせる。

そう、栞子は「秘密の共有」以上のことを望んでいない。何もかもを投げ捨てて連れ出して欲しいだとか全てをかえりみず抱きしめてほしいだとかそんな弱っちいことを言っていない。
ただ、秘密を与えるからあなたもそれを隠し通してほしいと言っているだけなのだ。隠して欲しいと願うのはあなたの為、この他愛のない日々を壊さない為。
そんなあなたがその痣を隠し通そうとする姿は栞子の為。栞子との関係を維持する為、あなたがあなたらしくある為に行われる隠蔽行為こそ栞子が確認できる「大好き」の形。

この慎ましさの中に見える強欲にこそ力が宿る。

あなたには栞子でない本来のちゃんとした恋人がいる。栞子と秘密を共有してそれをバレないように過ごしている。栞子はそんなあなたの秘密を隠匿する姿にこそ「大好き」を感じ、どんどんその行為はエスカレートしていくことだろう。
それでも栞子は変わらず、あなたらしくを望むからいつだって恋人のことを一番に考えていて欲しいと願うだろう。
そうなった場合、あなたにとって一番の存在は誰なのだろう? 栞子から「あなたの恋人」を一番にしてねと言われているこの関係の中で、だ。

本来、恋人だなんだの関係に優先順位が付けられることはモラル的に好ましいことではない。だが栞子との戦いの系譜を紐解くにはそのインモラルを踏みしめるしかないのだ。

栞子はあなたを支配している。向こうの中の一番で常にあり続けている。その支配関係は「恋人」と「栞子」の両方がいて初めて成り立つ悪魔の関係性。
だからこそ、順序と事実が見えてしまう。この関係性に宿る、あなたの中で栞子が一番であるという事実が。
栞子から与えられる「隠さなければならない痕」という大好きは支配の証である。この秘密を秘密でいさせ続ける生き方、そして秘密が消えないように見張る生活、自分のために本来の恋人を欺く姿にこそ大好きを感じられる。
だから恋人にはバレてほしくもないし、別れてもほしくない。大好きを実感する術がなくなってしまうから。

ここにこそ、冒頭で話した咬ませ犬の真意が宿る。本来の恋人ありきで栞子とあなたとの関係は成り立つ。そして、栞子は恋人の存在を持ってして自分への想いを可視化させている。
愛情を目に見ようとする行為は非常に難しい。だから、罪を背負わせて隠させようとする。栞子との関係を守る為であろうと自分を守る為であろうと、どちらにせよ彼女との秘密を守るという行為に変わりはない。

恋人の存在を利用してこちらの愛を測り試している。非常に冒涜的行為だ。だから、あなたには本来の恋人が必要なのだ。咬ませ犬として。栞子の愛の可視化装置として必要不可欠な存在なのだ。

そんな甘美で背徳的な秘密の共有を【”日々”】と呼んでいる。「他愛もない日々」も2人だけの秘密があればそれは「誰にも言えない”日々”」即ち特別となる。
あまつさえただ、それだけで幸せなのだと。とんでもない女だ。一体何を持ってして【ただそれだけで幸せです】だとか【それ以上何もいらないの】などと言っているのだろうか。
栞子からしたらそれはもう幸せでにこにこだろうが。いや、栞子が幸せならそれでいいか、いいな。秘密を秘密で貫き通そう。
秘匿の中にだけ、「咬福」は存在するのだから。

幸せです

「秘密」とは隠す者がいて初めて生まれる。だから暴こうとされないよう秘密の存在を秘匿し続けなければならない。なので本来、こういったものは人しれないところでこっそりと背徳的に行うものだ。
それをなんだこの三船栞子という女は。わざと”隠さなければ見つかる”程度の痕を残し、隠させる行為から愛を感じるとは。

しかし妙にしっくりくる。ここにはギャップも存在する。虹ヶ咲で一番真面目で”そういうこと”しなさそうな栞子だから、という力がある。はにかみながら「じゃあ反省文でも書きましょうか?」とか言ってきそう。
それに咬み痕という要素を八重歯持ちの栞子に当ててくるのは流石に素晴らしい。八重歯には首筋を咬ませろとは世界の約束。
【運命の赤い糸】という少女性を投げ捨てて目に見える痕だけを重視している現実的な面も実に良く合っている。

一見すると栞子のイメージからは遠い雰囲気を感じさせるが、ちゃんと読み解けばしっかりと彼女らしさが存在している。歌詞の雰囲気も真面目でよく似合っている。
なるほど、こういう栞子もありなんだなと。可能性の広がりを大いに感じた。

さて、締めくくりにこそ相応しい最後のフレーズの話をしよう。

言葉にしたいの 幸せです

咬福論/三船栞子(小泉萌香)

このフレーズをどう解釈する? 誰に向かって言葉にしたいのだと考える?
あなたに向かって、この関係性が幸せだと伝えたいという言葉なのか。それともあなたの恋人に向けて、この関係がバレないようにあなたにだけがその意味が伝わるように言葉にしたいという意味だろうか。あるいは一人口にして幸せを噛み締めたいのだろうか。
私はこの言葉の解釈にこそ、各々の【咬福論】への読み解きが宿ると信じている。
秘密を共有するだけで幸せだと言っていた栞子がなぜ最後に「言葉にしたい」と言ったのか。その真意は噛み締めか、秘密の破壊か。
どちらにせよ最後の最後にとんでもない考察の余地を投げてきたのがこのフレーズだ。実に悪魔的だ。そしてこの解釈に更に付け足さなければならないものがある。それは「四つ葉のクローバー」についてだ。

リリックビデオにおけるこの衣装、四つ葉のクローバーを持っている。
クローバーの4枚の葉にはそれぞれ「誠実」「希望」「愛」「幸運」が宿る。
この衣装、色合いとデザインから栞子もまた1枚のクローバーに見えないだろうか。そうすると不幸を示唆する5つ葉のクローバーへと変わる。

そして、クローバーの5枚目には「悪魔」が宿る。これが【咬福論】における栞子を現している。ここにおける栞子は自分の幸福のために他者を不幸へ落とす悪魔だ。
だから耐え難いほどに魅力的で心惹かれる。罪の味こそ甘美なものよ。

なので先の話、私の解釈は2つ目だ。
ああ、あなたの恋人に向けて言ってあげたい。幸せです、と。あなたのおかげで私は2人だけの秘密を共有して愛を実感出来ていますと。
その言葉と共にとっさに首筋を触ってしまう私を見て、また穏やかに微笑む栞子。その時間、2人だけの世界が幸せの全て。
だからこそ、この関係と幸せを壊したくない。壊すわけにはいかない。

こっそり、本当にこっそりとそんな栞子からの愛を確かめる行為に応えたい。2人だけ、俺達だけにしか分からない。一瞬のアイコンタクトと笑顔だけで、全てを伝えたい。

─────内緒だ、って。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?