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2019年邦楽ベストアルバム20枚(10→1)

20位から11位までの記事はこちら



前回の記事からの続きです。10位から1位まで。
文中に書いてある他のアーティストには動画にリンク(下線がついてるやつ)が貼ってあります。

10. lyrical school「BE KIND REWIND」

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2010年結成、アイドル界において独自の地位を築いているヒップホップアイドルグループ、lyrical school(リリカルスクール)によるメジャー後初のアルバム。
タイトルの「BE KIND REWIND」は「巻き戻してご返却ください」という意味の磁気テープ形式の記録媒体(VHSやカセットテープなど)のレンタル品に付記された注意書き。

"特番(special program)"と銘打たれた1曲目や中途に導入されたCM、エンディングトークまで配置された構成からある架空の番組のコンセプトを取ったであろう本作は、"ドゥワチャライク"や"LOVE TOGETHER RAP"などのアッパーなナンバーが前半に固まり、後半には"大人になっても"や"LAST DANCE"など本作のコンセプトを象徴するような楽曲群が並んでいます。
2020年で結成10年目を迎えるリリスクはまさに青春時代をアイドルとして過ごしており、今まさに大人になりつつある世代です。そのため、思い出を回顧する歌詞が全編に渡って展開されており、大人になるためのイニシエーション的な内容とも取れます。特に、印象的なキーボードから始まる"大人になっても"は歌詞に「モバゲー」や「ノマノマイェイ」、「タキシード仮面」などの用語が散りばめられた20代を直撃する涙腺崩壊曲となっており、2019年に聞いた曲でも個人的にトップクラスの名曲。
ただの回顧録となっていないところに肝があり、あくまでもこれからの未来を見据えた希望と決意が感じられます。クレヨンしんちゃん映画の名作「オトナ帝国」にも通じる永遠のテーマ性を持ったガールズラップの名盤です。

Favorite song: 大人になっても


9. 集団行動「SUPER MUSIC」

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元相対性理論の真部脩一氏を中心に結成されたポップロックバンドによる3rdアルバム。

集団行動を聞いていると、どうしても相対性理論の影がちらついてしまうんですが、もはや別物と考えた方がいいですね。
相対性理論的な言葉遊びは取り入れられているものの、ボーカルがやくしまるえつこ氏ではないからか際立って主張されることはなく、楽曲との融和性が高くて心地よい。結成当初と比べるとボーカルも楽曲によって歌い方を変えたりと腕を上げてきているのも好印象。真部氏も、アヴァンギャルドな音楽性で話題のVampilliaなどの経験が生かされているのか、どこかふっきれたようなソングライティングをしているように思います。
全体としては相対性理論「TOWN AGE」のようなバリエーションのある曲たちが並んでいて、郷愁を誘う"1999"やコミカルなP-MODEL(平沢進)ライクな"テレビジョン"、往年のファン必聴な"ザ・クレーター"など個性的な曲ばかりでとても楽しいアルバムです。

Favorite song: 1999


8. カネコアヤノ「燦々」

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横浜出身のシンガーソングライター・カネコアヤノによる、第12回CDショップ大賞2020にも選ばれた4thアルバム。

ほんのひとときの日常を切り取った等身大の歌詞と気だるげで素朴だけど力のこもった歌声でじわじわと知名度を上げている彼女の渾身の一枚だと思います。まるで柔らかな日差しがそそぐ休日の朝に布団にもぐって微睡んでいるときのサウンドトラックのような親密感。等身大といっても全部が全部でなく演出にも趣向が凝らされていて、"ごめんね"では、それまで心地の良いハネるようなリズムのドラムに乗ってなにかを伝えるでもなくただメロディに声を乗せるように歌っていたのに、サビでリズム変化すると共に急に感情がダイレクトに流れてくるような錯覚をおぼえます。"ぼくら花束みたいに寄り添って"では4拍と3拍を効果的に使い分けながらも穏やかな日常を表現する歌詞が素晴らしいです。
個人的にカネコアヤノと吉澤嘉代子は唯一無二のシンガーソングライターだと思いますね。(かよちゃんとは大学の学部の同級生なのはちょっとした自慢)

Favorite song: セゾン


7. Indigo la End「濡れゆく私小説」

濡れゆく私小説

今や売れっ子となったコンポーザー・川谷絵音擁するロックバンド、Indigo la End(インディゴ・ラ・エンド)によるメジャー5thアルバム。

単純に良い曲しか収録されていません。売れっ子となった今でもこんなにもピュアな曲を書くその天才的なセンスを惜しげもなく投入しているのに、あどけなさが残る曲調や言い訳めいた女々しさの中に繊細な言葉遣いが感じられる歌詞など、あくまでも隣でさりげなく寄り添っていてくれるような愛らしい要素が見え隠れしています。
"はにかんでしまった夏"などの過去のインディーロック調の曲もあり、"ラッパーの涙"ではタイトルになぞらえてファンクなリズムを押し出した個性が光るものとなっているし、「80年代歌謡曲を意識した」との絵音氏の言を体現した"心の実"や"秋雨の降り方がいじらしい"などのナンバーのサビメロの良さは随一です。

Favorite song: 秋雨の降り方がいじらしい


6. King Gnu「Sympa」

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2019年、最も飛躍したアーティストであるKing Gnu(キング・ヌー)による爆売れ前夜にリリースされた2ndアルバム。

アロマディフューザー、間接照明、うっすらとかかるKing Gnu、これが女の子を部屋に呼んだときに確実に落とすことができる三種の神器だったわけですが、King Gnuが超有名になってしまった今、女の子から「今さらKing Gnuでセンス見せつけようってわけじゃねえだろうなアァ?!」とすごい剣幕で幻滅されるようになってしまった。どうしよう。というお悩みが全国から聞こえてきそうですね。
数多のジャンルをぎゅっとしてKing Gnuなりに解釈しましたってな感じで、現代のポップミュージックとしてこのバカかっけえ音楽が世に認知されるってのは非常に意義のあることだと思います。

Favorite song: Prayer X


5. maison book girl「海と宇宙の子供たち」

海と宇宙の子供たち

元BiSやミスiDファイナリストのメンバー擁するアイドルグループ、maison book girl(メゾンブックガール、略称"ブクガ")によるメジャー3rdアルバム。

アイドル界は大きく、ハロプロやAKB・坂道系、スターダスト系列の正統派アイドルの流れと、WACK系やゆるめるモ!CY8ER等のアーティスト型アイドルの流れの二つに分かれます。前者はメジャーシーンへ行くなど一般認知度も高くなり、後者は他の文化と密な関係性になりやすくコアなファンや音楽関係者への注目度も高いです。ブクガはメジャー進出していますが後者の範疇になります。
楽曲を聞けば芸術としての音楽への指向性があるのは間違いなく、しかも変拍子やミニマルな音遣いを多用する前衛的な作風で知られており、それをアイドルで、しかも非常に高いレベルでやってのけているという驚きがあります。しかしこのアルバムはブクガとしての変則的な味わいは残しながらも歌を聞かせることに重点が置かれており聞きやすい。楽器部分だけ聞くとLITEなどのポストロックを感じますが、彼女らの歌声を聞くと「歌モノ」として聞けてしまうのが不思議で何回もリピートしてしまう中毒性があります。

Favorite song: ノーワンダーランド


4. For Tracy Hyde「New Young City」

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かつてはラブリーサマーちゃんも在籍していた、シューゲイザー/オルタナティブロックバンド、For Tracy Hyde(フォー・トレイシー・ハイド)による3rdフルアルバム。

再生ボタンを押した直後から甘酸っぱい青春の思い出を凝縮したような音世界が広がります。
オープナーの軽いジングルから始まり、そのまま流れるように"繋ぐ日の青"へと入る構成がまずすごくて、一気に世界観に引き込まれます。思わずパスピエの"名前のない鳥""ON THE AIR"などを思い出すほど、胸が苦しくなるようなメロディが素晴らしすぎます。
その後も優しい轟音に包まれたシューゲイズの表現力と、どこまでもまっすぐな美しい旋律が多幸感に溢れていて感動しっぱなしでした。今作からトリプルギター編成になったことで全体的にオルタナロックのような疾走感が生まれており、他のシューゲイザーに見られる集中して聞かせるような轟音の度合いは控えめ。そのため、シューゲイザー知らない人もなんなく聞けると思います。約1時間、幸せな夢を見ているような気持ちになれるドリームポップの名盤。

Favorite song: ハッピーアイスクリーム


3. ずっと真夜中でいいのに。「潜潜話」

潜潜話

2018年よりネットを中心に活動する覆面バンド。新人とは思えないくらいの卓抜した楽曲センスと演奏技術から一躍人気となりました。略称は「ずとまよ」。

ピアノを主体としたダンスロックは数あれど、一聴して覚えられるフックのあるメロディと緩急のついた展開、そして楽曲を彩るキャッチーなACAねの歌声が素晴らしいです。ネット発のアーティストはともすればボカロ的だったりアニソン寄りだったりしますが、ずとまよの音楽性はあくまでポップロックとして表現されているのが見事で、且つ言語感覚はラノベ的でアイキャッチとして申し分ない話題性も十分。まるでseven oopsのような伸びやかな歌メロとテスラは泣かない。のような鍵盤の音色など、それまでの既存のバンドサウンドやネット文化を再構築したような感覚を持つのは果たして意図的なのかそうでないのかわかりませんが、楽曲に漂うそこはかとない恣意性が才能という他なく、否が応にも新時代の予感をビシビシ感じてしまいます。

Favorite song: 勘冴えて悔しいわ


2. 長谷川白紙「エアにに」

エアにに

現役音大生のシンガーソングライター・長谷川白紙による1stフルアルバム。

はじめて聞いたときの衝撃は間違いなく2019年の中で一番でした。
ロック、ジャズ、エレクトロニカ、現代音楽に至るまでのエッセンスをハイセンスにまとめ上げ、彼にしか作れない芸術とも呼ぶべき音楽になっているのがすごい。"o(__*)"のバックに流れるのはハードコアテクノ的だし"蕊のパーティ"はアシッドジャズの感触を受ける。一つのアルバムでいくつもの顔を見せてくれるおもちゃ箱のような楽しさがある。さらに、インストでも全然聞けるのにそこに浮遊感あふれる詩情溢れるリリックが乗っていて、不思議な旋律でもって歌われているのがさらにすごい。
小説の世界でも舞城王太郎や古野まほろ、酉島伝法のように独自の言語感覚、世界観を持っている方々がいるが、長谷川白紙氏もそのような文脈で語られるようになっていくのだなぁと思う。

Favorite song: 山が見える


1. Tempalay「21世紀より愛をこめて」

21世紀より愛をこめて

インディ界を席巻するサイケデリックロックバンド、Tempalay(テンパレイ)による3rdフルアルバム。

2019年、日本は新時代に突入しました。新しい時代になったからといって問題が山積みのこの社会がどうなるのかは誰にもわからないけど、とりあえず過ぎ去った時代に「おつかれ」を言うとしたらこのアルバムに思いを馳せるのが正解なのかもしれない。
変な音鳴ってるし、変な雰囲気漂ってるし、一言で言えば変な音楽なんだけど、今の混沌とした社会に妙に合っていて、それでいて達観した目線で世の中を見ている感覚がすごく愛おしい。音楽性はサイケデリックロックなのに新しいと思わされてしまう中毒性があって、それはリズムだったりエフェクトのかかった歌声だったり洗練されたローファイな音像だったりがあるんですけど、ハマると抜け出せないというよりあちらの世界に行ったきり戻ってこれないみたいなちょっとした恐ろしさみたいなものも感じられてゾワっとしますね。
まだライブ見たことないんですけれど、オールナイト的なイベントで酒入った頭のまま彼らのライブを見ちゃうとマジでほんとに脳イッちゃうじゃないかと思いますね。

Favorite song: そなちね


田南全斗's 邦楽ベストアルバム20

1. Tempalay 「21世紀より愛をこめて」
2. 長谷川白紙 「エアにに」
3. ずっと真夜中でいいのに。「潜潜話」
4. For Tracy Hyde 「New Young City」
5. maison book girl 「海と宇宙の子供たち」
6. King Gnu 「Sympa」
7. Indigo la End 「濡れゆく私小説」
8. カネコアヤノ 「燦々」
9. 集団行動 「SUPER MUSIC」
10. lyrical school 「BE KIND REWIND」
11. サカナクション 「834.194」
12. あいみょん 「瞬間的シックスセンス」
13. パソコン音楽クラブ 「Night Flow」
14. tipToe.「daydream」
15. CYNHN 「タブラチュア」
16. Dos Monos 「Dos City」
17. Suchmos 「THE ANYMAL」
18. クマリデパート 「ココデパ!」
19. sora tob sakana 「World Fragment Tour」
20. パスピエ 「more humor」



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