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少年と青年の狭間だって愛せるさ "Converse"

大切な人へ手紙を書く時でさえ、ダラダラ先延ばししてしまうような僕なのに、よく毎回毎回辛抱強く頑張っているな。って自分を褒めてやりたいよ。
一行書き出してしまえば、その先は意外とスラスラと書き出せてしまうのにな。伝えたい想いは確かにあるのに、それを伝えるきっかけを踏み出すのってけっこう楽じゃなくて。だから「音楽」や「歌」でなら伝えられるかなと思ってバンドをやってるんだなって再確認したりする。

 3月に、ひとりぼっちで福島・郡山に行った。別に隠してたわけじゃないけど、父親の仕事の都合で生まれてからの幼少期を過ごした町。「自分探しの旅」なんてするようなやつのこと、「”自分”なんてのはいつだって自分の中にしかないんだから何処かに探しに行くものじゃねーヨ!」ってずっとバカにしてるんだけど。ある日思い立って朝から電車に揺られて北へ向かった。
 着いて二時間で、思い出がないことに気づいてしまった。まあ暮らしてた頃が幼すぎて思い出が残るほどじゃなかったのと、20年近くも経って街並みが変わってしまっていたのが半分ずつ。一家が暮らしていたアパートを探す。記憶の中の名前とGoogle Mapを頼りに。3月の郡山の激しい雨風は、人生初めての花粉症を発症させるのに十分すぎるほど。痒む瞼から涙を流しながらウロウロ歩いていると、公園を発見した。
 ここではじめて、ふと幼少の記憶がよみがえった。あのすべり台の上に登って、誰かの歌手の真似をして歌ってたな。あの頃からステージみたいに見下ろして歌うのが好きだったんだな。でも体が弱い子供ですぐに熱を出してたっけな、とか。その一瞬は、今の自分の腰ぐらいまでしか背丈のなかった少年と、再会できたような気がした。
都会の喧騒にいつもさらされ続けて、知らず知らずのうちに「帰ってゆける場所」をオレは探していたんだろうな。でも自分にはそんなものは無いんだな、ということを帰り道に悟った。まあ友人の福島出身・水上には「おまえは数年しか過ごしてないんだから福島出身を名乗るな」と叱られ続けてきたので、良かったんだけど笑

前置きが長くなりました。
Kamisadoの新しい曲”Converse”が4月12日にリリースされました。みなさんもう聴いてくれたかな?今回の楽曲は3か月連続でリリースしてきたシングルの最後の曲です。これが出て、なんだか落ち着かなかった気持ちもひと段落ついたようです。今日も楽曲についてアレコレ話していくよ。

楽曲のこと

この曲は平野が書いてきた曲で、今回出した3曲のなかで一番最初に作った。去年の6月に”our city dawning”というミニアルバムを出して、それに合わせた各地でのライブを終えた9月ごろのこと。またいつものように軽めな(でも大部分は作られた)デモが送られてきたんだ。

「サビのキー高すぎない??」が第一印象だった。いや、でも初めてスタジオで合わせたときは本当にのど外れそうだったんだよ。じゃあキーを下げるかってことにすると今度は低いメロディが出なくなるので結局元のままで出発。はじめ僕はこの曲をステージで歌いこなせる気がしなかったよ。だけど、ライブを重ねるごとに難しい歌って歌えてくるものなんだな。今はそんな死にそうになるほどじゃない。楽でもないけどね。みんな一緒にこの歌を歌ってみてほしいよ、声帯外れそうになるよ?

歌の話しかしてないな、、、
僕が一番好きなのは、ギターソロが終わってから次のサビに行くまでのセクション。歌詞でいうと「視界を横切る~僕らは叫んでる」のあたり。ドラムのパターンで徐々に熱を帯びていくフィーリングがうまく出せたかな、と思っています。

レコーディングの時の話をすると、今回の3曲は3日ぐらいかけて同時に録音したんだけど”Converse”のサウンドが一番うまくいったなあ。ギターの音がいいね。みんながイメージするKamisadoのサウンドってきっとこういうのなんだろうなって勝手に思っている。



この歌のテーマはなにかと問われると、「成長」です、と答えよう。
平野君がこの曲について書いた文章があるから、まずはそれを引用してみよう。

「成長とは何なのだろう。歳をとるごとに成長した気になって、でも思っていたほどは成長していない現実を突きつけられてがっかりしていた子供の頃。どこまでが子供でどこからが大人なのかはわからないけれど、そんな未熟だった年頃は、思えば特別な瞬間でした。
この曲は、そんなモラトリアムを振り返りながら、愛してやまない『フリクリ』をテーマにして書きました。どう言葉にしていいのか分からない苛立ちやドキドキを抱えていた幼い自分を、全てひっくるめて開き直って愛すことはとても尊いことで、今だからこそできること。『フリクリ』と同じように、甘酸っぱい思い出に少しでも色をつけられたら嬉しいです。」


「成長」ってなんだろうって僕も思う。
これも自分探しとおんなじで、努力して手に入れるものとかではなく、気づいたら成長してるものなんじゃないかなって思ったりもする。歩いてきた道をいつか振り返るときに、幼かった日々と自分の現在地を照らし合わせる感じというか。「絶対に成長しなきゃ」って意気込んで頑張るほうがむしろ青臭いんじゃないか、とかいろいろ思ったりもするけど。
 ただ、現代社会は僕みたいに悠長にかまえていられるほど甘くもないらしい。誰もが通り過ぎていく「モラトリアム」の制限時間は確実に存在する。学生気分のまま社会人になっても、年齢だけ重ねていくだけだし。結婚したり家庭を持ったりしても、立派な大人になれたとは言えるわけではない。だけどいつのまにか周りから「大人」のレッテルを貼られて、それらしく振舞うことに流れていくこともあるだろう。

だからこそ。とりあえずは、自分自身をしっかりと抱えたまま一歩、踏み出せるような、そんな歌を贈ろうと僕らは思うわけだ。

過去に美しい想い出を見ていて、なかなか現在や未来に目を向けられない人もいるだろう。もしかしたら美しい想い出だけじゃないかもしれない。心を、魂を、半永久的に繋ぎ止めて離さない過去のさまざまな瞬間。痛い、冷たい、記憶の破片たち。
僕らはそれぞれの人生の中で、それらを完全に吹き消すことはできないとしても、甘くほろ苦い過ぎた幻想と自分自身でケリをつける必要がいつかはあって。だからこそ、「僕を彩る全て 壊したくてたまらない 幼さってくだらない」とまで言い切ってしまう必要に駆られたんだよね。
最近になって、この歌が自分自身にもより響くんだ。きっとその短い旅をした中で幼い日の自分を見つけて、そしてまた見えなくなってしまった、その時の感情がとてもこの歌とリンクしたんだ。
この歌をステージで歌うとき、とても熱がこもる。

まあ、平野君がこんな風に考えて書いたのかはわからないけれどね。でも彼は僕より1歳年上なので、少し見える景色が先を行ってるのかもなあって思ったりするんだ。

「フリクリ」というアニメについて。これはアニメをこよなく愛好する平野の世界だからこそ出てきたなっていうイメージで。もう20年以上前に作られた作品なんだけど、サウンドトラックを僕らが愛してやまないthe pillowsが担当していて、いまだに海外からの評価も高いアニメです。
だから今回のMVは特に、オレらなりに「フリクリ」をオマージュ…ってほどでもないんだけど…まぁ、インスパイアされて作ったんです。アニメを知っていれば「アッ」ってなるポイントがいくつか出てくるのではないかな。映像の仕上がりも含めて今まで作ったMVの中でもかなり気に入っています(ちなみに石川が一番好きなのは「ハイウェイ」です)。
今回も皆様ズパラダイスさんにお願いしました。いろんな小物を買い込んで、みんなで遊んでる姿とかを撮影してたらあっという間に完成してしまった!いつも仕事が早すぎて惚れ惚れします。ありがとうございました。

そして今回もSpotifyでプレイリスト掲載しました。セレクトは神保くんです。まあ平野・石川とくれば3人目はね。チラッと見たけれど「こんなのも聴くんだ」ってオレも驚いたりしたのでみなさんもぜひチェックしてみてください!(せっかくなんだから自分からコメントしてもいいのにね~Twitterもめったにしゃべらないし)

3か月連続で新曲を発表するというプロジェクトもひとまず今回で終わりを迎えます。

毎月楽しみにしていてくれた人、いつもありがとう。
今回初めて僕らを知った人、見つけてくれてありがとう。もし気が合えばこれからもよろしく。
前に出した曲のほうが好きだという人、またあなたが気に入る曲がいつか生まれるかもしれないからそれまで待っててね。

この間の週末に出演したサーキットイベント、楽しかったな!
最近は前よりも少しずつライブのオーディエンスとのコミュニケーションを楽しめるようになってきた。
信じれば少しずつでも、僕の想いが、「白夜」という歌でオレが繰り返し願った想いが、ステージの向こうのみんなに伝わっているという確信が持てるようになってきた。
まだまだこれからだよなあってね。

バンドを維持するのは難しい、とよく言われる。春は別れの季節とはよく言ったもので、身近ではさまざまな別れが僕を通り過ぎていった。僕たちKamisadoというバンドは、みんなそれぞれ子供っぽいところも大人な部分もあって、そういつも丸く収まるわけでもないのだけれど、お互いに転がりあって進んでいければいいなって思う。それを「成長」と呼ぶのなら、今はそれを楽しめそうだな。

終わってゆく美しさより、泥だらけでも続いてゆく美しさに愛を込めて。





今回リリースしたほかの楽曲についても書いています。よかったら読んでみてください。




去年のミニアルバムについて書いたシリーズもよかったら覗いてみてください。


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