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ブラジル音楽が大好き!② Flaviola E O Bando Do Sol/Flaviola E O Bando Do Sol

まず、このアーティストを知るきっかけとなったのが某CDショップでジャケ買いしたブラジルはペルナンブコ州出身のサイケ系アーティストをまとめたコンピ盤「Psychedelic Pernambuco」に収録されていたものを聴いたことからである。このコンピの2曲目に収録されているこのバンドの「O Tempo」を聴いたとき、自然的で神秘的な雰囲気に一気に引き込まれた。

このアルバム自体もそこそこレアだったようで、目を血眼にしてネット中探しようやく手にしたのであった。

このアルバムについて

バンド名からわかる通り、ボーカルとギターのFlaviolaを中心としたバンドで、直訳するなら「フラヴィオラと太陽のバンド」。このアルバムはそのバンドの唯一作である。

ブラジルでオリジナル盤が発売されたのは1974年ごろで、「Solar」と呼ばれるペルナンブコのインディーレーベルから発売されたらしい。このレーベルは他にもLula CortesやMarconi Notaroなどのブラジルサイケを追う人なら恐らく知っているアーティストがここからLPを発売していたそうな。今作ではLula Cortesも演奏や作詩で割と大部分で参加しており、他にもこのレーベル周りのアーティストが参加しておりそれぞれが関連深いアルバムになっている。

曲ごとの感想

M1 Canto Funebre (Abertura)

オープニングはインスト曲から始まる。
フルートを中心とした不穏な雰囲気漂う演奏は、聴く人を深い夜のようなアルバムの世界観に一気に引き込ませる。

アウトロでの水の音や不気味なギターの音などのコラージュが非常にサイケデリックで、森の遠くから正体も分からない動物の声が聞こえてくるかのようだ。クレジットによればFlaviolaがタバコやグラス、スプレーなど身近なものを鳴らした音をサンプリングしているらしい。

M2 O Tempo

コンピ盤に収録され、私をブラジルサイケの沼に一気に突き落とした大名曲。「Tempo」とは時間を意味しており、普段でもよく使う「テンポ」の語源か。
前曲のサイケデリックなアウトロからつながるように時計の針の音が聞こえ、そこからの鳴り響くフルートで一気に気分は森の深くへとトリップする。諸行無常を感じさせる歌詞も切なくていい。

これだけ深遠な世界観を感じさせるのに演奏時間が2分にも満たないというのが凄すぎる。煙に巻くかのようなフルートですぐに終わってしまうのが、突然置いて行かれたような気分になる。

M3 Noite

この曲の歌詞はシェイクスピアのハムレットから引用した詩で、「Noite」は夜の意味。フルートの演奏が、草木も眠る静かな夜の雰囲気をこれでもかと出ている。

Lulaはここではトリコーディオと呼ばれるマンドリンの12弦版のような楽器を弾いており、ステレオの右で聞こえるやや目立つギターっぽいのがそれ。
間奏のギターソロもアシッドな雰囲気が出ていて良い。

M4 Desespero

こちらも「Psychedelic Pernambuco」に収録されていた曲で、突然の明るい曲調に驚く。そして、曲調に反して「絶望」という意味のシリアスなタイトルだったことにも驚いた。
「すべてが空っぽで静か」「私の心は絶望でいっぱいだ」だという内容の歌詞をこんな明るい曲調で、しかも女性コーラスをつけて歌うのがまた意味深で色々と想像させられる。

M5 Cancao De Outono

インド的なエスニックな音から始まる、寂しさを感じさせる曲調がたまらない。こちらも演奏時間が1分半ほどしかなくあっという間に終わってしまうが、サビのような部分があって短いながら緩急があって聴きごたえがある。

ちなみにイントロの楽器はダルシマーという楽器で、Lulaが演奏しているものである。メジャーどころではローリングストーンズの「Lady Jane」などでブライアンジョーンズが演奏しており、ちょっとだけ有名な楽器である。

M6 Do Amigo

Flaviolaの弾き語りに、LulaのダルシマーとPaulo Raphaelのエレキギターがオブリガードで入る比較的簡素なアレンジの曲。
「友人へ」という意味のタイトルが指すように友人に向けた感謝を伝えるといった内容の歌詞で、静かながら優しく歌うボーカルが心地よい。

M7 Brihante Estrela

バンドのギターであるRobertinhoが作曲したインスト。アルバムの中盤という事もあり良い箸休めになっている。
アルペジオによるギターとフルートのみとこちらもシンプルな演奏でありながら、エスニックなメロディのフルートがとても印象に残って好き。

M8 Como Os Bois

Flaviolaの弾き語りのみの曲で1分ほどしかないのであっという間に終わる。優しく語り掛けるようなボーカルがとてもいい。歌詞はLula Cortes著「Livro Das Transformacoes」からの引用による曲。

M9 Palavras

これ以降の曲は打って変わって明るい曲が続く。この曲の詩はHenriqueta Lisboaというブラジル本国での文学賞に受賞されるなどの有名な作家の詩から引用したものであり、A面の「Noite」同様、彼の文学好きぶりが分かる曲。アタック感の強いLulaのダルシマー演奏が印象に残る。

M10 Balalaica

サンバを思わせるギターの跳ねるリズムが楽しい曲。ボーカルもシャウトが入り、テンションが着実に上がっていっている。聴いている以上に色んな楽器が入っているようで、バンジョーやクイーカなど様々なものが使われている。

M11 Olhas

こちらもFlaviolaの弾き語りのみの曲で、非常に短い。こちらもLula Cortes著「Livro Das Transformacoes」からの引用による曲。

M12 Romance Da Lua Lua

「月のロマンス」という意味のタイトルで、明るい月の下踊っているような画を想像できるような楽し気な曲。この曲でもフルートはイントロといい重要なポジションにいるように感じる。

M13 Asas (Pra Que Te Quero?)

大団円といった楽し気なラスト曲。リズミカルなパーカッションに目立つエレキギター、コーラスと盛り上がる要素をこれでもかと入れていてもはや今作の中では浮き気味ですらある明るさ。急いでいるみたいな早口なボーカルもみょうちきりんさが増している。

まとめ

全体的にLula Cortesが演奏面で参加しており、その他Solar周辺のアーティストも参加していることからかなりLulaの作品に近い雰囲気が漂っている。今作の二年前にはLulaが「Paebiru」という傑作を発売しており、こちらとよく並んで紹介されることも多い。

今作はやはりハムレットや小説からの引用をした曲が多いため、内省的で文学的な歌詞と、それに近づいた落ち着いたアコースティックな演奏が特徴的。クイーカやボンゴなどのブラジルらしいパーカッションだけやダルシマーやバンジョーなど様々な楽器を曲によって使い分けているのも、エスニックな雰囲気があるし世界観を大事にしている感じがしてとても好き。
黒を基調としたジャケもあってか今作のイメージは深夜や森の奥深くを連想する。特にサイケデリックな1曲目からのA面の流れは非常に内省的でメロディアスで、そこにFlaviolaの深い低音のボーカルがとても合う。私はここが今作の中で非常にハマったポイントである。夜中に聴いたなら今作の世界観に更にどっぷりと浸かることができるだろう。

一方でB面では最初こそA面の雰囲気を継いだアコースティックな曲があるものの明るい曲が続く構成も意外性があって面白かった。最初は夜中だったのに段々と夜が明けて朝が来たというイメージを感じた。でも最後の曲だけちょっとはっちゃけすぎじゃない?ってくらい明るいのでやや場違いかもしれない。

とはいえ、A面の「O Tempo」は短いながらもとても良い名曲。この曲の為だけでも良さを広めたいような、とにかく色んな人に良さが伝わってほしいマイナー名盤である。


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