ブラジル音楽のディグが止まらない ...または最近見つけたブラジル音楽の隠れた名盤10選

あけましておめでとうございます。

一昨年ごろから自分の中でずっとブームが止まらないブラジル音楽だが、最近は様々なディグりの手段が増えたことでより様々な名盤に出会うことができた。
ブラジルにはこんなにも良い名盤が多いことを、一人でも多くの人に共有がしたいためこの記事ではディグに使ったメディアとそれらで出会ったアルバムの中から10枚紹介したいと思う。なお今回はかなり選盤がサイケに偏っているためその点のみご留意いただきたい。

ブラジル音楽のディグに使った手段

①ムジカ・ロコムンド1,2

ブラジル音楽の定番ディスクガイド。MPB、SSw、ボサノバなどのジャンルに分けてアルバムが記載されているのでとても見やすく、定番どころから未だにCDやサブスクでも聴けないレアなアルバムまで余すところなく紹介されている。1冊だけでも十分ボリュームがあるが、これが2冊分ともなると相当な量のアルバムが紹介されている。

このディスクガイドが発行されたのは1が2000年、続編の2が2002年であり、インターネットも普及しきっておらず情報が限られている中でここまで隅々までアルバムを紹介している所に編集部の深いブラジル音楽愛を感じる。このシリーズの二冊があれば今後数年はディグに困らないであろう名ディスクガイドだ。

②YouTube

こちらは用途によってはグレーな手段ともなりえるが、アルバム名を検索するとアルバムの曲をすぐに聴くことができる。
更に聴き続ければYouTubeのAIが更に別のアルバムの動画を紹介してくれるため思いもよらぬ名盤に出会える可能性もある。

上記で用途によってはグレーだと伝えたが、実際ブラジルのアルバムは他のUS、UKのアルバムと違って未だに古い年代のアルバムだとCD化すらしておらず実物を入手することが困難なアルバムも非常に多いため(上記のムジカ・ロコムンドに載っている作品ですら入手困難なアルバムが多い)実質YouTubeで聴かざるを得ない場合が多々あるので、正直アルバムをアップしている人たちには感謝しかない…。

③Rate Your Music

音楽評論サイトで、最近でもみのミュージックなどあちこちで名前を見かけたことがあるであろうサイト。自分が聴いたアルバムの評価、レビューやリストを作れるなど今まで聴いてきた音楽をまとめることができるとても便利なサイトで、そのうちこのリストという機能は人が公開しているリストも閲覧することができる。
その中で特に重宝したのがとあるユーザーが公開しているブラジルサイケをまとめたリストで、そこから名盤に出会うこともできた。

最近見つけた良かったアルバム

Hugo Filho/Paraibo


The Gentlemenというバンドに在籍していたHugo Filhoが自主製作で出したとされるソロアルバム。
全体的にアコースティックで優しい雰囲気の作品となっており、自主製作らしい音質の粗さが逆に温かみがあるサウンドになっている。
その中でもファズやトレモロなどのギターが合わさってやんわりとサイケな風味もあって非常に好きなアルバムだった。
サブスク化されてはいないが、shadoksというワールドのサイケを扱っていたレーベルからCD化されていたため、やや入手難易度はやさしい方か…。

Nana, Nelson Angelo, Novelli/Nana, Nelson Angelo, Novelli


Nana Vasconcelos、Nelson Angelo、Novelliの三人のブラジル北東部出身のアーティストによるアルバムでほとんどの曲がインストで構成されている。
主にギターとパーカッションのみのかなりシンプルな楽器構成だが、その静けさや隙間の多さがとてもアシッドな感じで、ブラジル音楽らしい変則的なリズムもあってクセになる。アシッドフォークが好きな人におすすめしたい。
こちらもサブスクでは聴けないがNana Vasconcelosソロのアルバムと2IN1で発売された国内版が出ている。

Arthur Verocai/Arthur Verocai


レアグルーヴの名盤としての知名度も高い本作で、自分も前からその名前を知っていたものの聴いたのはかなり最近だった。
1曲目の物悲し気なギターのイントロから一気にアルバムの世界観に引き込まれる。インスト曲と歌ありの曲が半々という内容で全編通して非常にメロディアスで、甘いようで哀愁も時に感じるような、聴くたびに表情を変えるような不思議な雰囲気を持ったアルバムだと感じた。
アレンジも豪華すぎずミニマル過ぎない適度な少なさがまた、聴きやすさとかメロディの良さを引き立てていると思う。

Hareton Salvanini/S.P.73


Arthur Verocaiの上記のアルバムと発売した年が近いという事もあり何かと引き合いに出されるのが本作。
こちらもメロディックでインストと歌ありが半々という内容も確かにArthur Verocaiと作風が近いが、こちらはより深くダークでサイケ感がある内容である。Haretonのボーカルは深みのある低いボーカルなのがよりそういう印象を冠zさせるのかもしれない。今作を聴くなら確実に夜が良い。

Tuca/Meu Eu


65年発表。後年ではボサノバの名作であるNara Leaoの「Dez Anos Depois」で、全編でギターで参加しているアーティストのソロ1stというアルバム。
曲のほとんどがTuca自身の作曲によるもので、ムジカロコムンドでの解説にあるように、ボサノバにしては全体的に暗めでDez Anos Depoisの世界観にも似た雰囲気を持っている作品である。無機質で憂いを帯びたボーカルも正に自分好みの暗さのアルバムだ。

なお、Tucaは今までにアルバムを3枚リリースしているがCD化しているのは2作目のみで、今作と3作目は現在に至るまで一度もCD化もサブスク解禁もされていない。
当然レコードはかなり入手困難なため、激烈にCD化を推したい名盤である。

Som Imaginario/Som Imaginario[1970]


ミナス出身のサイケバンドで、同じくミナス出身のMilton Nascimentoとも繋がりがあり、71年のミルトンのアルバム「Milton」ではバックバンドで参加もしていたバンドである。
同時代のオルガンサイケらしいヘヴィーな演奏が特徴で、その中でたまに出てくるブラジル音楽的明るさがあるのが好き。

Modulo 1000/Nao Fale Com Paredes


Som Imaginarioとほぼ同時期に活動していたサイケバンドの唯一作で、こちらもオルガンが前面に出たヘヴィなサイケがたまらない。だが、こちらはSom Imaginarioよりも更にアングラで実験的な作風のように感じた。カラフルなSom Imaginarioのジャケと比べると、このホワイトアルバム的な無機質なジャケも正にそれぞれの志向の違いを感じさせる。

PexbaA/PexbaA


なんて読むのかわからないバンド名。こちらはYouTubeのおすすめから知った作品でこれまで紹介したアーティストと違って今作は2006年と比較的近い年代にリリースされた作品。
音楽性はかなり実験的な作風で、例えるなら「ブラジルのキャプテンビーフハート」とも言えそうな自由すぎる演奏が楽しいアルバムである。曲によってはふざけてるようにも感じる変な歌い方をしたり、変なフレーズや音が入っていたりとあまりにも突拍子のないアレンジが思わず笑えてしまうが、その時々で物凄くかっこいい瞬間が現れたりと中々侮れない。

また今作はトータルの収録時間も1時間とかなり長く、「いつまで続くんだろう…」という不安な気持ちにさせられるのもビーフハートのTrout Mask Repricaを彷彿とさせる。

V.A./Posicoes


ムジカ・ロコムンドにも記載されていた作品で、ジャケを見たときからそのそのサイケ臭に一目惚れした。
複数のアーティストの曲が収録されたコンピレーションのEPであり、上で紹介したModulo 1000、Som Imaginarioのほか、Joyce、Toninho Horta、Nelson Angelo、Novelliと豪華メンバーが参加していた「Tribo」というバンド、そして今作と2枚のシングルしか出していない謎多きバンド「Equipe Mercado」の4組の曲が収録されている。
コンピ盤とは思えないくらいそれぞれの曲の統一感が凄く、かなりダークでアングラなサイケアルバムが完成されている、特にSom Imaginarioの唯一参加した「A Nova Estrela」という曲は演奏時間も長めで、とても壮大なプログレフォークサイケを展開しておりとても圧巻である。

この中では一番最近に聴いたアルバムという事もありかなり気に入っているのだが、ここまでの名作が何故CD化もサブスク配信もされていないのだろうか。こちらも現物を入手するのは非常に困難な作品だ…。

Luli E Lucinha/Luli E Lucinha


LuliとLucinhaによるサイケフォークの名作。ジャケの雰囲気からも感じられるように浮遊感のあるメロディや音の薄さに、くらくらするほどに美しいハモリをする二人の歌声がとにかく幻想的で素晴らしい。時折入るフルートが本当にいい。蜃気楼のように儚い世界観は、Linda PerhacsのParallelogramsなどが好きな人は絶対好きだと思う。
未CD化、サブスク未解禁などの作品が多い中、今作は何故かサブスクは解禁されているので是非とも一聴してほしい名盤だ。

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