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ゆらゆら帝国②「ミーのカー」

アルバムについて

所持:済
好き度:★★★

1999年に発表されたゆら帝のメジャー2枚目のアルバム。別にこのアルバムに限った話ではないものの90年代末に出たアルバムは全部世紀末的な終末感を感じるのは、自分が後追いだからなのかもしれない。

前作よりも曲数も多く、よりガレージサイケ感が強い作風になっており、更にインディーズ時代の曲の再録もいくつか収録されたものになっている。

曲ごとの感想

01.うそが本当に

前作とは打って変わって静かな曲から始まるので違いにぎょっとしたのが初めて聴いた時の印象。シンプルな演奏とつぶやくようなボーカル、独特な世界観の歌詞が特徴で、正にオープニングという感じの曲。

02.ズックにロック

二枚目のシングルで、アルバムに先行して発売された。こちらもライブでよくやる定番曲で、セトリでは大体後半の盛り上げ役的な位置によくいたとか。
シンプルなコードの繰り返しだが、イントロなしでいきなり歌から入るという最初のかっこよさはもちろん、どんどん演奏のテンポが速くなり激しくなっていく構成が本当にかっこいい。これだけ激しくて焦燥感ある曲調なのに「俺はもうダメだ」と連呼するネガティブかつナンセンスな歌詞なのもギャップがあってシュール。

03.アーモンドのチョコレート

これまたシンプルなコードの繰り返しながらもとてもとっつきやすい曲。
シンプルな演奏の潔さも好きだが、特に触れたいのが歌詞。

1でキック 2でハイ 3でモーターの軸がバーン
4でカーブ 5で君がバーン
6、7、8、9で4人バーン

ここの歌詞が本当にすごい。数字を数えていく語感の気持ちよさもいいが笑っちゃうぐらいテンポよく理不尽な展開がすごくシュールで好き。

ちなみにこの曲も20周年記念の野音のライブでも恐らく久しぶりにこの曲が演奏されたのだが、大幅にアレンジされておりギターが終始シンプルなリフを繰り返すだけの後期の作風に合わせたミニマルな演奏を披露した。
DVDにも収録されており、初見ではあまりにも大胆なアレンジのせいで歌が入るまで新曲と勘違いするほどだった。

04.午前3時のファズギター

ゆら帝初期の中では屈指の怪曲。
静かな演奏かと思うと歌が終わった瞬間信じられないくらい歪んだバキバキのファズギターのソロが大音量で襲い掛かってくる。
またこの曲はミックスの極端さもその衝撃に一役買っていると思っており、前半の歌部分では片方だけにギターの音、もう片方にボーカルというかなり極端なパン振りをされていて、最初はそれにもビビるし(それに右側の坂本さんのボーカルがイヤホンだとちょっとくすぐったい)ギターソロのバカでかさにもビビる。ドラムやベースもかなり音量は抑えられており、バンドサウンドにこだわらないミックスで面白い。

短いながら聴くものに与える衝撃の大きな曲で、アイデア勝負なミックスといい前作の「つきぬけた」的なポジションなのかもしれない。

05.ボーンズ

ファズの暴力を抜けた先に置かれた静か目な歌もの。
意味深なタイトルや歌詞からは死を連想させられるので、のどかな曲調とは裏腹に結構退廃的な曲でもある。「今日から決して歳を取らない」「時計の役目は終わった」など時が止まってしまったようなフレーズから、誰かが死んでしまったのだろうか。

06.人間やめときな'99

インディーズ時代の割と初期からあった曲で、タイトルに「'99」と入っているように今作にあたって再録したものとなっている。シンプルなリフと重量感ある重たいドラムが特徴的。

そしてこの曲も歌詞がとても面白くて好きで、どこのフレーズをとっても意味が分からないしシュールでとても個性的。ロックバンドの曲で「でっかいおみやげをもらう夢を見た」なんて歌詞が入るのはゆら帝くらいだろう…。再録にあたって歌詞に特に手が加わってないところから坂本さんも気に入っているのかもしれない。

07.ハチとミツ

2分台の短めの曲だけどかなり好き。60’sガレージサイケの香りを強く感じる曲で、リフの雰囲気とかヒーカップを用いたボーカルからそれらの影響を感じさせる。暗喩を使ったエロめな歌詞もこの年代のサイケらしさがある。13th Floor Elevatorsの「You're Gonna Miss Me」やSeedsの「Pushin' Too Hard」あたりが似てる感じがする?それにしてもこのギターのフレーズを弾きながら歌う坂本さんが凄すぎる。

ちなみにゆら帝では珍しく転調する曲だったりする。

08.悪魔が僕を

なんとなくこの曲か前曲らへんからアルバムの後半戦といった感じがある。
この曲の特徴はギターかと聞き間違えるくらい歪んだベースか。全編を通してギターよりもフレーズがリードギターしていてとてもかっこいい。
そしてイントロや間奏などで聴けるゆら帝にしては珍しいくらいイカついギターが聴ける。

09.太陽のうそつき

この曲もインディーズ時代からある曲で、こちらも構成や歌詞はあまりインディーズからほぼ変わらないまま再録がされている。こちらも歌詞が秀逸で、なんか今日ついてるかもって気分の時にそれどころか不運を被ってしまった日はこの曲を思い出す。

演奏ではギターのカッティングの切れの良さがやっぱり良い。それとギターソロとかも耳に残るフレーズが出てきたりと、ギターに注目がついついいってしまう。

10.星ふたつ

アルバムも残り3曲でいよいよ終盤。しかしむしろここからがこのアルバムの真髄と言えるかもしれない。
この曲から長尺の曲が並び、この曲は7分台。かなりゆったりとしたバラードで、ほとんど一つのコード進行で進んでいく意外とシンプルな構成になっている。しかし、その切なさを感じる歌や場面ごとに微妙に違う演奏を魅せたりと単調に感じさせず結構曲の世界観に入り込んでいけてつるっと聴けてしまう。ディレイの深いギターもまどろんでしまうような甘い音で正にサイケって感じがする。深夜か夜明けくらいの時間に聴きたくなる。

エフェクトがかかって遠くから聞こえているかのようなボーカルや、キックやスネアなどアタックが大きいドラムを抜いたりとミックスにかなりの工夫も見られるので聞き入ってみるとまだ新たな発見があって面白い。終盤に向けてアコギやストリングスが入ってくるのもロマンチックなアレンジですごく好き。

数少ない2本のライブDVDではどちらの方にも収録されており、それだけメンバーが気に入っている曲なのかもしれない。片方は2001年の野音、もう片方は2009年の野音の映像でありそれぞれの演奏の変化を比べられるのも良い。しかも09年のライブでは一曲目で演奏されている。

11.19か20

なんだか全体的なリズムとか演奏がジミヘンの「Foxy Lady」を思い起こさせて、ルーツを感じさせる曲。ファズを使ったソロとかもジミヘンぽさがにじみ出ている。ここまで重たい感じの演奏も意外となかったりするので結構新鮮。

歌詞の難解さも良く語られる曲で、

「15で世界は光りだし 19か20で終わりそう」
「15で粒子は荒くなる 19か20で目が眩む」

どういう意味?
20を「はたち」と歌っているところから年齢の話なのは分かるが、未だにさっぱり。意味が全くないナンセンスでもそれはそれで別にいいけれども。

12.ミーのカー [Long Version]

最後にタイトル曲がやってくるわけだが、これが一番の問題作。なんてたって演奏時間が25分もある。アルバムのトータルの時間が約1時間12分ということを考えるとアルバムの約1/3はこの曲の時間となるわけでもある。

元々は先行シングル「ズックにロック」のカップリング曲として出てきたわけだが、それを更に更に引き延ばした内容となっている。イントロの入り方など歌の繰り返す回数などがカップリング版とは違っており、アルバム版は25分のうち半分がボーカルなしの三人でのアドリブ的なセッションとなっている。長い曲というのはフレーズの反復だったりが気持ちよくって案外好きなことも多いが、流石にここまで長いと結構聞き流してしまうことも多くて実はそこまで聴かなかったりする...。

記事を書くにあたって聞き返してみるとやっぱり面白いと思ったけれども。前半で多用される何かが近づいてくるような謎のSEだったり、後半のセッション部分からどんどんギターのディレイが深くなって浮遊感を感じる演奏になっていくのも、結局歌詞での主人公を追う何かに捕まってしまって、ついに宇宙を漂っているような、地上からどんどん離れて行ってしまうような、ストーリー性を感じられて好きになった。終わりの時に挿入されるSEもUFOっぽい。
ライブではイントロはアルバムバージョンで尺はシングル版だったりの二つの中間みたいなバージョンで演奏されることが多い。

ギターの不協和音を使った不気味なリフがとにかく印象的で、まるで何者かに追われているような不穏な歌詞とマッチしてかなりサイケデリックな雰囲気を作っている。そこにマイカーと言わず「ミーのカー」と少し気の抜けたフレーズが入るシュールさがゆら帝らしくて好き。

まとめ

このアルバムもまた初期の傑作のうちの一つであり、前作「3×3×3」からの違いは何かと考えたとき、個人的に思ったのは今作ではよりバンドサウンドにこだわったミックスになっているように感じた。

前作ではタイトル曲を始めとしたエフェクトをいじくりまわした曲や「つきぬけた」「わかってほしい」などのミックスが極端で音圧が異様なまで太い曲だったりスタジオならではのミックスのアイデアが施された曲が多かったが、今作はそれらに比べると味付けは薄めで三人での演奏を重視しているように聴こえた。その中ではもちろん「午前3時のファズギター」などのミックスが面白い曲もあるが、「悪魔が僕を」を始めとしてしっかりしたギターのリードを弾いていたり、タイトル曲では長尺のアドリブセッションを聴かせたりなど三人の真っ向からの演奏の技術力を味わえる曲がとても多いように思う。

それとこれはイメージの話ではあるが、今作を聴くと私は「夕暮れ」を想像する。ズックにロックで「真っ赤な空…」から入るのでそこから引っ張られている所も大きいが色んな曲で見られる逃避や諦めを感じる歌詞が退廃的で、どんどん薄暗くなって不安を感じさせる夕暮れと何故か結びついたのかもしれない。

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