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ゆらゆら帝国④「ゆらゆら帝国 III」

このアルバムについて

所持:済
好き度:★★★

2001年に発売されたメジャー3枚目のアルバム。タイトルも恐らくメジャー後から数えて3枚目だからと名付けられたと考えられるが、偶然にもインディーズ時代にもセルフタイトルのアルバムを二枚も出しているためセルフタイトルの枚数でも3枚目となる。

先行で発売されていたシングル「ゆらゆら帝国で考え中」がかなり明快でとっつきやすいナンバーなこともあり、全編通してポップで聴きやすいアルバムになっている。芸術は爆発だと言わんばかりのカラフルなジャケットも作品の雰囲気にすごくマッチしている。

また、今作ではインディーズ時代の曲の再録がなくなり、全曲メジャー後の新曲となった初めてのアルバムでもあり、確かにインディーズ時代のドロドロとした作風からは一番遠い作品でもある。

曲ごとの感想

01.でっかいクエスチョンマーク

ゆら帝のアルバムは一枚に絶対一曲は長い曲が入っているのだが、今作はいきなり7分越えの曲からスタートする。
出だしから爆音の演奏で、これほどジャケットにぴったりな始まり方をするアルバムって少ない気がする。

これだけ長いのにも関わらず曲中のほとんどがGとCのたった2コードで展開される。コードが少ないと単調になりがちだが、途中でパーカッションを入れたり楽器の細かなフレーズの違いだったりで全然気にならずにテンションが高いまま聴くことができる。長いのに長さを感じさせない、アルバムの幕開けにぴったりな曲。

02.ラメのパンタロン

ライブの定番曲で、後にシングルカットされるなど人気の高い曲。
リフがあまりにもキラーフレーズすぎて一度聴いたら絶対忘れることができないであろうキャッチーさがある。雑誌のインタビュー曰く、この曲は亀川さんが弾いたフレーズから発展させた曲とのことで、普段のゆら帝の曲作りの中ではやや珍しい生まれの曲でもある。(普段は坂本さんが持ってきたデモから作ることが多いらしい。)

曲自体はブルース進行の変形みたいな感じで、よく聴くとこのリフもちょっと60’sのロックやブルースにありそうなフレーズではある。他にも間奏では、ギターはバッキングのみでベースが目立つフレーズを弾くという珍しい形式をとっていて、そのあたりにもベースから生まれた曲らしさを感じる。

そして歌詞。「キラキラのラメのパンタロンのケツが破けて、クソが飛び出そう」というのが要約。ここまで意味のない歌詞をここまで面白おかしく広げられるのは笑っちゃうけど凄さを感じる。

03.幽霊の結婚式

風変わりなタイトルだが、結構好きな曲。
メロディがキャッチーで平和そうな印象を感じるが、パーカッションが用いられていることもあって歌詞のように森の深くで幽霊でこっそりと文化を築いているかもみたいな不気味さも感じる。「魔法は二度ととけない」や「止まない拍手の中で結ばれた 永遠に」など、単純なのにどこか不穏さを感じるワードセンスが最高。

04.待ち人

坂本さんのポップな側面が最大限に出た曲で、間違いなくゆら帝史上一番明るくてメジャーらしさ溢れる曲だろう。メロディやサビでは女性コーラスが登場するところが、レトロな雰囲気というか歌謡曲っぽいイメージを感じさせる。一方で歌詞はひたすら待ち続ける主人公を歌っていて、そのどこにも発展しなさそうな虚しさと明るい曲とのミスマッチが面白い。

05.ゆらゆら帝国で考え中 [Album Version]

前年に先行でシングルとして出した曲のアルバムバージョン。
アレンジは大まかな所ではあまり変わっておらず、単に再録したバージョンといったところ。シングルバージョンよりもややテンポが速めで荒っぽい感じと疾走感がより出たテイクになっていると感じる。後はAメロではベースがシングルバージョンとは違うフレーズを弾いていて、アッパーな雰囲気になっている。

シングルバージョンと決定的に違うのが、アウトロに「俺もお前も、そして皆も、このへんてこな世界でこれからやっていくわけなんだけど」というセリフが追加されている点である。このセリフがついたことで、歌詞に少しメッセージ性が加わったような感じがあってすごく好き。ライブではこのセリフは言わないみたいだが…。整った感じのシングルバージョンとライブ感のあるアルバムバージョンでどちらも楽しめる曲となっている。

06.男は不安定

男と書いて「ボーイ」と読む。
いわゆるリフもので、終始特徴的なリフを弾きながら展開されるというクラウトロックっぽさがある曲。

この曲は歌詞が特徴的で、パーティがあると聞いたのに自分の背丈より高い女に食べられるという不条理な世界が描かれている。そりゃ不安定にもなる。不協和音まじりのリフがずっと続くのも相まってこっちも不安な気持ちになる。このオスがメスに食べられるという生態はカマキリに近いのでもしかしてここから作詞のヒントにしたりしたのだろうか。今作の中では一番ダークでサイケな曲だ。

07.砂のお城

クリーンなギターのアルペジオが特徴的な曲。つぶやくような坂本さんのボーカルも相まって静かだけど不穏な空気を漂わせている。まるで砂浜で炎天下に寝転がっているような気だるさを感じる。

08.頭異常なし

重たいリフが特徴的な曲で、ヘヴィーサイケとグラムロックの中間みたいな雰囲気を感じる。歌詞が語感を重視しているのかとてもリズムよく聞こえる。「頭異常ない あの子虫っぽい 指をちゅーちゅー吸うけど」は絶対に頭異常あると思う。
後半からストリングスが入って何故か仰々しい雰囲気になるのも謎すぎて好き。

09.頭炭酸

まさかの頭2連チャン。
こちらは歪み抑えめの軽い雰囲気の曲で、女性ボーカルとのデュエットということもありキュートな印象もある。ママギタァのYOKOという方が女性ボーカルで参加しており、今作の女性コーラスはこの人が歌ったもの。シングルカットされた「ラメのパンタロン」ではカップリングにYOKOさんがそのままメインボーカルを歌った「頭炭酸レディ」というバージョンも作られた。

歌詞もふわふわとした感じが良い。頭繋がりで前曲とどっちも「高揚感があって気持ちいい状態」を歌っているように感じた。歌詞カードで同じページにある自転車に跨った人の頭が爆発しているイラストは正にこの2曲のイメージにぴったり。

10.少年は夢の中

男性コーラスから入るイントロがやや不気味だが、気だるい雰囲気のバラード。ギターのアルペジオや女性コーラスなどのやわらかいアレンジもあって、本当に夢の中にいるようなあやふやさとか、向こう側の世界のいってしまったような危なさも感じられるサイケ感たっぷりな演奏がたまらない。

見返すと結構好きな歌詞が多い。

「自分の夢は現実だよ 一生覚めない夢なら」

というフレーズには思わず「おお…」となってしまった。もはやこの曲の主人公には夢も現実も分からない状態なのかもしれない。そもそも最後の歌詞も「一生覚めない物語の夢…」といっているのだからきっと戻ってこれないのだろうと思うとちょっと切ないラストである。

まとめ

前作「ミーのカー」が、自分たちのルーツに従順なガレージサイケ的な作風を展開していったが、EP「太陽の白い粉」を挟んだことでアレンジや曲調の幅を広げた成果が今作で活かされているように思った。
「頭炭酸」「待ち人」などでの女性コーラスの導入や、「砂のお城」「男は不安定」などのミニマルな演奏は前作では確実になかったアレンジのためそこに大きな変化を感じる。前作らしいガレージサイケ「でっかいクエスチョンマーク」や「頭異常なし」でもコードの単純化やバンドサウンド以外でのアレンジの追加などで変化の工夫を感じた。

そして、今作の評価でよく挙げられるポップな作風も正にその通りで、非常に意識して作られたように聴いていて感じた。メロディのとっつきやすさは言うまでもないが、シングル二曲が単純明快な聴きやすいロックンロール(サイケの匂いも残しつつ)だったり、それ以外の曲でもこれまでだったら珍しい明確なサビのある曲がいくつかあったりとかなり聴きやすい構成の曲が多い。リフものが多いのも全体のキャッチーさを更に強くさせていると思う。このようなゆら帝の歌もの路線は2年後の「ゆらゆら帝国のめまい」で更に深化していくので、過程を感じられて面白い。

かくいう私もゆら帝の入りはすべるバーもとい、たまたまニコ動で見かけた「ラメのパンタロン」と「ゆらゆら帝国で考え中」のMVだったので思い入れがある曲が入っているアルバムということでとても好きなアルバムである。

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