見出し画像

【歌詩】さすらお



「さすらお」

幼い頃 景色を眺めるのが好きだった
映画フィルムの中 忙しなく動く人々 
今では僕までエキストラになっていた

何度も同じ動きを繰り返し
へとへとになって 帰りのタクシー
窓から見える煌びやかな都市

夢を見させておくれ
距離の分だけ料金はかさむけど
降りるまではと身構えてる
夢を追いかけて それが叶ったらどこへいこう?
どこに行くでもなくさすらおう
そうだ 昔から景色を眺めるのが好きだった

目的地についてしまえば悲しい
乗り合わせた名も無き情緒達
空調は稼働しているけれど

車内では息詰まるばかり
気遣いはいらないよ、運転手さん
沈黙も悪くない気分だから

夢を見させておくれ
時間の分だけ料金はかさむけど
また後で悩めばいいか
夢を追いかけて それも消えたらどこへいこう?
どこに行くでもなくさすらおう
そうだ 昔から景色を眺めるのが好きだった

いつか夢が叶って 主役になれた時
懐かしいと思えるのだろうか
この最低な毎日を

夢から醒めぬように
場所に着いても起こさないでくれ
五月蝿い夜に包まれながら
落ちていく 落ちていく 寝たフリをして
そうだ 昔から景色を眺めるのも好きだけど
もしも遊びも好きだった



解説

初めてのnoteを書き終えた僕は、今まで書いてきた歌詩を、どういう順に投稿しようか迷っていました。

考えた結果「僕がいま気に入っている順」に決めました。

ただ、歌詩だけ乗せても良かったのですが、色々と説明したくなったので解説も挟もうと思います。


↑初めてのnote。歌詩って何?という人は読んでください。



タイトルについて

記念すべき一回目は、丁度一年前に書いた歌詩「さすらお」
確か、邦楽バラードに合いそうな雰囲気を意識して作ったと思います。

映画俳優としての成功を夢見ている「僕」が、鳴かず飛ばずの日々に嫌気が指して、現実から逃げる。といった感じのストーリーです。

タイトルの「さすらお」は、さすらう(目的もなく歩き回る)や益荒男ますらお(勇気のある強い男)という意味の含まれた造語です。
また、向こう見ずで大きな夢を見ている「僕」の存在を、一言で表せる言葉でもあります。




「タクシー」の役割

歌詩の中で、仕事を終えた「僕」は「タクシー」に乗って帰っています。
そこでは映画フィルムの様に、無邪気だった頃の思い出が、夜景と共に流れてくるのです。

「僕」にとって「タクシー」とは、都会という現実から離れて、安心して夢を見られる安息地なのです。




どこへ向かっていくのか

しかし、そんなタクシーの中にいるのに「僕」は息苦しさを覚えています。

今の生活からの焦りや将来への不安が「名も無き情緒」として一緒に乗り込んでいたからです。

どこにも安心できる場所がないと知った彼は、現実に投げやりになっていき、最後には眠りに落ちることで現実から逃げようとします。

その変化は各サビから読み取ることができます。

夢を見させておくれ
距離の分だけ料金はかさむけど
降りるまではと身構えてる

夢を見させておくれ
時間の分だけ料金はかさむけど
また後で悩めばいいか

夢から醒めぬように
場所に着いても起こさないでくれ


「夢を見させておくれ」というフレーズが、俳優という夢を叶えたい意思から「眠って夢を見たい」という現実逃避へと変わっていき、最終的に「僕」は夢の中へと消えてしまうのです。

歌詩の最後にある「もしも遊び」は、妄想で欲求を満たしている「僕」が、子どもの頃の「僕」とリンクしているのを表しています。



「運転手」について 

この歌詩には「僕」の他に「運転手」という人物が出てきます。

これは、「運転手」が目的地まで乗客を運ぶのになぞらえて、「僕」を未来へと連れていく存在として書かれています。

そんな「運転手」に「夢を見させておくれ」「着いても起こさないでくれ」と「僕」は頼んでいて、現実を見つめたくない「僕」の心情が読み取れます。

また「夢を見させておくれ」には、運転手に救いを求めているとも捉えることができます。
この「運転手に救いを求める」という構図は、amazarashiの「タクシードライバー」から着想を得ました。
 

この長いトンネルは一体いつ抜るんですかね?
どうぞ 行ける所まで行ってくれて構わねえ

タクシードライバー 夜の向こうへ連れてって


出典:amazarashi 『タクシードライバー』



さいごに

どんなに熱を持って夢を追いかけていても、ふとした瞬間に諦めてしまいたくなる瞬間があると思います。

そんな心の弱さを書いたのが、この「さすらお」です。

時間って本当に過ぎるのが早いです。いつの間にか子どもから大人になって、先の未来だと思っていたものが今になっていく……。

夢が叶わなかったとしても、無駄じゃなかった。
そう思えるように生きていたいです。





ムジナの芝居

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?