大型ショッピングセンターという「都市」~地方に存在する異質的空間~

※過去に当サークルのHPで公開された記事です。
(公開日:2018.4.29 執筆者:大脇)

大型ショッピングセンターの代表格であるイオンの発祥地は三重県四日市市だということをご存知でしょうか(※1)。四日市の「岡田屋」から始まったイオンは、いまや豊富な品数やポイント制度、安さや様々な娯楽の提供などを武器に地方・都市に関わらず全国各地に展開しています。このような大型ショッピングセンターは特に地方では欠かせない重要な存在となりました。しかし、大型ショッピングセンターは地方のなかではとても異質的な空間です。あの空間は地方の一部というよりは地方のなかに存在する別の都市的空間であるといえます。今回は大型ショッピングセンターの異質性とその問題を取り上げます。

 まずは食料と生産の面から考えます。都市は生産能力を著しく持たないため、食料・エネルギーに関して外部に大きく依存しています。反対に、地方はそれらを生産する能力があります。それゆえに、都市に存在する食料品売り場が他の地域から仕入れられたものばかりでも何の不思議もありません。しかし、生産側である地方の大型ショッピングセンターでも同じことが生じています。つまり、あの空間は食料に関して生産側であるその地方のものを集約しているのではなく、都市と同様に食料に関してその地方の外部に大きく依存した空間となっています。

 また、付属の専門店においても、ダイソー、マクドナルド、タワーレコードなど広範囲に展開した企業ばかりで、その地方発の店舗は見当たりません。ましてや、もともとその地域に根付いていた商店街が潰れるという結果を招いています。さらに、大型ショッピングセンターに集まる人を狙って周囲にも全国的な企業(いわゆるロードサイド店舗)が溢れるようになります。確かに都市と同様のものを入手できる点では便利ですが、その地方で歴史的に形成された売買関係や街の姿が消滅し、都市の一部をコピーして貼り付けたような独自性のない景観・商品内容をもった空間がいたる所に現れます。消費社会研究家の三浦展はこれを「ファスト風土化」と表現しました(※2)。

 さらに、地方は本来地域の人々のつながりが深いとされますが、大型ショッピングセンターという空間には匿名性が存在します。匿名性は都市の特性の一つであり、自分は他者のことを知らず、他者も自分のことを知らない状態を言います(※3)。大型ショッピングセンターはその地方中から、あるいはその周辺地域からも多くの人々が詰めかけるため、様々な地域から来た見知らぬ人々が集まった空間となります。見知らぬ人々どうしがその場を共有することが日常的におこなわれるという点でその空間は非常に都市的です。

 このように、大型ショッピングセンターは生産を担うはずの地方に高度に消費社会的で匿名的な都市空間を生み出しています。これはたしかに大きな利便性をもたらしますが、その一方で地方の均質化を招いていることも事実です。どこにいっても同じようなつまらない街が増加するとともに、開発による地方の生産力の低下を引き起こす危険性があります。また、匿名性の高まりによって個人と個人のつながりを喪失した企業対個人の無機質的な売買関係が成立し、企業の一部となった販売側の個人と購入側の個人との間には壁が出来ています。さらに、利用者同士のコミュニケーションも薄れてしまいます。消費者にとって便利なことはうれしいことですが、それを過剰に求めると街や人と人の関係から人間味や文化的な独自性、何より地方が持つ生産能力や地域的つながりといった特性が失われていきます。大型ショッピングセンターはその事実をうけとめ、今後は地方の生産・文化のプラットホームとなり、商品内容や利用者との関係においてより深く地域に根差したあり方が求められるのではないでしょうか。

※1 「イオン株式会社ホームページ 企業情報 企業沿革」https://www.aeon.info/company/enkaku/

※2 三浦展 『ファスト風土化する日本 : 郊外化とその病理』、洋泉社、2004年、27~28頁。

※3 永井良和 間淵領吾 大和礼子 編 『基礎社会学 新訂第3版』、世界思想社、2014年、86~87頁。

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