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隣の芝は青く、ビールはどんどん苦くなる

「仕方ない」
そうやって自分のなかに湧く名もない感情に蹴りをつける

ああなりたい、こうなりたい。
そう思えば思うほど隣の芝はどんどん青くなる

私が羨む人たちにも、私から見えているのは一部分で、それを都合のいいように羨ましがっているだけ
裏ではそんなに綺麗な話ばかりでもない
そういうふうに青臭い感情に言い訳できるほどには大人になった

二十歳になったばかりの頃はビールの美味しさが分からなかった
「苦いだけの飲み物をなぜ好んで飲むのだろうか」
その問いに先輩たちは口を揃えてこう言った

「人生でビールより苦いことを知ったらビールが美味しくなるんだよ」
その言葉が妙にかっこよくて、私も苦さのわかる大人になれるだろうかと胸を膨らませたものだ

そんな記憶を懐かしみながら、仕事終わりに慣れた手つきでビール缶の蓋をプシュッと開けた

私が羨むあの人も、別のことでは私を羨んでいるかもしれない
無い物ねだりなのだ

仕方ない、仕方ないとその言葉とともにごくりと一気に流し込んだ

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