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万年筆を使うということ

私は、万年筆を使うのが好きだ。
なぜなのか、考えてみた。
幼い頃から万年筆に対する憧れはあった。
父が使っていた万年筆をこっそり使ってみたが、上手く書けなかった。
万年筆を使い始めたのは、3年ほど前になる。
Pilot のKAKUNO という初心者用万年筆が目にとまり、価格も手頃だったので手に入れた。ペン先に顔の表情が付いている、ある意味子どもっぽい万年筆。使ってみて満足したけれど、もっと欲しくなった。
そして、とある雑誌の付録で万年筆が付いてきて、それがとても気に入った。デザインもかわいく、書きやすい。
さらにいろいろ調べてみると、LAMYのSafariと言う種類が初心者向けだがとても良いと知った。
お気に入りの海外のYouTuberが使っていることもあり、早速手に入れた。
Safariは限定色がたくさん出ており、迷ってしまい、いろいろ手を出した。
パステルカラーは3色全部そろえた。
これらはどれも、スチールペン先である。

万年筆は、ボールペンやシャープペンシルほどの手の力がいらない。
その分、インクと一緒に自分の頭の中の考えが流れ出ていく感覚がある。
これは、キーボードをタイプするのとは、また違う快感がある。
とにかく手を動かして、頭の中にあることを紙に書く。
紙は、何でもいいわけではないけれど、ただ書きたいだけならばコピー用紙の裏紙で十分だ。
とにかく書く。
頭の中にあるものを全て。

ここからは、初めての金ペンとの出会い。
金ペンは、私には手の届かない価格で、きっと神様がまだ早いと言っているのだろうと無理矢理自分を納得させていた。
ところがある日、思いがけないところで金ペンと出会うことになる。
場所は、実家だった。
高齢の父に、この頃詐欺が多いから気をつけて、と話していたところ、
「そういえば最近、不要品を売りませんか、と言う人が来たんだよ。
食器とか出したら、他に、金製品とかありませんか、っていうんだ。ないと言ったよ。」そう言って父はにやりと笑った。「本当はあるんだけどね。」
「金製品って何よ。」と私が言った。
「万年筆だよ。」と父が言った。
「これは売らなかった。」
「万年筆!?」私が身を乗り出すと、父が言った。
「仕事でもらったんだ。インクはもうないけど、ペン先が金なんだよ。」
「私、今、万年筆にはまっているの!」父の台詞にかぶせ気味で言う。「見せて。」
いいよ、と言って、父は万年筆を持ってきてくれた。
初めて見るペン先だった。何のデザインもない。プレートが2枚重なっている。
Googleレンズでしらべてみると、Pilot Justus と出てきた。
ギザギザのダイアルがあって、HとSと書いてある。回すとプレートが動く。
ネットを駆使しながらいろいろと調べてみると、プレートの動きによって、ペン先の太さを変えられるということだった。
確かにSの方に回すとやわらかく書け、Hの方にすると細い線が書ける。
「50代の頃かな。とある仕事の返礼としてもらったんだ。」と父が言った。
私は、賭けのつもりで言ってみた。
「インクを入れたら書けそうだから、くれない?」
「いいよ。やるよ。」あっさりと父は言った。
こうして私は、初めて金ペンを手に入れた。
やはりスチールとは書き味の違うなめらかさ。
そして、父が仕事をして手に入れた物なんだなということを感慨深く感じながら書く。
それ以降、万年筆に対する憧れは、少し落ち着いた。
もちろんペリカンのスーベレーンやモンブランのマイスターシュトゥックなど、価格的や性能的に上を見ればきりがない。
でも、私には、父から受け継いだJustusがある。
今日も私は、万年筆を使う。


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