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たからびとvol.8「僕の不幸は蜜の味」
『僕の不幸は蜜の味』 お笑い芸人バズーカしげぞうさん
毎月27日に発行しているフリーペーパー「たからびと」
今月の取材は、広島で活躍中のお笑い芸人「バズーカしげぞう」さん。
来年で芸歴十年の節目を迎えるお笑い芸人のバズーカしげぞうさん。 今回はしげぞうさんの波瀾万丈の人生と、ふつふつと頭に浮かび上がる アイデアの源に迫ります。
『様々な経験から生み出されるネタ』
来年で芸能生活十年目を迎えるお笑い芸人のバズーカししげぞうさんは、大学を卒業してから3年ほどの間に、なんと12種類もの仕事を経験してきた。元々はライター志望で、大学の文学部を卒業後、雑誌のライターとして活躍するが、その後転職を重ねることになる。某テレビ局のAD、政治家の秘書、旅行代理店の添乗員、日本酒の蔵人、カーポリマー等々、とにかくどの仕事も全力で打ち込んだ。
やがて、「自分は組織に属するのは難しい」という考えに至り、29歳の時に独立する。独立後しばらくはライターの下請け業をしていたが、コンサルティング業の先生との縁があり、2007年から経営コンサルタントの仕事を始める。
仕事が順調だった頃は働き盛りの30代。当時3人の小さい娘さん達を抱え、「死ぬ気で、寝ずに、全力で働く」と意気込んで働き続ける毎日だった。 ある朝、布団から起き上がれなくなった。おかしいなと思ったが、無理やり働いていると記憶障害のようになり、普段やっていることができなくなった。
「人に会いたくない。出たくない。何も考えたくない。」 信号機の前で思わず涙を流すこともあった。うつ病だった。
そして、仕事を全て辞めた。
『鬱がきっかけで芸人に』
仕事を辞めてから2年ほど引きこもり、主夫として家事をやってはビデオを見たりゲームをしたりしていた。「死にたい」と思うことが増え、ある日パートナーの前で「死にたい」と言うと、普段は全く怒らない彼女がしげぞうさんの胸ぐらを掴んで言った。 「死ぬ気があるなら、死ぬ気で生きてみんさいや!」
鬱が進行してきた頃はお酒とご飯くらいしか楽しみがなかったが、パートナーに「何か趣味を持ったら?」と言われたのがきっかけで思い出した。
「学生の頃や仕事の合間の息抜きの時間によくネタを考えていたな。」
「どうせ自殺するならお笑い芸人やってみてからにしよう」
と心に決め、お笑い芸人としての道が始まった。
はじめはコンビでのネタはウケるが、ピンでのネタはなかなかウケなかった。
「落ち込んだけれど、周りの家族や友達の支えがあったからやり続けられた。」
芸を磨き続けて十年、現在では各地の公民館や福祉施設でのネタ披露に加え、コントつき講座も行い、こどもから高齢者まで幅広い層に親しまれるお笑い芸人として活躍している。
しげぞうさんにどうやってネタを作るのか聞いてみると、2つのパターンがあるという。
一つはふと思いつくパターン。もう一つは、困ってる人、追い詰められている人をイメージして、どうすればその場を切り抜けられるか、もっと不幸になったらどうなるかを考え、ネタにしていくパターン。『困ってるおじさん』が頭の中でどんどん膨らんでいく。ネタを見た人は、「〇〇なおじさん」がたまらなく可笑しくなってくる。
『子どもの頃の夢は、案外叶う』
小学生の頃、担任に、「あなた、文章書くの上手ね」と言われたことをきっかけに小説家になりたいと思い、就職は物書きを選んだ。小学4年の時、先生が教室で、「元カレがいきなり何度も電話してきて寝られなかった」と急にぼやきはじめたのが衝撃的で、それ以来、「もし〇〇だったら…」と面白おかしく妄想するようになった。そんな経験から、いつしかお笑い芸人になりたいという気持ちが芽生え、今、その夢は叶っている。他にも漫画家や楽器演奏など、こどもの頃の夢は、芸の一部となっている。
こどもの頃に湧いてくる夢にはワクワク感がある。自分の『やりたい』に素直であればあるほど、夢は叶っていくものなのかもしれない。
『乗り越えた先にある面白い世界』
十周年を迎え、「芸人になって良かった」と言うバズーカしげぞうさん。12の仕事を経て、独立したことを父親はなかなか受け入れられず、「就職しろ」と言われ続けたが、最近ようやく認めてもらえた。「やりたいことを親に言って反対されたら上手くいく証拠」と言う言葉には説得力がある。
芸人としても鬱と向き合い続け、「しんどい時期があってもいつかこれをネタにできる」と客観視することができた。
「死にたくなるような辛いことはある。そこを乗り越えると面白い世界がある。鬱になってなかったら、今やってることはやっていないかもしれない。」
『僕の不幸は蜜の味』
お笑い芸人に憧れたのには理由がある。 「お笑い芸人は人間のずるさとか、せこさみたいなドロドロとした汚い部分を呑み込んで、面白おかしく発信しているから好き。俳優さんだとカッコよさや美しさが目立つし、学校や親だときれいな部分しか教えてくれない。お笑い芸人はとにかく人のマイナスの部分を発信してくれる、そんな部分に良さを感じる。」
人間にはドロドロとした汚い部分が少なからずある。彼のネタ作りも、自分=おじさんがもっと不幸になったらどうなるのか、どう切り抜けるのか、とリアリティーを追求しながらネタとして発信する。お客さんからは「設定が面白いよね」とよく言われるそうだ。
『僕の不幸は、蜜の味』という言葉が意味するのは、自身が苦しんできた鬱の経験が今、芸の肥やしになっているということ。生きていく上で必ず直面するネガティブな部分をいかに面白く転換していくか。不幸が蜜に変わる瞬間をしげぞうさんは身をもって知っている。
自らの壮絶な経験や胸の内を表現した作品には、人を揺さぶるパワーがある。ぜひバズーカしげぞう自身の「不幸」をネタにした芸を見て、「蜜の味」を存分に味わってほしい。
<バズーカしげぞうプロフィール>
36歳の時(2011年)、うつ病をきっかけに「一度しかない人生、ずっとやりたかったお笑い芸人に挑戦しよう」と、広島弁爆笑落語のジャンボ衣笠に弟子入り。その後、各地の公民館や敬老会、福祉施設などで出張お笑いライブを行っている。笑って勉強になる「コント付き講座」が、ジワジワと人気になりつつある今日この頃。
YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCrY9lGNOXX3uBJ5GCcHLcVw
note: https://note.com/bazooka_shigezo
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