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目にはさやかに見えねども

高瀬川を下から上へ、40ccのバイクが音をあげて走り過ぎたのを聞いて、通りの窓が開いていたのを思い出した。

自分の寝汗の量に驚き、身体のあちこちが痛いのを認めると、あぁ、発熱したのだと改めて思う。久しく風邪をひいていなかったので、油断をしていたのかもしれない。

約束していたことをお断りして、シャツを着替えて、頭痛薬と胃薬だけを飲んで、また横になる。
普段見ない夢というものを、3本立ての映画のように見て、不可解な筋立てと登場人物を反芻していると、吐き気がしてトイレとベッドを往復する。冷や汗が滲んだ。

あたりは、すでに日が落ちて、鈴虫が思いのほか大きな声で鳴いている。

突然、伸びやかなテノールが聴こえたかと思うと硬質な拍子木の打つ音がビルとビルの間に高く響く。
火の用心と謳う面々が、まるで檜舞台の討ち入りの一団のように、優美にまぶたに映る。

寝返りを打つと、寝汗に風があたり冷たかった。川面をさらう、サッと吹く乾いた空気に、響く音を聴いて、熱情が去り、あきが来たのを感じた。

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