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-Colorful本屋- もえぎ色の恋【Vo.1】

「どの部活を選ぶ? 運動部もいいけど、軽音部ってかっこいいね。」
親友と一緒に部活を選んでいると私の望んだ一言が来た!

 悩んでいるような素振りをしていた。
が、私の答えは始めから決まっていた。
「そーだよね。軽音部って、中学の時はなかったから。
 ね、美果、一緒に見学してみようよ。」

 親友の刈安 美果(かりやす みかん)と、
私は校舎のすみっこにある軽音楽部の見学に行って
すぐに入部の手続きをした。
美果は、小さい頃からピアノを習っていて譜面が読めるし、演奏も上手い。担当は、すぐにキーボードに決まった。
私は、ピアノを習っていた経験はあるものの、
左手が不器用で鍵盤に向いてなかった。
ギターも指が短くてコードを取れない。担当は、ドラムになった。

 私が通う女子校は、比較的新しい学校だ。
校舎も有名な設計士が作ったらしい。
だが、部室はなぜか古めかしい。理由は、昔のカラオケボックスに
使っていたトラックコンテナをリフォームしたからだ。
まあ、防音はしっかりできるから理にかなっている。
ただ、楽器や機材はどれもぴかぴかの新品だ。
狭い部室にフルのドラムセット、キーボード、エレキギター、
ベース、アンプなどが揃っている。

 「うわーっ。両手両足すべて違う動きって、むっず! 」
「最初からはできなくて大丈夫。私だってめちゃくちゃ、
 頑張ったんだから。」
神のようにドラムが叩ける先輩でも初めはそうだったんだ。
じゃあ、私も頑張ってみよう。
少しずつ、ステップアップしていこうと思った。

 あっという間に半年が過ぎ、初舞台の文化祭が近づく。
私達、1年のグループも2曲だけ演奏することになっている。
猛特訓の日々。
気づけば、秋色の風が吹いていた。校舎の窓から涼しい風が吹き込む。

「さあ、明日は文化祭初公演。気合い入れて行くぞ! 」
「おーーー! 」
部員全員で円陣を組む。緊張感とワクワクした期待感。
「一年生は、完走をめざすだけでいいからね。完璧にしようとしたら
 頭が真っ白になって、手も動かなくなる。」
先輩のアドバイスは的確だ。
「楽しんでいこう〜🎶」

ー青春の1ページ。何もかもが輝く未来に続いてる気がしていたー

 公演当日。
私達は人気バンド
『Capelin』の「僕も彼女が欲しいんだ」
「明後日も」の2曲を演奏した。
必死に。先輩の助言通りに完走だけをめざして。
結果、各々ところどころにちょっとしたミスはあったが
リード・ボーカルの弾けるような笑顔とチームワークで
カバーすることができて終演を迎えた。

「あーー。ミスったぁ。」
「サビのところ、ごめんね〜」

「まあまあ、こんなもんでしょ。」
「おわった〜〜〜」
なんとか、やりきったという安堵と興奮で4人で抱き合った。

「みんな、がんばったね。すごく良かったよ」
やった。先輩からのお褒めの言葉ももらえた。
うれしかった。ココロが踊っている。

 自分たちの出番を終えたあと、自由行動で学祭を満喫していると、
他校の男子学生から声を掛けられた。
「あ、もしかしてさっき体育館で『Capelin』やってた人たち? 」
(わ、バレてる)
「もし、良かったらさ。僕たちもバンドしてるから連絡先、交換しない? 」  
(なんだか、けっこう強引だな。)
私がそう思っていると、ボーカルの杏子(あんず)ちゃんが
「えーーどうしよっかな?」
といいつつ、ノリノリで携帯を出す。
(この娘、まぢかぁ)
意外な一面に困惑しつつ、流れで交換してしまった。
「ファンサ、大事だからねぇ」
(そんなアイドルのような感じで大丈夫?)
私はひそかに思ったがあとの祭りだ。

 学祭からの帰宅後、SNSでさっそくメッセージが届く。
「学祭で知り合った藤田志棔(しこん)です。よろしく!
 来週は、うちの学祭だから、友達と一緒に見に来て」
かわいいスタンプと一緒にがっつり、宣伝された。
とりあえず、スルーして美果に聞いてみる。
「ね、男子校の藤田さんから来週、学祭に誘われた」
「えーーー!すごいじゃん。」
とすぐに返信がくる。
「でさ、一人じゃ心細いから一緒に行ってくれないかな」
「うん、わかった。」
(良かった。藤田さんに返信しなきゃだ。)
初めての異性の友達にドキドキ。
(どんなメッセージを送ったらいいのかな? )
言葉を入れては消して、入れては消してを3回繰り返した。
(こんなもんでいいかなぁ)
完璧ではなく、ガツいてるわけもなく、さりげない感じ。

「ご連絡、ありがとうございます。
 若草萌樹です。こちらこそ、よろしくお願いします。
 来週は、友達の刈谷さんと行きます。」

送信して、ちょっと硬すぎかな? と反省する。
こちらからもスタンプを送ってごまかしておく。

 ぴょこっ♪

(あっ。もう、返信きた。)
「ありがとう。会えるのが楽しみだ。演奏、がんばれそう! 」
(わーこんなふうに言ってもらえるとうれしいな。)
男の人との通信に少し浮かれていた。

 あっという間に一週間が過ぎ、いよいよ藤田さんの学校へ。
「なんかさ、男子校に入るの、緊張するね。」
「そうだね。」
私達は、私服で行くことにした。美果は、ふんわりとしたワンピース姿。
(私もスカートにすれば良かったかな。)
レースの付いたトップスにパンツコーデにした私。ちょっぴり後悔。
とりあえず、演奏会場の体育館に行ってみた。

 会場は、出演者の家族らしい人たちや、学生服姿の高校生や私服の女子で
席が8割位、埋まっていた。
「うわー、結構いっぱいだね。」
と、美果。
「うん。」
なぜか、体育館に入るだけなのに緊張してしまった。

 私達も空いている席に座って、鑑賞する。
藤田さんが出演する時間まで15分くらい。
 
 今、演奏しているバンドは上級生なのか、めちゃくちゃ上手い。
「やっぱり、男子が演奏すると迫力があるね。」
照明などの演出もうちの学校とは、レベル違いに凝っている。
美果は全体のバランスをとらえるのが得意だ。
「リードギターのテク、ヤバいねー。
 ドラム担当も安定してるなぁ。」
(来てよかった。他の学校のレベルの違いが勉強になる。)
藤田さんたちの出番を待つ間に2組のバンドを聞いて、
すっかり勉強モードになっていた。

 ついに藤田さんたちの出番。
緊張感がこっちにまで伝染してくる。
知らなかった。彼らは私より、一つ年上だったんだ。
ってか、演奏するのは、私が好きなアーティストの
「Mr.Blue Mandarin」じゃん!!!
しかも2曲とも大好きなやつ。
(難しいと思うけどな。どうなんだろう。)

 静かになった暗転の中、ドラムのカウントが響く。
一瞬でステージが色鮮やかなのライトに染まり、
演奏が始まった。

バンド

(えっ?! すごい! )
 彼らの演奏技術にプロなんじゃないかと思ってしまう。
1曲目は『インキャンデッセンス』(灼熱)
ボーカルの完コピと声質のマッチが半端ない。
そして、なにより驚いたのがギターテクニックだ。
私は、ステージに釘付けになってしまっていた。
2曲目『ラベンダー』
本当にすごいという感想しか、出てこない。
会場中で感嘆の息が聞こえるようだ。
私はもちろん、美果でさえも瞳がハートマークになっていた。

 藤田さんは、ボーカル?!
この気持ちは、俗に言う恋に落ちた……?
いやいや。私に限ってそんな感情はないハズ。
でもこんなステージを見せつけられたら
どんな女だってトリコにできるんじゃないかな。

 なぜ、彼は私のような女子力低めな娘と連絡先を交換したのだろう?
頭の中でずっと解けないクエスチョンがぐるぐると回っていた。

 彼らのステージが終わっても私達は放心状態でその場に座っていた。
すると、
「ほんとに来てくれてたんだね。うれしいよ。」
藤田さんだった。急に声を掛けられて、びっくりしたのと
恋の熱? で頬が赤く染まるのを感じて、慌てて下を向いてやり過ごす。
「まだ、時間大丈夫? 」
「ま、まあ。ね、みかん。」
「はい。大丈夫です。」
「そう、じゃあ僕たちと校内を回ろうよ。」
「うっ、はい。」
変な声が自然と出てしまう。

 藤田さんは、バンドメンバーの木ノ上さんを連れてきた。
4人で喫茶コーナーになっている教室に入った。
「ゆっくり、自己紹介してなかったから簡単にしよ。」
藤田さんは結構、仕切り屋みたいだった。
「じゃ、俺から。名前は木ノ上裕貴。みんなはゆーきって呼ぶ。
 2年生で部活は帰宅部。バンドの担当は、ドラム。よろしくね。」
(おお、あの迫力のドラムはこの人だったんだ。)
「次は、僕かな。藤田志棔。17歳。バンド担当は、
 リードギターとボーカル。絶賛、彼女募集中!だよ。
 じゃ、次は萌樹ちゃんね。」

(わたしのターンがあっという間に来てしまった。
 何も用意してない。どうしよう。)
そんなことを考えながらとにかく、声を発する。
「え? はい。若草萌樹です。高1で軽音部、ドラム担当です。」
ぱちぱちぱち。男性二人が笑顔で拍手する。
ちょっと、おどおどしてしまった。
「刈安美果です。軽音部でキーボードしてます。もえぎとは、
 幼なじみでずっと同じ学校です。」
「へーーーそう。みかんちゃんって、本名なんだ。」
と、木ノ上さん。
「はい。」
なんとなく木ノ上さんと美果が話すような感じになって、
私は、藤田さんと話すしかなかった。

「どうだった? 演奏、なかなか上手くいったと思ったんだけど。」
顔を覗き込むように小首をかしげて聞く姿は、ちょっとかわいかった。
ステージの彼は、自信に溢れていて堂々としていてすごかったけど。
普通のときは、ちょっと頼りなさげ。
ギャップが私のココロを揺さぶる。

「藤田さんたち、超イケてました!
私とか、感動してぼーっとなりました。」
気づけば、恥ずかしいことを口にしていた。
「え。まぢ? うれしいこと言ってくれるなぁ。
今度、知り合いの店でもステージするんだけど、来てくれる? 」
(やっぱ、すごいんだ。一般のお客さんの前でも演奏するなんて。)
「あ、はい。でもうちの家、厳しいんで門限に間に合いそうなら。」
「へえ、門限あるんだ。じゃ、あとで店の場所と時間、送っとくね。」

 それからあとは、4人でお化け屋敷の教室や
クイズのコーナーを満喫して帰る時間になった。

「今日は、来てくれてありがとね。また、会えるかな? 」
藤田さんが私に聞いてくる。
「そ、そうですね。楽しかったです。」
(あーーーだめだ。
ぜんっぜん、ふつうに話せないよ。)
うつむく私をかばうように、みかんが
「また、4人で。」
そう言ってくれた。ありがたい。
本当にいつも彼女には助けられてばかりだ。

「じゃーね。」
木ノ上さんは、軽いノリで手をひらひら振ってくれた。
「またね。もえぎちゃん。あとで連絡する。」
藤田さんは、笑顔で。
私も笑顔を返したかったけど、引きつった顔にしかならない。
かろうじて、手はブンブンと振ることができた。

帰り道、みかんが
「ねーえ、萌樹さ、もしかして藤田さんのこと好きになった? 」
(あ。バレてたか。)
そう思った途端、みかんがゲラゲラ笑った。ココロも読めるらしい。
「あんた、わかりやすく顔が真っ赤になってたから。」
「そんなに? じゃあ、本人にもバレちゃったかな。」
「うーーーん。それは、微妙かも。だって、最後まで次の約束しなきゃって
 向こうも必死っぽかったよ。」
「でもさ、やっと萌樹にも初恋がキタんだね。」
「……そうなのかな。」
「そーだよ。」
二人で私の成長をかみしめながら、帰宅した。
夕日が真っ赤でまぶしかった。

 初めての恋の予感。
ココロがざわざわするようなウキウキするような……
楽しいのか、苦しいのか胸が痛い。
彼のことを考えると顔がニヤけて。

 家に帰ると早速メッセージが届いていた。
「今日は、ありがとう。さっき言っていたお店。」
住所とお店の名前、それから出演時間が送られてきた。
時間は、PM8:00〜になっていて、
わたしの門限を1時間も超えていた。

「ごめんなさい。門限が7時なので行けそうにないです。」
泣いているキャラクターのスタンプと一緒に送信した。
「そっかぁ。残念。じゃあ、どこかに一緒に出かけようよ。」
藤田さんは、積極的だ。切り返しが速い。
「みかんに相談しておきますね。」
残念な気持ちとその後の展開に期待する。
自分は恋してると自覚していた。不安もいっぱい。
「うん。じゃあ、また連絡するね。ばいばーい。」
かわいい猫のキャラクターが手を振ってるスタンプ。

 初めての恋の予感に酔いしれていた。
だから、その後もずっと違和感があっても
気のせいとしか、思えなかった。

 このときの私は知らなかった。
ちょっと、大人になった気分で体験することが
自分をどんどん追い込んでしまうことになることを。
底なし沼のような抜け出せない状態が純粋な心を蝕んでいく。

もえぎ色の恋 Vo.2
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