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私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション109『使途(しーと)』

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作者駐:『私的国語辞典』は全文無料で閲覧が可能です。ただ、これらは基本『例文』となっておりますので、そのほとんどが未完となっています。基本的にそれらの『例文』は続きを書かないつもりではおりますが、もしどうしても続きが気になる方は、コメントいただければ前向きに検討させていただく所存です(←政治家か


4月も終わりに近づいたある日曜日。私はこのうららかなる常春の昼下がりに、何故かアパートの居間で、中学生と小学生の娘たちの前で正座を強制されていた。

「あのお、みちるさん?」

私は状況を把握すべく、座卓越しに私を睨みつけている長女のみちるに声をかける。

「……ってキミが着てるのは、お父さんの一張羅のスーツ、じゃないかな?それ着られちゃうと、お父さん明日仕事に……」
「お父さん!」

私の言葉を遮るようなみちるの怒鳴り声に、私は「はいっ!」と姿勢を伸ばす。な、何なんだ、いったい。
私はわらにでもすがる思いでみちるの隣にいる次女の更紗に目を向けるが……だめだ。にっこにこ笑いながら目を爛々と輝かせてやがる。
戸惑う私に、みちるはかんねんしなさい、と冷たい口調で告げると、すっくと背を伸ばした。

「本日ただいまから、わが家の使途不明金について、会計監査に入ります!」
「はいりまっす~」

はきはきと宣言するみちるときゃっきゃとはしゃぐ更紗に、しかし私はただ驚くしかない。

「んはあ?なんだって?」

素っ頓狂な声を上げる私の前で、みちるは何やら書類らしきものを食卓に並べていく。


そうか。私はそこでようやく何の話か理解した。

私のへそくりがばれたのだ。
くそ、あと少しなのに。

「良いですか?現在のわが家の収入は……」

みちるがテキパキと先月の家計を説明し始めるなか、私は何とかごまかせないかと、神妙な顔の裏で打開策を練り始めた。

(1197文字)

しと [使途]
 使いみち。
 


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