私的国語辞典 ~二文字言葉とその例文~ セレクション1『朝(あさ)』
セレクション1『朝(あさ)』
新しい朝が来た。
希望の朝、だ。
私はポストの新聞を抜き取る前に、朝焼けに向かって大きく伸びをした。
会社の皆に定年退職祝いの会を開いてもらった昨夜の事が嘘のように、普段と変わらない朝だ。
私は新聞を抜き取ると、そのまま家の中に入る。
そこでふと私は頭の中で、する必要のない朝の支度の段取りをしている事に気がつき、思わず笑みがこぼれた。
万年平社員だった私にとって、会社とは出世の階段ではなかった。むしろただの生活のリズムだったのかも知れない。
私は新聞をテーブルの上に置き、仏壇の前に座る。
目の前には、妻の笑顔があった。
仕事の為に死に目にも会えなかった妻。
お前なら、今日この朝をどう迎えていただろうか。
「なあ、お前はどう思ってたんだ?」
そう遺影に問い掛けるが、妻はただ笑うだけだった。
『朝(あーさ)』
夜が明けて間もない時。また、夜明けから正午ごろまでの間。
「―が来る」「―から夜まで」
(大辞林より引用)
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