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私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション111『自費(じーひ)』

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作者駐:『私的国語辞典』は全文無料で閲覧が可能です。ただ、これらは基本『例文』となっておりますので、そのほとんどが未完となっています。基本的にそれらの『例文』は続きを書かないつもりではおりますが、もしどうしても続きが気になる方は、コメントいただければ前向きに検討させていただく所存です(←政治家か


「え?自費なんですか?」

思わず出た僕の素っ頓狂な声に、合宿のしおりを見ていた誰もが不思議そうな目を向けてきた。

「なんですか、って、当然じゃないか」

しおりを拡げたまま顔を上げた増田部長が呆れた様子でこちらを見る。

「うちは運動部と違うんだ。『合宿しますから補助金出してくれ』なんて言えるか?」

部長の至極もっともな答えにうなずきながらも、僕の頭の中は史上初の回転数をたたき出していた。

(金を出さないと合宿には行けない。出さなきゃ行かなくていい……って訳にはいかないだろうし、何より最近いい感じになってる美紀先輩と合宿に行くってのは捨て難いがこの嫌味ったらしい部長と一緒なのがマイナスだし)

ああもう……と次第にめんどくさくなってきた僕がため息をつくと、隣に座っていた美紀先輩が心配そうに覗き込んできた。
やだもう、なんて可愛いんだろうかこの人。

「大丈夫?手持ち無いなら立て替えるよ」

本気で心配してくれてる美紀先輩もまた可愛い。
いやもうほんと、ぎゅっとしたい。

「だだ、大丈夫ですよ何とかなりますから」

僕はまだ心配そうに見ている美紀先輩に何とか微笑みかけながら、残金0でどうやって生活しようかと頭を抱えることになった。



なお、美紀先輩と部長が付き合っていることを知ったのは、合宿初日の夜のことである。

(542文字)

じひ [自費]
自分で支払う費用。私費。


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