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34歳会社員がラジオパーソナリティーに転職した話⑫フィジー編

会社員だった私が、34歳でラジオパーソナリティーに転職するようになった経緯をのんびりと書き連ねている。


湘南(大磯)生まれ、六本木(現在公衆トイレ)・大塚育ちの母とし子の話はこちら、34歳会社員がラジオパーソナリティーに転職した話⑪フィジー編

4週間noteから遠ざかっている間に、日本の総理大臣は変わり、季節も進み、すっかり空気が冷たくなった。

私はというと、今もこうやって10年以上前の常夏フィジーの話を続けるのである。


母とし子のピンチ

日本語しか喋れない母とし子がひとりダイビングに出かけた。

補足すると、日本語を母語として喋っているが、カタカナが苦手なのは古い人あるあるなのか。

バーミヤンは「ビャミヤン」になるし
ディズニーランドは「ネズミランド」

カタカナが苦手と思わせつつ「バックストリート・ボーイズ」ははっきりと発音するからよくわからない。
BSB(バックストリート・ボーイズ)が最近のお気に入りらしい。BTSじゃなくBSB。


話は戻って。
とし子はひとりダイビングに出かけたものの、たったひとりでフィジーの海に潜るわけではない。
ホテルのプライベートビーチには、ウォーターアクティビティ専門のスタッフがいて、ちゃんととし子の面倒を見てくれていた。

そのスタッフからホテルの部屋に電話があり、呼び出された私はビーチに向かって走っていた。

ビーチのそばに建つ小さな小屋が見えてきた。
そばにはダイビングの練習用か、小さなプールもある。
私はあがった息を整えながら、小屋を覗き込むと、母とし子が身体の大きな数人の男女に囲まれて座っていた。
とし子の身長は150センチないくらいなので、大人に囲まれている小さな子どものようにも見える。何事か…と思うが、真ん中でニコニコ笑っているとし子の顔を見て少しホッとする。

スタッフたちの話によると、ダイビング前にメディカルチェック(病歴調査)を行わないとならないが、英語がわからないとし子は渡されたチェックリストを見て、何も考えずに適当に丸をつけてやり過ごそうとしたようだった。
私は最初から付き添わなかったことを悔やんだ。
私も英語が話せるわけではないが、書いてある文章はさほど難しくない。

楽しげに笑う母の隣に座りチェックリストを覗き込む。
スタッフたちが私たちの様子を見守る。


・最近手術しましたか?……してない

・心臓病の病歴はありますか?……ない

・喘息は?……ない

・高血圧ですか?……まあ大丈夫

・現在喫煙をしていますか?……してない

こんな具合に、私が質問をひとつひとつペンで追いながら、とし子との一問一答が進んでいく。
スタッフたちは日本語で交わされるその様子を静かに見守っていた。


【現在、妊娠していますか?】

という一つの質問で私のペンが止まる。
スタッフたちの動きも止まり、瞬間小屋が静かになった、気がした。

「あなたは現在、、妊娠…していますか?」

私は静かな声で母に質問する。
とし子は私の顔を見ると小さな目を丸くした。
続けて、ふくよかな自分のお腹を指差し、小屋に響く大きな声をあげた。

「Oh!! This?? Meat!!」

meat
主な意味
(鳥肉、魚肉 と区別して食用とする動物の)肉

引用: Weblio辞書 英和辞典


「ああ!これ??食肉!!」

心配そうに私たち親子を取り囲んでいたスタッフたちが一斉に笑いだした。
文字通り、腹を抱えて大笑いをしている。

とし子は、その真ん中でお腹を付き出し、ひとり満足げな顔をしていた。
母とし子のユーモアは広い海を超え、オセアニアの小さな島でも通用したのだ。ビーチのそばの小さな小屋で私たちは大笑いをした。

その後、問題なくとし子はダイビングを楽しみ、私は部屋で読書の続きを楽しんだ。




母への恩返しが目的だったこのフィジー旅で一番印象に残っているシーンだった。


母と私は顔も声もそっくりだ。
それは年々強く感じるようになった。
全く似ていないのは、性格。
もちろんすべてを真似したくはないが、彼女の失敗を恐れないその姿勢は見習うところが多い。

病気からの復活、母とし子との旅で私はゆっくりと意識が変化することを感じていたのだった。


フィジー編はそろそろここまでにしようかな。
また近々旅に出たいななんて思っている。





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