5 ティンタジェル 男たちの町①
「面影を追い続ける男」 5 ティンタジェル ー男たちの町①ー
いつのまにか山道を走っていた。
山の中腹に石で積み上げられた建物が見えてくる。
もう長い間休憩を取ってなかったことに気付いて、そこで車を止めた。
砂利を踏む自分の足音に混ざって、どこからか水が流れる音が聞こえてくる。見回してもすぐ近くに川がある気配はなく、石の建物から発しているように思えた。
建物の右端に小さく出ていた木の看板には『パブ マンズ・タウン』と出ている。扉を開けると、狭い店内はガランとして誰もいなかった。
よく目を凝らすと店の奥に張り紙がしてあり、<地下は営業中>と書かれている。古い木の香りがする店だ。
奥へ歩いていくと下へ続く階段があり、ローソクが足場を照らしている。
二十四段降りると、地下は広々として明るかった。
たくさんの丸テーブルを、たくさんの男たちが囲んで話に熱中していた。
ほとんどはこの土地の者であるようだったが、よそ者の俺が入って行っても、誰も好奇の目で見ようとはしなかった。
寧ろ、わざと存在を無視されたと言ってもよかった。
*
カウンターでスコッチ・アンド・ソーダと少しつまむ物を頼み、一番奥のテーブルに座った。
横には大きな窓があり、外には窓の高さの分だけ上の地面を掘り下げて作られた中庭があった。中央に噴水があり、そこから大量の水が噴き出し、どこかに滝のように流れて行く。
周りの木々の緑から漏れる光の帯がその水に反射して、きらきらと店内を明るくする効果を保っている。見ているだけで、自分の中が潤ってくるような潔い水の流れ。
急に疲れを覚え、再び立って歩き出すタイミングを失っていた。
薄暗くなった店内にはいつしか村人たちも店員たちもいなくなり、俺とカウンターでグラスを磨くバーテンダーだけになっていた。
時間を聞こうとして腕を指す仕草をすると、彼は「上で飲みませんか」と静かに言った。
灯りが一つ一つ消されるのを見届けると、夜の闇の中で店は静かに今日を終えた。
いつか自分の本を作ってみたい。という夢があります。 形にしてどこかに置いてみたくなりました。 檸檬じゃなく、齧りかけの角砂糖みたいに。