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僕と君 6 フードとホチキス


君は、フードが似合う女の子。
フードかぶせると、きのこの精みたいになって
いたずらっこな感じが、さらにアップする。
何かやらかしそうな瞳に気が気じゃないよ。

でも暑がりだから、かぶせたフードをすぐはずしちゃうんだよね。

君に似合う絵本を選ぼう。
行進している小さなきのこにしようか。
それとも、アリスを見下げるくらいの大きいのにしようか。

アリスのように迷子になってしまったら困るから
ちゃんと抱きかかえて読むよ。

君がいちど脱走した日のことを、今でも夢に見る。

ママがお隣に回覧板を持って行った、ほんのわずかな隙に
君はママを追いかけて外に出て行ってしまった。

僕はあの時ソファーに寝転がっていて、まったく気づかなくて。
ママが戻って来て、あれ? って探していた時も
かくれんぼでもしているんだと思ってのんびりしてた。

「パパ、あの子の靴がないの」
ママが真っ青になってるのを見て
事の重大さに気づいた僕は、あわてて外に出た。
まさか、道に飛び出したりしてないよな。

向こうの方から、知らないご婦人に手をつながれて
トコトコ歩いてくる赤いきのこを見つけた時のきもち。
あと少しで、もっと車の往来が激しい道に出る寸前で
気づいてもらえた、奇跡のようなできごと。

ぽかんとしてる君を思いっきり抱き上げて
僕は泣き出しそうな自分を精一杯抑えて、やさしい人にお礼を言った。

よかった。ほんとに、よかった。

夢の中でも、ちゃんと、いつも戻ってくるんだ。

ママが、ホチキスの針がないと大騒ぎしていた。
紙をはさむ前にカチッて押しちゃって
針だけがどこかに飛んで行っちゃったんだって。

君が見つけて口に入れたりしたら大変って
僕もあわてて捜すけど、なかなか見つからなくて。

ねぇ、こんなに捜しても見つからないってことは
もしかしてこの子、すでに飲み込んじゃってるんじゃないのかしら。

ママはそう言って、八文字まゆげになってる。
いや、それはないだろう、この子平気な顔してるし。

あ、まさかね。

ふと思って、君の首の後ろにちょこんとあるフードの中を探る。

あった、これだ。ホチキスの針。

えー、ここにちょうど飛び込んだの?
私にくっついてたものね、この子。

いたずらそうに笑ってる君に、ほおずりするママ。
ちょっと迷惑そうにしてるキノコの君。


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⇒ 『僕と君』 7 かじられた絵本


いつか自分の本を作ってみたい。という夢があります。 形にしてどこかに置いてみたくなりました。 檸檬じゃなく、齧りかけの角砂糖みたいに。