僕と君 16 束の間の均衡
君が生まれてから、何枚の写真を撮っただろう。
PCには溢れんばかりの、数え切れない君。
運動会なんて連写するから、教科書のページの隅っこに描く
パラパラマンガみたいに、写真で動画ができるくらい。
アニメーション映画も真っ青なコマ割りだ。
僕はその中から、特に気に入ってる写真を
葉書サイズに焼いて、ファイルに保管している。
僕の宝物だ。もう何巻目になるだろうね。
更にその中からセレクトした特別ファイルを、いつも持ち歩いている。
「もうすぐね、学校で「1/2成人式」っていうのがあるの」
と娘が言う。
何だ、その2分の1って。
成人が20才だから、その半分の10才の記念なんだって。
自分の思い出のアルバムを作って
パパやママが来る保護者会で作文を発表するの。
それに使う写真、パパのそのファイルからもらってもいーい?
生まれた時
はじめて立った時
はじめて食べた時
幼稚園のお遊戯会
小学校入学
そして今
君が聞く。生まれた時の身長と体重を教えて。
わからないよ、母子手帳に書いてあるだろって言ったら
ママがすかさず、具体的な数字を言う。
41センチ、2615gよ。
覚えてるんだ!
予防接種の申込書にいつも書くのよ。
学校からの書類にもね。だから
「よい風呂行こ(412615)」ってゴロ合わせで覚えてるの。
はぁ、すごいな、ママは!
ところで、君はわかるかな。
ママが腕組みをして、僕にクイズを出す。
いたずらっぽく笑いながら、とても嬉しそうに。
さて、今、この子の身長は、何センチでしょうか。
えっと、そうだなぁ。ずいぶん背が伸びたよなぁ。
お辞儀したら、すぐごっつんごできるくらいに近い。
そうだなぁ。140センチくらいか。
ブブー。おしい! 君と君が口をそろえて笑う。
娘は少し口を尖らせてる。
ママがそっと、自分の頭の上に、ぼくのファイルを置く。
ちょうどこのファイルが私たちの身長差でしょ。
葉書サイズファイルは、縦15センチ。
僕が171センチで、君が156センチだよね。
うん。それは知ってる。出会った頃からのぼくたちの距離。
ふふって笑って、今度はママが君の頭にファイルをのせる。
ほらって、二人が並ぶ。あ、ちょうど同じくらいになる。
つまり娘は、今141センチ。
10才の君+15センチ=ママ。
ママ+15センチ=僕。
それが、この瞬間のわが家のサイズ。
僕と君は、30センチ定規ひとつ分。
まだまだ小さく思えるけれど、君は日々伸びている。
生まれた時が41センチってことは
10年で君は1メートルも伸びてるんだ。はぁ、すごい。
でも、あとひと月もしたら、きっとこの均衡は破られる。
今だけの、魔法のような偶然。
いつか自分の本を作ってみたい。という夢があります。 形にしてどこかに置いてみたくなりました。 檸檬じゃなく、齧りかけの角砂糖みたいに。