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空想トリップ 💧


雨が降っている。
窓のこちら側にさえ伝ってくるのは、侵害。
こちらにおいでよと誘うつもりなら、お断り。

あめかんむりに下と書く君は、しずくなんて響きをもらってる。
その時点で、私とは合わない。

睨んだところで平気な顔の💧は
人だったら、キライになってしまうのに。
君が雨の使者だからゆえ、指で止めるだけの意地悪でとどまる。

🌂

本当は私の赤い傘が狙いなのでしょう?
私に似合わない、真っ赤な傘。
太陽のようなお母さんが買ってきた誕生日プレゼント。

いまどき、どこの女の子が赤い傘を差しているというの?
童謡の中の子じゃあるまいし。
私にはもっとくすんだ、道に溶け込むような
そうね、泥みたいな傘がお似合いなのよ。

しずくはパステル。鮮やかな六月の光をまとう。
「りこちゃんだって、今日は明るいお洋服着てる」
ああ、とうとう君の声が聴こえるようになっちゃった。

傍から見たら、ただの空想ばかりの内気な窓際少女。
すこし明るい色の服を選んでみたことも君にはオミトオシ。

決してお母さんが言ったからじゃなく
たまには着てみようと思ったのは、わたしだった。
だから、ずっと、そわそわしてる。
透明なレインコートが脱げない。
隠しても隠し切れない、透ける色。

🌂

「ふうん、君は周りの反応なんて気にしないと思ったよ」
なーんだ。ぜんぜん、私のことわかってない、この雫め。

私は、わたしは、人の目が気になって仕方がない。
そして、そんな自分が捨ててしまいたいくらいイヤなの。

「でも、君の空想の中は、とても居心地がいい」
たとえ雫でも、そんなことを言われると、少し嬉しくなる。
って、それ、私の世界への侵害だってば。

🌂

窓の外は心配ばかり。
あ、パシャッと音がして、道で転んだ子がいる。
その気持ちが、一瞬にして私に入り込んできた。
誰もいない。誰も助けてくれない。
水たまりに落ちた本がみじめにふやけていく。

「君はやさしい子だから、わかるんだね」
その子は一瞬泣き出しそうになりながら、ぐっとこらえて拾ってる。

わかっている。雨が悪いんじゃないわ。
私の視線に気づいて振り向いた。
目が合った。その子は笑ってこっちに手を振る。

私にはそんなことできない。逆の立場だったら、無理。
だから、私も勇気を出して、ほほえんでみた。
手をひらひらっと振ってから、こぶしをぐっと握ってみた。

🌂

窓辺のこちらがわとあちらがわ。
それなのに、伝わる何かがあるのなら。
この世界も悪くはない。きっといつかもっと。

窓を挟んではねたり、すねたり、行ったり、来たり。
ね、明日も君が来てくれるなら、あそぼっか。




モノカキコさんのイラストで
散文詩を書かせて頂きました。

カキコさんが書いた『窓辺トリップ』にあやかって
タイトルを、空想トリップ。にしました。
いつもすてきな世界をありがとう! ♡ ♡


モノ カキコさんの 『蝶を封じる』が
ノベルアップ+のコンテストで優秀賞に選ばれました!
このnoteでも読めるので、ぜひ!
私のだいだいだいすきな作品です! 🦋


ああ、梅雨が秒で終わって、雨の物語が浮いている。
もう夏、なのだ! 🌊🌴


いつか自分の本を作ってみたい。という夢があります。 形にしてどこかに置いてみたくなりました。 檸檬じゃなく、齧りかけの角砂糖みたいに。