マガジンのカバー画像

- - - 8× キリトリ - - - 欠片

30
映す。キリトル。 風に吹かれてシャッターを切る。 写真と言葉の融合する実験。 ✜ すてきなイラストに言葉をつけたりもします ✜
運営しているクリエイター

2019年6月の記事一覧

あの日の紅い花びら

今日は一日、あの人のことを考えながら、旅をしていた。 その人が私だけに言ってくれた言葉を 心の中で反芻していた。幾度も、何度でも。 心ここにあらずで見ても、何倍にも色鮮やかに語りかけてくる風景。 ファインダーに映る日常の切り取りが いとおしく想えてくる瞬間。 こんなきもちをくれた人に、この六月が特別になったことを言いたくて 水色の風船に伝言を結んで、そっと手から空に放した。 いつか、ゆっくり、もっと先に届くように。 その時、まだ一緒に、ずっと横にいてほしいと、願いをこめ

紫陽花の行く先

枯れている花にも、命がある。 存在感という欠片が残っている。 美しい花も茎も、いつしか皆、枯れ逝く。 最後に辿り着くのは、みな平等に底であるのなら。 その耽美は、輝いている者に注がれる視線ではなく 朽ちていく者への愛で、満ち溢れている。 さみしさや苦しみさえも身に纏って いつしか行く道に、真っ直ぐ立ち向かうかのように。 そのフォルムに敬意を抱いて。 私は文章でそんなことを書ければと、ふと想う。 最後まで貫く視線に自分も乗るのだという、想像力を持ちたい。 記憶の中では

日向の紫陽花

雨の露にこそ似合う紫陽花が、日光に晒されてる。 近寄って、日傘を差しかけてみる。 そんな子たちは、太陽に向かってくすぐったそうに笑うから なかなかピントが合わないよ。 お願い、ちょっとだけ止まってみて。 鎌倉、浄妙寺にて、六月。 ここの紫陽花は種類が多いんだ。 青、紫、ピンク、白。 色見本のハンカチに染めたいような、和の色が揺れている。 日向の色、日影の色、沈む色。 川にひと片、落ちて流れたのなら 誰かが待ち構えて掬って、手のひらに並べるの。 まるで、貝殻拾いのようにね

刺繍の白花びら

アナベルという名の、紫陽花のなかまがいるのです。 白いレースの刺繍のハンカチーフのような。 小さな花びらの集いは、みっつだったり、よっつだったり。 カリフラワーに襲われそうな、もこもこ具合。 泡泡のシャボンみたいに、いたずらなクリーム色。 小さなどうぶつだったら、潜って遊んでみたくなる。 くも、メレンゲ、ふかふかわたあめ! 和の紫陽花は、あまり香りがしないのに このアナベルはいい香りがする。 えっとね、欧羅巴の匂いなの。 秘密の香水、夕方の気配、待ち合わせ。 夢の中の少