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4:九郎、その2「負けるもんか」/BARBEE BOYS

それからというもの、気が抜けないのなんの。
瞬間的に始まったこのゲームは

「惚れさせたら勝ち、本気になったら負け」
という
「本気で遊びをギリギリでやる」

ルールも、互いに何も言わずに決まった。
この時点で互いに惚れてるようなものなのだが、似た者同士がぶつかり合うなど滅多にない。
ここぞとばかりに火花を散らしあうしかない。

2人とも外回り中心で、残業が比較的少ない仕事だから、メールを打てば数分で返事がくる。隙のあるような、感情がこもっているような一文を見つければ、そこに
「刺さる、ドキドキさせる、動揺させる、時にはゾッとさせる」
言葉を打ち込み、どんどんと互いに深堀りをしあう。

踊り踊らされて時に抱き合えそうな距離まで近付き、また別の機会にはお互い他人に見せないような憎悪を放ち、怒鳴り散らすような言葉を吐く。
当時思っていたのは
「バービーボーイズの歌詞みたいな関係だな…」
私は杏子ほど強くもセクシーでも、クルクルと回って踊るほど器用でもないけれど。

ここまでの電撃戦だというのに昼間のメールのやり取りと、夜のチャット以外での進展がなかったのは、私が東京、彼が名古屋という、割と遠距離だったから。
あと一つ。
私が電話が極端に苦手というか、自分の声や喋りが嫌いかつ、メールとイメージが酷く乖離してるのとで
「声を聞かせて?」
というのにだけは応じなかったからだ。
けれど
「ゲームを進めるためには」
その要求に応じるのが絶対条件であり、
「降りるという選択肢」
は私の中に全くない。

常日頃、携帯電話で事務連絡以外で通話をしないので、歯をカタカタ鳴らしながら教えてもらった番号にかけた。
電話で通話をするのが怖いとは、テクノロジーの進歩のせいである。

呼び出し音が切れたので、いきなり言った。
「電話かけた」
「そんな声してるんだ。意外と可愛い」

普段激しい言葉を刺してくる彼は、穏やかで優しい声をしていた。
…………ただし、彼は勧誘や案内電話のインストラクターという
「人を声で操るプロ」
であったりもするのだ。
心地よいペースとトーンで話を途切れさせないし、こちらの話題にはどうぞ好きなだけ、と促す相槌を打つ。
必死で自分の心をガードする方向に舵を切った。
「そういう話し方で、いつも女上機嫌にさしてんの?」
と聞いたら
「お前ふざけんな」
と大笑いされた。

何かあるごとに笑い話にしたり、ゲームの話に持っていく私に、彼は突然こう言い放った。
「この女狐が!
今月の末に、最終の新幹線で東京行ってやるからな!」

それは宣戦布告であり、私としては
「そこまで入れ込むの!?」
であり、女狐としては、獲物がどんどんと沼にハマっていく快感でゾクゾクするのであった。


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と思ったらば、100円玉2つ、お賽銭感覚で入れていただけると…

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