性欲が引き起こす肉体と精神の捻じれとその治療法

 私はまず第一に、性欲というのは単純な生殖本能であると捉えている。
 他の生存についての欲求が満たされ、体が「この場所、この時は安全である」と判断した場合、人間の体は自動的に生殖活動を求めるようにできているのだろう。
 私は基本的に家の中以外では一切性欲を感じない。何か対象に対して「エロいな」と思うことはあっても、それはあくまで記憶の中にしまい込まれるだけど、その場で何か衝動を感じることはない。
 外は危険である、と私自身の肉体が判断しているからだと思われる。

 肉体と精神は本来同じ方向を向いていた方が健康的で、それが反対の方向を向いている時、奇妙な捻じれ方をする。
 特に性欲は顕著で、抑え込まれた性欲は奇妙な方向に向かいがちだ。

 前述したとおり私は実際の外の生活では本当に性欲を感じにくいので、外で生きている期間が長ければ長いほど「私は性欲の弱い人間だ」という自己認識を強くする。
 ただ、そう過ごしているときに限って自分の部屋で気を抜くと、頭の中に意味不明な想像が掻き立てられてくる。それこそ病的で、危険な想像が、自分の意志ではなく勝手に湧き上がってくる。
 レイプ願望であったり、自傷衝動であったり、性転換的な想像であったり。
 そういうものを想像しながらひとりで耽るのは、自尊心をひどく傷つける。ただおそらく肉体の目的は、精神の過剰な自尊心を傷つけることなのではないかと思われる。
 「セックスなんて馬鹿げた行為に惹かれてなるものか」という精神のプライドを、肉体は強い意志を持って引き裂こうとしていたように思う。実際、私の精神はそれを受け入れざるを得なくなった。
 ともあれ、精神にそぐわない肉体の反応が多く引き起こされることを「肉体と精神の捻じれ」だと私は感じる。

 ここで、精神が肉体に対して譲歩した場合、その捻じれは緩やかに改善されていく。
 肉体が求めていることを、精神が先んじて満たしてやればいいということだ。
 言い換えれば、我慢をしないこと。自分の趣味を確立し、頭で考えた「こうであるべき」を全て取っ払ってしまうこと。

 精神が肉体を虐待すると、肉体は精神に見えない復讐をする。それが拒食症であったり不眠症であったり異常性癖であったりするわけだ。

 捻じれを解す、つまり肉体と精神を和解させるには、まず肉体を軽蔑するのをやめなくてはならない。
 己の性欲にも、加害欲にも、しっかり居場所を与えてやること。それが必要なものであることを認めてやること。己の醜さから目をそらさず、そこに品のいい化粧を施すこと。
 それが精神と肉体を健康に保つコツであると、私は思う。

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