人工太陽

 新しい太陽が昇ったらしい

 ニュースでその話を聞いたとき

 お母さんが喜んだ お父さんも喜んだ つられて私も喜んだ


 新しいタイプの太陽だ これまでなかった太陽だ

 すごいぞすごい みんな大喜び


 そんな中 ある人が言った

 この太陽もいつか沈むんだ

 古い太陽が今まさに沈んでいるところだ


 人はみんな彼を非難した

 なんでそんなことを言うんだ

 人の権利を侵害するな

 お前は間違っている


 その人はしょんぼりして立ち去ってしまった

 私はかわいそうに思って追いかけた

 ずっとずっと追いかけた


 あるときその人は立ち止まって 振り返った

 どうしたの 危ないよ

 危なくなんかないよ 私はひとりで帰れるもん

 本当に

 本当だよ

 じゃあ安心だね

 うん安心


 そういったしゅんかん その人は消えた

 私はひとりぼっちになって その人が私自身だったことに気がついた

 新しい太陽が遠くの方で沈みかけている


 戻ってみると みんなが悪口を言い合っている

 次の新しい太陽はいつか 暗いのはごめんだ

 お前のせいだ いや私たちみんなのせいだ

 嘘をつくな 誰も間違っていないんだ

 まだ暗くなってないうちから 皆がお互いを悪く言い合っている


 そんな中 ある人がこんなことを言った

 私は沈まない太陽を作りました

 みんなが喜んだ 人工太陽が空に打ち上げられて それがさんさんとみんなを照らした

 眩しくて私は疲れてしまった みんなも疲れているようだった


 でも もうこれで不安にならずに済むと みんなは喜んだ

 疲れた目で 眠れない目で お互いの顔を見合しては 幸せだね と言った


 私はなんだか怖くなって あの人が教えてくれた静かな場所を目指した

 人工太陽が追いかけてくる

 お前はどこに行く お前はどこに行く

 私は私の道を

 お前の道なんてどこにもない お前はただの引きこもり お前はただの不適合者

 それでもいい それでも私はお前のいないところに行くぞ

 私は逃げた やみくもに

 時々寂しくなって 戻ってきてしまうこともあった それでも振り返って逃げた

 耐えられなかったのだ


 人工の太陽なんて嫌いだ 新しい太陽も 欲しくなかった

 私はただ 静かに休みたかった


 そこには あの人がいた

 久しぶり

 うん

 どうしたんだい

 疲れちゃったの

 ゆっくりしていくといい

 でも ずっとこのままではいけないんだ

 なら ここで少し休んでから もっと先に進んでみるといい 戻っちゃいけないよ

 分かった


 そうしてずんずんと進んでいった 色々な怪獣がいて 面白かった

 その怪獣が言うには はるか昔 人間たちは 私たち怪獣を怖がって 怪獣のいないところに集まって住むことにしたらしい

 怪獣は 私が人間であると気づかなかったようだった でも多分 気づいたとしても 食べたりはしなかったと思う

 あの怪獣も きっと私だから

 色々な石の象もあった 首がないものもあったし 古い太陽の像もあった

 十字架もあったし ヘビもあった

 人生は楽しい そう思った ずっとこうやって 捨てられた古い像を見ているだけで この人生を耐えられるような気がした


 そうして時が経ったとき 私の目の前に 小さな知らない像が落ちていて 私はそれを拾って眺めてみた

 人工太陽と書かれたそれは 少しも美しくない へんてこな 石の塊だった

 こんなものが皆を照らしていたのかと思うと なんだか懐かしい気持ちになった 少し寂しい気持ちも同時にやってきた

 私は少し泣いてから 人工太陽をポケットに入れて 新しい太陽を作ることにした

 沈まない太陽ではなくて 何度でも昇る太陽を

 暗い夜を必ず望み 新しい朝を約束する太陽を

 私は私だけの新しい人工太陽に 知性という名前を授けた

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