高級な遊びについて

海「ねぇねぇみんな。私さぁ、遊びにも、ランクってのがあると思うんだよね」
友里「高級な遊びと、低級な遊びってこと?」
海「そう」
真子「まぁ、それはあるだろうな」
珠美「でも、お金がかかる遊びが高級な遊びとか、そういう風には私は思わないよ。ねーりっちゃん?」
理知「うん。でも海は、お金とは別の基準でその話をしようとしているんだよね」
海「そうそう。まずはさ、遊びにどんな要素があるか各々挙げてみてよ。ブレインストーミング!」
友里「おっけい」
・かかる金
・必要な友達数(とその関係性)
・かかる時間
・必要な技能のレベル
・必要な才能のレベル
・楽しさの持続時間
・生じる感情の多様性
・成長を感じられるかどうか
・実際に成長しているかどうか
・その遊び以外にも影響が及ぶかどうか
海「まだまだ出てきそうだけど、この辺で止めとこうか」
真子「うん。それじゃ、割と自由に話して考えをまとめようか」
珠美「おっけー。じゃあ友里ちゃん話振って」
友里「うん。私さ、キャバクラとかで遊ぶのって、この世で一番低級だと思うんだよね。当然ながら私自身は行ったことはないんだけど、親父が通ってるからさ、興味持ってネットで調べたりして見たんだけど、なんか気持ち悪いなぁって」
海「キャバクラかぁ。ホストクラブと同列で見ていいよね?」
真子「私はいいと思う。結局若い異性にちやほやされに行くってことでしょ?」
珠美「男の人の場合、仕事場の人との付き合いとかもあると思うよ」
友里「風俗とかもそういう風に人間関係が云々って話聞くけど、私、正直それ嘘くせぇって思ってるんだよね。飲み会とかはまだ……分かんなくはないけど」
海「どこで飲むかって話なんじゃないの? 結局キャバクラとかホストとかって、気持ちよくお酒飲みたいから行くんじゃないの?」
真子「じゃあここでの論点は、お酒を飲む、という遊び方は高級か低級かって話だね」
海「基本は低級だと私は思うな。成人してたらほとんどの人は飲めるわけだし、努力も技能も必要ないじゃん。あ、でも、飲み比べとか、お酒の味そのものを楽しむっていうんだと、高級かも」
珠美「料理を楽しむような遊びは、海ちゃん的には高級なの?」
海「どちらかと言えばそうじゃない? あ、まぁ、ただ食べておいしーって言ってるだけなのは高級とは言えないし、食べたことないものを食べてみたいだけ、っていうのも、そうだと思うけど、それとは別に……何というか、美食、っていうのかな? そういうのはちょっと高級なイメージある」
友里「理知はどう思う?」
理知「美食は、食文化における価値の決定にも関わっているから、娯楽を超えたものがあると私は思うな。色々な食べ物を食べていて、はっきりとその人自身の趣味が存在し、よい食べ物とよくない食べ物を評価できる。それは言い換えれば、料理人を評価するってことでもあって、彼らの遊びがより高度な技能を持つ料理人の仕事を成り立たせているという意味では、とても高度な遊びと言えると思う」
海「ほうほう……だとすると、優秀なキャバ嬢とかホストを真剣に評価して高い金を払うのも、一種の価値査定と言えると思う?」
理知「自分の欲望を超えた基準を持っていて、自分がやっていることの意味を明確に理解しているなら、言えると思う」
珠美「マジっすか理知さん」
友里「少なくともうちの親父はそういうアレじゃないな」
真子「いろんな人がいるから一口には言えんっちゅうわけやな。でもそれだと、あらゆる趣味に対して同じことが言えるんじゃない? それこそ、ホストの良し悪しとかを自分の感覚だけじゃなくて、色々な要素を見たうえで判断するのって、生半可な知識や経験じゃできないわけだし、それも一種の技能というか……」
珠美「真子ちゃん、もしかしてホストとか興味あるの?」
真子「いやないけど」
友里「あるなら正直に言っていいんだぞ」
真子「そう言われると、全くないとも言い切れない気がしてきた。まぁでも、もっと別の趣味の方に話を進めようぜ」
海「ゲームはどう思う?」
友里「そんなん、ゲームの種類に決まっとるやろ。課金したもん勝ちのスマホゲーとかはクソだが、Eスポーツ、みたいに言われてるのはまぁ、何も考えずにやってるんじゃない限りは、多少高級と言えるんじゃないの?」
珠美「脳トレみたいなゲームもあるわけだしね」
海「うーん。結局は遊びのランクって、それにどういう意識で向き合うかって感じなのかな? それ自体に、貴賤はないのかな?」
真子「遊び方に貴賎があるのであって、遊びそのものには貴賤はないのかもな。どんな優雅な遊びでも、ルールやマナーを無視して騒ぎまくってたら、そりゃもう、低級な遊びとしか言いようがないでしょ」
海「あぁじゃあ、問を変えよう。高級な人間が好む遊びと、低級な人間の好む遊びって、何か共通点があるんじゃないかな?」
友里「やっぱり、高級な人間は遊びにも真剣になりたがるだろうから、真剣になればなるほど面白くなるような遊びとか、あるいは真剣じゃないとまともにできないような遊びをしたがるんじゃない? 危険なこととかもそうだし、他者との深い関係を必要とするような遊びとか」
海「それだと、低級な人間は真剣じゃなくても楽しめるような遊びを好むわけだ」
友里「そうなるな。動画を見るだけだったり、友達とくだらない話をしたり」
珠美「それ私たちのこと?」
海「私は真剣に議論してる」
友里「私もだ。めっちゃ頭使ってる」
珠美「モウシワケアリマセン」
真子「まぁまぁ、それはまぁどうでもいいんだよ。でも、真剣じゃないと楽しくないっていう感覚は分かるし、逆に、何をやっても手を抜いたり悪ふざけするような人間もいて、そういう人間の気持ちも分からなくはない。真剣になるのって疲れるし、それでうまく行かないと苦しい気持ちになるから」
友里「っていうか、悪ふざけでやってても空しくなるだけだろ。時間の無駄っていうか」
珠美「ウッウッウッ」
海「まぁ悪ふざけするにしても、その悪ふざけに真剣になっている分にはいいんじゃない? 何というか、悪ふざけしながら自己保身に走ったり、誰かの悪口で盛り上がるだけだったり、そういうのは低級な遊びだと思う。本当に」
真子「それだとテレビをただぼぅっと見てるだけなのも、低級というわけだ」
海「自主的にパズルを解いたり、勉強したり本読んだり、そういうことを楽しんでいる人と比べて、受動的で、別に真剣じゃなくても楽しめちゃうような遊びばっかりやってる人はやっぱり人として低級じゃない?」
真子「んー……でもそれだとさ、この社会の大半の人間が低級ってことにならんか?」
友里「低級だろ」
珠美「でもだからと言って、常に頑張っているのも大変じゃない? 息抜きは必要だと思うんだ」
真子「それに関しては私もそう思う」
海「そうだね。でも遊びってさ、息抜き以上のものじゃん? だって、喜びや楽しさ、幸せを司ってるのが、遊びなんだから。『遊び=息抜き』って考えるのは、違うと思うんだ」
友里「そもそも息抜きって何なんだろうな」
真子「でも友里も漫画とか読むじゃん。漫画とか、真剣にならずに楽しめるものなわけじゃん? 低級でもいいの?」
友里「低級だなぁ。まぁ誰しも、その両方の遊びを楽しんでいるんじゃない? ただ、どういう割合でやっているかっていう差があるだけで」
海「真剣でいる時間が長い方が、高級だと思う?」
友里「うーん。そう簡単に考えていいとはあんまり思えないな。理知はどう思う?」
理知「私にとっての高級な遊びと、他の人にとっての高級な遊びは違うと思う。何に真剣になれるのかっていうのはそれぞれ違うから。そのうえで、その時、人ができることっていうのは、その人自身の意思よりも環境や偶然の出会いに左右されるから、実際にどれくらいの時間を使っているか、っていうのはその人の高低を測るのには適していないと思う」
友里「ふむ……理知はさ、そもそも遊びが高級かどうかっていうのが真剣になっているかどうかっていうこの定義自体には、賛成できるわけ?」
理知「それだけが唯一の定義だとは思わないけど、ひとつの分かりやすい基準として議論の軸にすること自体には反対しないよ」
海「りっちゃん的には、息抜きについてはどう思う?」
理知「息抜きは生きていくうえで誰もが必要とすることだと思う。それに、他者から見たら意味がないように見えても、人は何も考えずリラックスして時を過ごしている間に、多分色々なことを処理しているから、そういう時間は決して無意味ではないと思うし、それにかける時間が長いのがいいか短いのがいいかは人それぞれ異なっているだろうし、一個人が判断できることではないと思う。つまりそこまでくると、信念の問題になってくるわけだね。自分がどういう風に生きていたいか、という問題」
珠美「私は低級でもいいんで楽して生きていきたいでござる……でも時々は真剣になりたいでござる」
真子「私もどっちかっていうとそっちよりだな。あんまり肩ひじはって生きるのは向いてない」
友里「うーん。私はまだ決めてないな。っていうか、いまいち『真剣になる』っていうのがよく分からない。気づいたら真剣になっているもんだし、あんまり意志の問題ではないような気がする」
海「同じく。私は精一杯不真面目に生きているつもりなのに、みんなは私のことを真面目だって言う」
真子「精一杯不真面目って完全に矛盾してるんだよなぁ」
理知「もう無意識的なレベルの話なんだと思う。息抜きに関しては」
友里「話し戻すけど、理知的にはさ、やっぱり遊びなら、高級な方がいいと思う?」
理知「楽しい方を選べばいいと思う。ふざける方が好きなら、それでもいいと思うよ。ただ私自身は、ふざけるのが苦手な人間だから、真剣にやっていた方が楽しいし、リラックスもできる」
海「分かる」
真子「いやお前はふざけるの得意だろ」
海「でもスイッチの切り替えというか、そういうスイッチの時は、その方が楽ってのは分かる」
珠美「なんか聞いてると、私は自分の人間性の低さが悲しくなるよ」
真子「別にたまが低いんじゃなくて、こいつらが人間として出来が良すぎるだけだぞ」
海「私はたまちゃんもたまちゃんですごいなぁって思うこと多いけどね。コミュ力化け物だし」
珠美「それはお前もやろがい!」
真子「実際、思ったことそのまま言えるのって強みだと思うぜ。普通、頭よくなればよくなるほど本音って隠すしかなくなるものなわけだし、たまはちゃらんぽらんなところはあるけど、頭はいい方だしな。人の話理解する力あるし、話を繋げる力もある。自分で考えて答えを出せるし、自分にとって不利なこともナチュラルに認められる。変に開き直ったりせず、普通に落ち込めるのも、私にはできないから尊敬してる」
珠美「おいおいおいおい。そんなに褒めると私のフェイスがベリーホットだぜ?」
友里「お前もしかして、褒められたいがために自虐してる?」
珠美「いやいやいやいや! それは誤解ですぜ!」

海「まとめるよ」
・遊びが高級かどうかは、おもに真剣さによって決まる。
・何に真剣になれるかは人によって異なる。
・真剣でない遊びをしているからといって、その人が低級な人間であるというわけではない。(息抜きは必要)
・一個人にとって、真剣になるに値する遊びが「高級な遊び」で、真剣になるに値しない、あるいは真剣になることができない遊びが「低級な遊び」と言うことができそうだ。

海「私的には、誰もが自分の中で高級な遊びと低級な遊びを持っていて、両方が必要だと結論したいんだけど、どう思う?」
友里「私は同意したい」
真子「否定する理由はないな。少なくとも私はそうだし」
珠美「同じくー。りっちゃんは?」
理知「もしかすると、高級な遊びしか知らない人間や、低級な遊びしか知らない人間がいるかもしれない。だから『誰もが』とすることには同意できないかな。でも私自身は自分の中に高級な楽しみと低級な楽しみがあるのを知っているから、『私たちは』なら同意する」
海「納得した。確かにそうだ。高級な遊びしか知らない人間っていうのはちょっと想像できないけど、低級な遊びしか知らない人間は割とどこにでもいそうだ」
真子「人生で一度も真剣になったことがない人ってほんとにいんのかな」
友里「遊びに、って条件を付けたら結構いると思うぞ。遊びに真剣になるってのは、意外と難しいんじゃない? 知らんけど」
海「私たち気づいたら真剣にやってるタイプの人間としては、よく分からないんだけどね」
真子「楽しかったら、夢中になるよな」
珠美「ある意味恋愛とかもそうなんじゃない? 恋愛って結局は遊びだけど、それに真剣になるのが普通、みたいなところない?」
友里「おいおい。恋愛ろくにしたことない私たちにその話ができるとでも?」
珠美「あっ! しまった!」
真子「なんで理知爆笑してんの……」


これぞまさに高級な遊び!

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