能力はそれがどのようなものであれ「使われたがる」

 私には比較的高い言語理解能力と文章構成能力がある。
 私は定期的に理解するのが難しい本を読まずにはいられなくなるし、同じように、高い文章構成能力を用いて何かしら表現しづらいものを表現したくなる。
 それだけなら別に何の問題もないのだが……私には、虚構を産み出す能力にも長けている。それも、矛盾をふくまない、説得力とリアリティのある虚構を産み出す能力に。

 私は定期的に、誰かに嘘をつきたくなる。それも、すぐバレる嘘ではなく、むしろバレる可能性がほとんどないような嘘をつきたくなる。

 自分が経験したことのないことを経験したと言ってみたり(どれだけ細かくそれについて質問されても、即座に返答できるように設定を練っておく)存在しない本のあらすじを楽し気に語ってみたり。

 昔からそういう傾向があったが、早い段階で抑えるようにしていた。そのようなことをずっと続けていれば信用を失うし、自分自身の人格を保つことすら怪しくなるからだ。
(一時期どこまでが実際の私の経験で、どこまでが私が捏造した私の経験か分からなくなることがあった。現実との間に整合性のありすぎる嘘は、危険なのだ。ずっとそれを真実として取り扱い続けていると、それを自分が勝手に嘘だと思い込んでいるのではないか、と疑い始める。自分がそれを嘘として取り扱うのは、自分がそれを真実と認めたくないからではないか、という疑惑が湧いてくる。実際私は、本当にあった自分の過去を自分の中の虚構として取り扱おうとした事例がいくつかある。乖離現象の一種と思われる。エピソードの記憶は取り扱うのがとても難しい)

 おそらく、人の隙を読み取るすべに長けている人間はそれを生かしてものを盗んだりしたくなるだろうし、人から金をだまし取るのに長けた人間も、そうしたいと思わずにいられないことだろう。そういう人たちは現代社会では我慢して生きているのだろうが……常に我慢できるわけではないと思う。

 ただ現代は豊かであり、多種多様な娯楽がある。そのように、特殊な能力を持つがゆえに特殊な欲望を持っている人間が、その欲望を満たすことのできるようなコンテンツが意外と多くある。

 たとえば人を扇動したりコントロールするのが好きな人間は、人狼や最近はやりの「among us」などでその欲求を満たせばいい。欲求というのは、満たされている限りは厄介な衝動にはならない。
 戦争が好きな人間は、ゲームの中で戦争をすればいい。殴り合いが好きな人は、プロボクサーを目指せばいい。

 実のところ、人間に備わった特殊な能力は全て、その人を生かすのに役立ってきたものであり、それがたとえ犯罪的な傾向を持っていたとしても、その人自身にとっては役に立つ「徳」なのである。


 私の「虚構を産み出さずにいられない能力」は、人の退屈を癒すのに役立つ。現実から目を逸らさせるのに役立つ。もし私が、この能力だけに特化したような人間だったとしたら、もっと生きやすかっただろうなぁと思う。それだけを考えて、それだけの道を進めばよかったから。

 私には小さな徳がたくさんある。悪い言い方をすれば、器用貧乏だ。何でもできるわけじゃない。でもできることは多い。だからこそ、色んなことをしたくなる。ひとつのことだけをずっと続けることができない。何をやっても、自分らしくないと感じてしまう。


 人は自分の能力を最大限使いたがる生き物だ。それは自分の「意識」がどう思っているかを問わず、自分自身を内側から動かす「欲望」として現れる。

 多くの強い欲望を内に秘めた人間は、自分の体が引き裂かれるような気持ちのまま生きていくしかない。私はたくさんのことをしながら生きていきたい。そのためには、あらゆる拘束は避けなくてはならない。
 それなのに、愛情や友情といった、その本質に拘束を含むものさえ、私は欲しくなってしまう。私の体は、同じ方を向いて進むことを私に許さない。


 私にはできることが多い。それは、たくさんの罪を抱えて生まれてきたということでもある。能力の数だけ、それが大きな罪に変わる可能性を秘めているから。
 そもそもその能力を持っているということ自体が、他の能力からしたら罪深く感じることなのかもしれない。その能力を行使する邪魔になるのだから。

 あまり先人の言葉を引用するのは趣味じゃないが、私の中の衒学趣味及び人を説得する能力に道を譲って、彼の言葉で締めよう。

 ほら、君がたくさんの徳を身に着けているのなら、どんな徳も、自分が最高のものになりたがる。君の精神をひとり占めしようとする。君の精神を自分の伝令にしようとする。怒るときも、憎むときも、愛するときも、君の力のすべてを要求する。
 どんな徳も、ほかの徳に嫉妬する。恐ろしいのは嫉妬だ。徳だって、嫉妬のせいで破滅する。

 誰の言葉かは言わないようにしよう。
 もしこの言葉が、私の考えた言葉だったらどれだけいいか。私の冗長な自己紹介なんかより、私の言いたいことを簡明直截に言い表してくれている。

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