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記憶媒タンメン

「今日のこの気持、おれは絶対に忘れない。」

感情が高ぶり興奮冷めやまぬ特別な日は、世の中の全てに感謝したくなる。そんな瞬間がこれまで何度もあったような、なかったような...。
日記を読み返せば思い出せる気がするが、日記がどこにあるかがわからない。

かなしいかな、人の脳は眠ると7割を忘れるようにできているそう。
それが嬉しい出来事であっても、段々と記憶は薄れてしまうものだ。

一方「懐かしの味」が、古い記憶を呼び起こすなんてことはたしかにある。

・・・

「麺の硬さ、油、味、夢。お好みは!!」

「かため、少なめ、濃いめ、ゆめ大きめで。」
「はいよー!!ゆめおおきめ!」

若く威勢のいい店員が、わたしの10m先にむかって声を飛ばす。厳格な風貌の店主は黙って麺を湯にかけた。【初心】と大きくプリントされた黒のTシャツは、この店のユニフォームのようだ ━。

ラーメンが記憶媒体として注目されてから久しい。
世のハイキャリア層を中心に、感情や記憶を「ラーメンの味」に保存し、自分の頭をいつもクリアにしておくことが働き方のニューノーマルになっている。

━ 今日わたしは、ひとつ大きな夢を見つけた。人前で話せば鼻で笑われるような壮大な夢だが、たしかに私はこれまでになく興奮している。この気持ちをいつでも思い出せるように、一目散にラーメン店にかけこんだのだ。

そうこうしているうちに手際よく盛り付けがなされ、目の前にどんぶりが運ばれてきた。

「おまたせしました、ゆめおおきめ。冷めないうちにどうぞ。」



#チラシのうらに書くような空想メモ

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