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園田智代子の“甘苦い”サンデー

「我儘なまま」は恐ろしいライブだ。

アイドルがひとりで舞台に立つ。
我々は彼女たちと向き合う ―


こんな経験はないだろうか。
「3人以上の会話は気軽にできるが、1対1の対話は緊張してしまう。」
そう感じる理由を、私はこう考えている。
「1対1は、相手の全てを自分ひとりで受け止める責任があるから」だと。

視線が常に自分に向けられる。


「我儘なまま」は特別なライブだ。

我々がアイドルを見るのと同時に、アイドルが我々を見る。
ひとりの人間が持つ全てを、全身全霊でぶつけてくる。

283プロ所属アイドルのソロパフォーマンスに向き合う覚悟はあるか。

園田智代子は、283プロきっての覚悟を持つアイドルだ。
彼女の理解なくして「我儘なまま」を乗り切ることなどできない。



まえがき:企画に寄せて

「我儘なままへ向けて ソロ曲note連作」という企画が立ち上がりました。
(発起人:ベンプさん(@4benpu4))
アイドルやそのソロ曲への理解を深めることで、ライブを観たときの感動を何倍にも増幅してもらいたい!
というコンセプトです。

多くの執筆者の立候補があり、そのなかで私もご縁があって参加させていただくことになりました。
幸運にも複数のアイドルを任せてもらえる運びになり、嬉しいかぎりです。
私の執筆担当アイドルと記事の公開日程は以下の通りです。

園田智代子     本稿
桑山千雪      公開済
浅倉透       公開済

アイドル・ソロ曲へ少しでも思いを巡らせれば、「我儘なまま」は格段に楽しくなります。
ぜひ他の記事もご覧ください。


構成

本記事では、
はじめに智代子の人物評を、そしてソロ曲の歌詞の解説をする。

なお、【チョコ for Y♡U】園田智代子(My Songs Collection)の内容は含まない。


園田智代子とは

普通

智代子は普通だ。
公式サイトの紹介文にも
「クラスに一人はいるごく普通の女の子。」
とある。

どんな学校だよ、とよくツッコまれる設定
(シャニマス公式サイト)

平凡さは本人も気にしているようだ。
たとえばW.I.N.G.編の冒頭、事務所で顔を合わせるシーン。
智代子はシャニPに声をかける。

この後、「園田智代子さんだね?」「覚えててもらえて嬉しいですっ」と続く
(W.I.N.G.編 [ハロー・スイート・チョコレート])

「私のこと覚えてますか?」からは、少なくともオーディションで強い印象を与えた自信は感じ取れない。

アイドル活動をしていく智代子だが、「個性の無さ」への不安を払拭できずにいた。
それが時に迷走へと繋がってしまうことも。

他の放クラメンバーのキャラが立ちすぎているのもある
(sSR【迷走チョコロード】園田智代子 [普通の女子高生?])
あまりに切実な声色の「個性ほしいもん!」は必聴
(sSR【迷走チョコロード】園田智代子 [待ってるだけじゃダメ])
ヤンキーキャラの智代子と握手をしたファンは何を思ったのだろうか
(W.I.N.G.編 [ビターorスイートor……?])

迷走の末、彼女は気づいていく。
ファンはありのままの園田智代子が好きなのだと。

シャニP「みんなは、そのままの智代子のファンなんだ」
(W.I.N.G.編 [ビターorスイートor……?])

そのままの自分、と言ってもどうすればいいのだろう。

アイドルは難しい。
モデル、歌手、ダンサー、女優、どれでもない。
スキルを磨けば磨くほど頂点に近づくとは限らない。

推される努力の難しさ
(緋田美琴 W.I.N.G.編 [become])

アイドル活動のなかで、智代子は気づく。
「普通」からの脱却ではなく、ありのままの「普通」な自分を受け入れる。
それは、等身大の自分を好きになってくれたファンへの呼応だ。

17歳とは思えない悟り
(pSSR【砂糖づけ・ビターエンド】園田智代子 [一番])
園田……好きだ……
(pSSR【砂糖づけ・ビターエンド】園田智代子 [一番])

「普通」は長所だ。
周囲の人間と共通するものを多く持つ。
親近感を持たれ、それゆえにみんなから愛される。

「みんな大好き」当然のようなフレーズが最高の褒め言葉
(G.R.A.D.編 [きらめくここが私のステージ])

ところで、人々が夢中になるものには、奇跡を内包した物語性がある。

たとえば聖書は最も多くの人を魅了した物語といえるだろう。
一介の異端宗教家であるナザレのイエスが、神として次々と奇跡を起こす。

翻って、アイドルにもその側面があるのではないだろうか。

普通の少女が特別になれる。
普段の姿から、素敵な衣装を着て歌って踊るアイドルへの変容。

普通であればあるほど、アイドルとして一層高く空へ羽ばたく。
この飛翔の高さが智代子の魅力といえる。

跳躍
(Landing Point編 [ライブ2曲目前コミュ≪個人≫])
偶像
(Landing Point編 [ライブ2曲目前コミュ≪個人≫])

チョコアイドル

智代子はチョコアイドルを称している。
最初は足りない個性を補うための思いつきだった。

笑ってしまうほど圧倒的なスピード感
(W.I.N.G.編 [ハロー・スイート・チョコレート])
目を逸らさず自分と向き合える精神力
(G.R.A.D.編 [マイ スイート♡ウェポン])

しかし、ファンはチョコアイドルの園田智代子を応援している。

後付けだったはずのチョコアイドルは、いつしか立派な「個性」へと進化した。
もはや「普通」を隠すためではない。
彼女のアイドルの核であり、アイデンティティだ。

主体性
(G.R.A.D.編 [しなやかに したたかに])
甘くない覚悟
(G.R.A.D.編 [マイ スイート♡ウェポン])

ここまで、智代子が並々ならぬ熱意でアイドルと向き合っていることが分かった。

だが、なぜ智代子はここまでストイックになれるのだろう。

約束

何より押さえるべきポイントは、
智代子は友人から夢を託されてアイドルになった
ということだ。

智代子の友人(あすみちゃん)はオーディションの直前、迫りくる不安から審査を辞退してしまう。
(詳細はsSSR【かきまぜたら*ミルク】を参照)

転機は急に訪れる
(sSSR【紅蘭偉魔空珠に挑め!】園田智代子 [応えないのは嘘になるでしょ?])
(sSSR【紅蘭偉魔空珠に挑め!】園田智代子 [応えないのは嘘になるでしょ?])
(pSSR【かきまぜたら*ミルク】園田智代子 [バイバイ、そしてはじめまして])

智代子のストイックさの原点は、
あすみちゃんの夢を絶対に叶えるという信念
なのだろう。

彼女は、友だちから夢を託されました。
初期の頃、散々迷走してい(てなんとなく面白かっ)た個性探しですが、このエピソードから考えると「なんとしてでも立派なアイドルにならなければならない」という切迫した想いが、彼女にあったのだと思います。

園田智代子、誕生日おめでとう
(https://note.com/rrrrr_days/n/naa7f2c4b60c1)

しかし、真剣でありながら、智代子は前向きで明るい。

まぶしすぎる
(Landing Point編 [最初からおまじないだったよ])

あすみちゃんとの約束が、智代子のアイドル像を形成したと考えられる。
目の前の人を笑顔にする。
そこに彼女の存在証明がある。

目の前の人間に本気で向き合ってこそ、ファンと向き合える
(Landing Point編 [最初からおまじないだったよ])

友人との約束はいつしか、ファンとの約束へと展開される。

「……ふふっ……! やっぱり、私の推しはすごいな……」
(Landing Point編 [最初からおまじないだったよ])
「シャニマス3.5周年 特別 WEB CM」でも採用された名シーン
(G.R.A.D.編 [公約(やくそく)])
かっこよすぎ
(G.R.A.D.編 [公約(やくそく)])

ファンとの約束は言葉のみで終わらない。
彼女がファンのために行動するシーンは枚挙に暇がない。
たとえばLanding Point編では、フェスが雷雨で中止になった当日に配信で「チョコデート・サンデー」を披露した。

SNSの投稿『突然の嵐にマジで泣いたけど、智代子のおかげで救われた気持ち』
(Landing Point編 [チョコレートでも配るみたいに])
当たり前、まさに「チョコレートでも配るみたいに」
(Landing Point編 [チョコレートでも配るみたいに])

自然に「神対応」ができる。
しかしこれは一朝一夕で成せるものではない。

その陰には、あすみちゃんとの大事な大事な約束があった。


「チョコデート・サンデー」

以上の智代子の人物評をもとに、ソロ曲の解説をする。

カカオ成分

園田智代子のソロ曲、「チョコデート・サンデー」。

王道中の王道アイドルソングだ。
しかし歌詞が全部ポジティブというわけではない。
それどころか、不安と願望がほとんどを占めているとさえ思える。

さらに注意して読んでみると、
不安の後に願望が来るのが分かるだろう。

(1番サビ)
日曜のデート 視線すら忙しい 私のこと もうちょこっと見てよ~!
今日のデザート ささやかなご褒美 あなたともっとこのとき 過ごしていたい
(2番サビ)
月曜が近いよ おしゃべりも遠回り 私のそば もうちょこっといてよ~!
今日のデザート 食べたら終わっちゃうね ふたりだけの週末 物足りないな

「チョコデート・サンデー」

智代子のコミュは厳しいシチュエーションが少なくない。
まるで彼女の覚悟を試すかのように。

(G.R.A.D.編 [しなやかに したたかに])
(pSSR【砂糖づけ・ビターエンド】園田智代子 [一番])

しかし智代子は不安を不安のままにしない。
必ず願望を口にし、全力で努力する。

(G.R.A.D.編 [しなやかに したたかに])
(pSSR【砂糖づけ・ビターエンド】園田智代子 [一番])

「チョコデート・サンデー」は、恋する乙女がただ振り回されるだけの歌ではない。
歌詞には確かに、智代子の強さが反映されている。

矜持

ほかの子が持っている 才能 羨ましいけれど
魔法 マイ オリジナル (そこんとこ 愛して!)

「チョコデート・サンデー」

普通の女子高生の悩みとチョコアイドルの矜持。
人物評論で触れた通り。

気遣い

それなりに 空気や 諸事情 気づかえるけれど
ちょっと ワガママ 言うよ! (たまには ねぇ! いいでしょ?)

「チョコデート・サンデー」

智代子の気遣いは半端ではない。

シャニPや283プロのアイドル、ファンはもちろん、共演者やスタッフ、市井の人々まで、誰に対しても礼儀正しい。
これに関しては、下記の記事を参考してもらいたい。

智代子の気遣いの例を挙げればきりがないので、真骨頂といえるシーンをひとつだけ紹介するにとどめる。

イベントシナリオ「明るい部屋」より、果穂とあさひが寮の2階の怪奇現象に興味津々なシーン。

冬優子が「心配する体でこの話題は切り上げ」ようとする。
冒頭の三点リーダーと、フルネーム呼びが味わい深い
(明るい部屋 第4話 [サンタ・クローズド])
共感から入って諭す
(明るい部屋 第4話 [サンタ・クローズド])
テリーマン並みの解説力
(明るい部屋 第4話 [サンタ・クローズド])
画像中央の台詞を言った直後、あさひの表情がぱっと明るくなる。
あさひ「あははっ! そんな難しくはないっすけどね~ 行くっす行くっすー!」
(明るい部屋 第4話 [サンタ・クローズド])

歌詞に話を戻すが、
「それなりに 空気や 諸事情 気づかえる」なんてものではない。
そんな智代子が
「ちょっと ワガママ 言うよ! (たまには ねぇ! いいでしょ?)」
と言っているわけだ。

つまり、ギャップでワガママの破壊力が増している。
ヤバい。

園田……
(pSR【錯覚・Darling】園田智代子 [もしも・classmate])

補足:歌い方

実はLanding Point編で、この曲の歌い方に触れられている。
智代子がボイストレーナーにソロ曲の相談をするシーンだ。

ファンへのホスピタリティが存分に発揮されている
(Landing Point編 [彼女だけが知らない])

「話しかけるような感じ」にアイドル園田智代子の流儀が凝縮されている。
目の前のひとりと丁寧に向き合う彼女らしい。

約束
(Landing Point編 [最初からおまじないだったよ])

視線が常に自分に向けられる。

だからこそ、ドキドキして、夢中になるのだ。

奇跡ではなく、想いがつくる特別
(Landing Point編 [最初からおまじないだったよ])


おわりに


「我儘なまま」は楽しいライブだ。

アイドルが応援されるのに理由などいらない。
一番じゃなくたって好きと言ってもらえる。

アイドルを応援するのに覚悟などいらない。
なんとなく一番好き。

これで十分だ。