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短編小説 アメリカンコーヒー③おわり
大きい商店街の入り口で、逢沢さんを見かけたことがある。
私はちょうどその時、その日の仕事を終えたところだった。次の日の職務について悶々と考えていたときだった。まさにその時、彼女が見えたのである。ベージュのロングコートを颯爽と着こなしていたことには目を引いたが、なによりも驚いたのは、薄い紅葉色に染めた髪を短く切っていたことだった。行きかう人混みの中をカツンカツンと大股で歩いていた。凛々しかった。あまりにも凛々しかった。威風堂々としたそのオーラの前に、私はただその人混みに紛れるしかなかった。吉祥寺はもう美しい夕暮れに染まっていた。
あの出来事から何年も経った。彼女を見かけてから、古い友達の誰一人にも会っていなかった。私は今、職場から逃れるようにしてこのお店にきた。
「そういえば茂一ってそろそろ結婚するって聞いたぞ。」田中が言った。
「へえ、誰と。」一体どこからその情報を入手したのだろう。
「お前覚えているかな。同じクラスメイトの逢沢さんと。」
私は驚いた。吉祥寺で見かけたあの凛々しく淡い姿が、嫌というほどに、はっきりと現れてきた。彼女はもう結婚するらしい。私はまだしていない。
「もともと、高校の時から恋人同士だってさ。それが大恋愛になって、ついには結婚か。俺は、そんなの聞いてねぇ。」田中は語気を強めて言った。
私は持っていたアメリカンコーヒーをぐいっと飲んだ。私は呆然としていた。私たちの間に、静かな時間が流れた。どうもこの店内には私と田中のふたりしかいないように思われた。
「なんか、みじめだな……。」
そう言う田中の横で、私はコーヒーを飲み干した。ひどく苦く感じた。これほど砂糖が欲しいと思ったことは今までに無かった。もうこのお店には来ない、とさえ思った。馬のように働くのも馬鹿馬鹿しく感じた。
おわり
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