朝ドラ『虎に翼』59話 母との別れの曲『さよーならまたいつか!』

寅子(伊藤沙莉)の母、はる(石田ゆり子)が亡くなった。第59話では、寅子とはるの別れの曲のように、米津玄師の主題歌『さよーならまたいつか!』が使われた。冒頭の歌詞「どこから春が巡り来るのか」には、「はる=春」が入っている。オープニングの主題歌が流れる直前のカットは、はるが布団に横たわる1ショットだった。

どこから春が巡り来るのか 知らず知らず大人になった
さよなら100年先でまた会いましょう 心配しないで

いつの間にか花が落ちた 誰かがわたしに嘘をついた
土砂降りでも構わず飛んでいく その力が欲しかった

誰かと恋に落ちてまた砕けてやがて離れ離れ
口の中はたと血が滲んで 空に唾を吐く
瞬け羽を広げ気儘に飛べ どこまでもゆけ
100年先も憶えてるかな 知らねえけれど さよーならまたいつか!

[虎に翼] 主題歌 米津玄師「さよーならまたいつか!」オープニング(ノンクレジットVer.) 

第59話には、『さよーならまたいつか!』が、もう一度流れる。それは、寅子とはるの最後の別れのシーンだ。はるが布団に横たわっている。その横に寅子と花江(森田望智)が座っている。「いなくならないで。ずっとそばにいてよ」と言う寅子に、はるは「地獄だ、やめろって言っても、好き勝手に飛び回ってたのは、あなたじゃないの」と返す。ここで、インストゥルメンタル版の『さよーならまたいつか!』が流れ始める。この曲の歌詞には「瞬け羽を広げ気儘に飛べ どこまでもゆけ」とある。これは、はるが寅子にかけた言葉のように思える。

はるは、寅子が法律を学ぶことに反対していた。その道が地獄であることを知っていたからだ。はるは、寅子の優秀さを知っていた。そのうえで、「頭のいい女が確実に幸せになるためには、頭の悪い女のふりをするしかないの」と、寅子に言い聞かせた。この言葉からは、はる自身も頭の悪いふりをして生きてきたことがうかがえる。寅子はそれを「スンッ」と呼んだ。はるの「スンッ」としている姿に寅子は疑問を持っていた。寅子もまた、はるが優秀であることを誰よりも知っていたのだ。

そんなはるも、考えを変える。それは、寅子と桂場(松山ケンイチ)との会話を聞いたことがきっかけだった。寅子は桂場に母の説得の仕方を尋ねる。桂場は、母親を説得できないようでは優秀な男と肩を並べて戦うことはできない、時期尚早だと答える。そこへ、はるがやってくる。はるは、桂場に言う。「そうやって女の可能性の目を摘んできたのは誰? 男たちでしょう」と。はるは自分と桂場の姿が重なったのだ。

はるは、寅子を連れて本屋に向かう。そして、六法全書を寅子に買い与え、問う。「本気で地獄を見る覚悟はあるの?」と、寅子は「ある」と答えた。はるの言葉通り、寅子は地獄を見た。それでも寅子は裁判官となる。寅子が裁判官になれたのは桂場のおかげでもあった。桂場は、時に寅子の前に立ちはだかり、時に寅子の背中を押す。そんな桂場の心にも、はるの言葉が残っていたのではないか。

はるは、死の間際に猪爪家を寅子と花江に託す。男の直明ではなく、女の寅子と花江に猪爪家を任せるというのだ。「はい、任せて」と花江は泣きながら答える。一方、寅子は「やだぁ~っ!」と子どものように泣き崩れる。そんな寅子に、はるは、「『はい』と言いなさい」と言った。これは第1話の状況と重なる。

第1話で、寅子は家出しようとしたところを、はるに見つかっていた。家出の理由は、見合いを避けるためだった。そんな寅子に、はるは、「(女学校で)学んだ知識はよい家庭を築くために使いなさい」と再び見合いを強いる。「はて?」と、納得しない寅子に、はるは、「『はい』か『いいえ』で、お答えなさい」と迫った。そんなはるも変わった。寅子に見合いをさせて他の家に嫁がせるというところから、猪爪家を任せるというところにまで、はるの考えは変わったのだ。

寅子に翼を与えたのは、はるだった。はるは、地獄に苦しむ寅子を見守り続けた。寅子を見守ったはるへのはなむけのように『さよーならまたいつか!』は響いた。

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