朝ドラ『虎に翼』第1週の見どころ
NHKで4月1日から始まった連続テレビ小説『虎に翼』がNHKプラスで、これまでに放送された1~15話が見逃し配信されている。そこで、この記事では、これまでの見どころを振り返る。なお、1~10話は20日土曜日の深夜まで。1~10話を土曜日に、11話~15話を日曜日に見ておけば、来週の放送に追いつける。
1話
第1話は、笑いどころがとても多かった。この笑いを生み出しているのは「間」だ。この「間」は、脚本と演技と演出がうまく噛み合っていないとなかなか生まれない。最初に「間」のすばらしさを感じたのが、オープニングテーマ明けのお見合いのシーンだ。主人公の寅子(伊藤沙莉)が、父の直言(岡部たかし)から、寅子の名前の由来について紹介されたことに応じた寅子の明らかにやる気のない「はい」のセリフのタイミングが絶妙だった。このドラマが面白くなると確信した瞬間だった。
お見合い前夜のシーンの緩急もすばらしい。お見合い前夜に寅子は家出をする。しかし、寅子は階段で転んだところを母のはる(石田ゆり子)に見つかってしまう。寅子の家出未遂を受けて、真夜中の家族会議が始まる。はるは、始めこそ寅子の家出の理由を聞く。しかし、はるは、しだいに寅子の言い分を遮り、最後には「『はい』か『いいえ』で、お答えなさい」と言ってしまう。このセリフは、とても抑圧的だ。宝塚歌劇団に、上級生には原則「はい」「いいえ」などといった言葉で返事をするというルールがあったこととも通じる。はるは娘の言い分を聞く気がない。寅子の父や兄、下宿人も、寅子に口パクで「はい」と答えるように促す。この口パクする人物のワンショットに、人物紹介の文字が挿入される演出も気が利いている。
なお、1話の冒頭については、以下の記事で詳しく分析している。
2話
『虎に翼』は、ズレによって笑いを生み出している。例えば、第2話冒頭の猪爪寅子(伊藤沙莉)の3度目のお見合いシーンでは、寅子の周囲とのズレが笑いを生み出す。
寅子のお見合い相手の横山太一郎(藤森慎吾)は、「結婚相手とはさまざまな話題をともに語り合える、そんな関係になりたい」と言う。それを聞いて自分の考えを述べる寅子。ところが、寅子が太一郎の話題を先回りしだすと、太一郎は「分をわきまえなさい、女のくせに生意気だ」と言って立ち去る。寅子が対等に尊敬しあえるかも、と感じた太一郎も、結局は女性に講釈されるのが許せなかったのだ。寅子は、そのことに気付けず、太一郎の言葉を言葉どおりに受け止めてしまった。この寅子の周囲とのズレがこのシーンに笑いをもたらす。さらに言えば、現代の視聴者の多くは寅子の方が普通で、周囲の人間の方がズレていると感じるだろう。このような複層的な構造がこのドラマのおもしろさを形作っている。
寅子の兄の直道(上川周作)もズレている。寅子のお見合いが破断になったことについて、直道は、寅子が最初から破断に持ち込むつもりだったのだと指摘する。この指摘は、寅子からすれば的外れなものである。なぜなら、寅子は、太一郎との3度目のお見合いを成功させたいと覚悟を決めていたからである。しかし、直道は「わ・か・る」と言って持論を引っ込めない。直道は第1話でも、「俺には分かる」と言って、寅子が1度目のお見合いを避けようとした理由を、下宿の佐田優三(仲野太賀)が好きだからだと決めつけていた。寅子は即座に「違います」と否定した。この「わかり手」の直道のズレもこのドラマの笑いどころの一つだ。
だが、意外と直道の指摘は案外当たっているのかもしれない。寅子は、本当はお見合いなどしたくなかった。必死になって寅子の結婚相手を探す両親の姿を見て、親孝行になるならと思っただけなのだ。寅子は優三のことが好きだという指摘はどうだろうか。今のところ寅子は、優三を結婚相手としては考えていないようだ。しかし、寅子は優三によく自分の本音を打ち明ける。雄三も寅子のお見合いの結果が気になっているようだった。直道は、一見的はずれなように見えて、意外と寅子が無意識に思っていることを言い当てているのかもしれない。そう考えると、直道のズレもまた、複層的に見えてくる。
3話
2話のラストから3話に出てくる「女性は無能力者」というセリフについては、以下の記事で、詳しく解説されている。解説しているのは、明治大学法学部教授の村上一博氏。村上教授は『虎に翼』の法律考証を担当している。ちなみに、明治大学は、寅子の入学する明律大学のモデルである。
4話
4話の見どころは寅子が兄と花江の結婚披露宴で歌った「モン・パパ」だろう。「モン・パパ」については、以下の記事に詳しく書かれている。
5話
4話のラストから5話の冒頭にかけての寅子とはるの2人のシーンのカメラワークが、すれ違う2人の気持ちを見事に表現している。このシーンでは大学に進学したい寅子と、寅子に結婚してほしいはるの意見がぶつかる。寅子が法律を勉強したいと話すときには、はるにフォーカスが合っていない。そのため、はるの表情がはっきりとは見えない。一方、はるが自分が結婚したときのことを話すときや、寅子が優秀だとわかっていると言うときには、はるにもフォーカスがあたっている。ところが、はるが寅子の幸せのためだとして結婚を強くすすめるときには、はるからフォーカスが外れ、ついには画面からも外れてしまう。はるが話しているときも、カメラは寅子の表情を捉えたままである。このカットは約2分4秒続く。これは、『虎に翼』で最も長いカットだろう。もしかしたら、歴代の朝ドラの中でもトップクラスの長さかもしれない。相当自信がなければ使えないカットだ。
追伸
これまでの朝ドラで、最長カットがどのカットだったのかわかる人がいたら教えて下さい。