『海のはじまり』第3話 いつ父は始まるのか?

フジテレビ系列で月曜9時から放送中のドラマ『海のはじまり』。このドラマは、『silent』や『いちばんすきな花』の脚本家・生方美久の最新作である。

※この記事には、ドラマ『海のはじまり』の内容が含まれます。『海のはじまり』はFODTVerで配信中です。

あらすじ

月岡夏(目黒蓮)は恋人の百瀬弥生(有村架純)に、自分に娘がいたことを話した。そして、南雲水季(古川琴音)と別れた時のこと、彼女が海(泉谷星奈)を産み育てていたことは知らなかったが、妊娠したことは知っており、堕ろしたと思っていたことも正直に伝えた。夏の話を聞いた弥生は、自分の過去に思いを馳せる。夏に言えずにいる自分の過去。その記憶を胸に秘めたまま、弥生は、夏が父親になるのであれば自分が母親になることも選択肢に入れて欲しいと夏に告げるのだった。

南雲家に行った夏は、そこで海と再会する。夏が会いに来てくれたことが嬉しい海は、大喜びして、はしゃぎすぎて疲れ果て眠ってしまう。朱音(大竹しのぶ)は、海が起きたときにいてくれたら喜ぶからと言って、夏に夕食を食べていくよう促す。準備を手伝う夏に、水季に対する思いを語る朱音。

夏から電話を受けた母・ゆき子(西田尚美)は、和哉(林泰文)と大和(木戸大聖)に夏から家族全員に話があると言われたことを告げる。弥生との結婚報告ではないかと盛り上がる月岡家。

一方、休日を海と一緒に過ごすことになった夏は、弥生を連れて南雲家を訪れる。一緒に来た弥生を見て、複雑な思いを抱く朱音。海の希望で水季が働いていた図書館に行くことになった三人は、そこで津野(池松壮亮)と会い…。

海のはじまり - フジテレビ

父のはじまり

「夏君、海のパパでしょ? 夏君のパパ、いつ始まるの?」。これは、第1話で海が夏に投げかけた問いだ。夏はその問いに「まだ分かんない」と答えた。はたして、人はいつ父となるのか? 父親になるとはどういうことか?――そんな問いを『海のはじまり』は投げかけている。

受精したとき

人の命の始まりには受精という段階がある。受精とは卵子と精子の出会いである。受精は性交によるもののほか、不妊治療としての体外受精もある。ただし、両親に受精の瞬間はわからない。はたして、受精の瞬間が父となった瞬間と呼べるのだろうか。

妊娠が分かったとき

妊娠すると母体に変化が起きる。生理の遅れなどにより、妊娠の可能性を感じた場合、妊娠検査薬で妊娠の可能性を確かめ、陽性となったら、病院を受診して確定診断を受けるのが一般的な流れのようだ。これらの過程を通して、母親は自分が母になったことを知る。ただし、妊娠しても流産などで子どもが生まれないこともある。一方、父親は知らされなかった場合、子どもがいることにすら気付けない。

子どもが生まれたとき

子どもを産むのは母である。当然、母は子どもが生まれた瞬間を知っている。つまり出産した母は、いや応なく母にならざるを得ない。一方、父親は知らされなかった場合、子どもがいることに気付けない。父になることを許されない父親もいるのだ。

子どもの存在を知ったとき

夏は、かつての恋人・水季が妊娠していたことを知っていた。だが、水季がその子を産んだことは知らなかった。夏は水季から子どもを堕ろすと聞かされていたからだ。夏は水季の死後、水季の母・朱音から海が自分の子どもであることを聞かされる。この時、初めて夏は自分が父であることを知ったのだ。

子どもが父であることを認めたとき

一方、海は自分に夏という名前の父親がいることを水季から聞かされていた。第2話で水季が夏の存在を初めて海に話した時、水季は「パパが2人いる人もいるの。いていいの」と告げた。この言葉は、夏のことが念頭にあったのかもしれない。夏にも父が2人いる。実の父と母の再婚相手・和哉である。

夏の継父である和哉は、いつ夏の父になったのであろうか。夏は「ご両親、再婚された時ってさ。すぐに受け入れられた?」と弥生に問われる。夏は、「大和もお父さんもああだから。抵抗あったの最初だけで、時間経って、自然と。俺は何もしてなくて、あの2人が、あの2人だったから、よかったって、だけ」と答える。つまり、夏は知らない相手と家族になるのに、抵抗があったということだ。また、後に家族として受け入れられたのも、その相手が和哉と大和であったことが大きいと夏は考えている。相手によっては家族関係を築くことが難しいことがあることを夏は示唆した。

実はこの前に弥生は、大和にゆき子との関係を訪ねようとしていた。だが弥生はためらい、尋ねるのをやめた。はたして、弥生は海の2人目の母になれるだろうか。

父になると決めたとき

「気持ち固まったってこと?」「海の父親やるって」。朱音は夏に問う。夏の返事は描かれない。おそらく夏は、「海が望むなら」と返したのではないか。水季によれば夏は「自分より他人のこと考えちゃう」人だ。

夏は父親になるということがどういうことかをまだ理解できていなかった。「認知するとか、育てるとかって、そういうの簡単に決めるのも無責任な気がするし」。そう夏は海に言った。海もまた、夏が父親になるということがどういうことか理解できていない。「パパやるって何?」と夏に問われた海は「分かんない」と答えた。父親をやるとは何であるか、夏にも海にもまだ答えがないのだ。

この夏と海の会話が交わされた場所は第1話の冒頭と同じ海岸だ(第1話の記事で脚本に起こしています)。その海岸には海と水季がいた。海は水季に尋ねる。「どこから海?」と。水季は、「(打ち寄せる波を指差しながら)水があるところからじゃない?」と答えた。だが、その波は引いていく。海のはじまりがとても曖昧なように、父のはじまりもまた曖昧なものだ。だからこそ、夏の言葉も時に曖昧なのである。

「夏君、パパやらなくていいよ」と海は言う。「でも……。いなくならないで」と海は続ける。夏は「そうしたい。水季の代わりにはなれないけど、一緒にはいれる」と答えた。ただ一緒にいること――今の2人にとって、それが「はじまり」なのだ。「パパやるって何?」。その結論は、先に持ち越された。フィルムカメラで撮った写真を、すぐ見れないように。夏は砂浜に足で線を引き、「そこ、いてね」と海に言う。「うん!」と、海は答える。そんな海の姿を夏がフィルムカメラで捉える。そこには、どんな海の姿が映っているのだろうか。

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