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『海のはじまり』第2話 明かされる弥生の過去と新たな選択肢

フジテレビ系列で月曜9時から放送中のドラマ『海のはじまり』。このドラマは、『silent』や『いちばんすきな花』の脚本家・生方美久の最新作である。

※この記事には、ドラマ『海のはじまり』の内容が含まれます。『海のはじまり』はFODTVerで配信中です。

あらすじ

大学生時代の恋人・南雲水季(古川琴音)の葬儀で、水季の母・朱音(大竹しのぶ)から、海(泉谷星奈)が自分の娘だと知らされた月岡夏(目黒蓮)。そんな夏のアパートに、海が突然1人で訪ねて来た。驚く夏に、海は、「夏くんのパパ、いつ始まるの?」と質問する。その問いかけに上手く答えることが出来ない夏。とにかく海を家に帰さなければいけないと思った夏は、朱音に連絡をし、迎えに来てもらうことになる。

部屋の中を縦横無尽に飛び回る海を前に夏が戸惑っていると、恋人の百瀬弥生(有村架純)から電話が。しばらくしてアパートにやって来た弥生は、海を見て少し驚くが、お迎えが来るまでの間、遊び相手をしてあげることに。その後、朱音が海を連れて帰ったあとのアパートで、弥生は夏に海との関係を尋ねる。それに対し夏は、海が自分の娘であること、その事実を水季の葬儀で初めて知ったということを正直に告げた。その話を聞き、動揺を隠せない弥生に、海のことをちゃんと考えようと思うと答える夏だったが…。

海のはじまり - フジテレビ

夏の告白

第1話で、夏は大学時代の恋人・水季の娘の海が自分の子であることを知った。第2話で、夏はそのことを現在の恋人・弥生に告げる。それが以下のシーンだ。

◯弥生のマンション
(電子レンジの音)
弥生が温めた料理を食卓に置く。

弥生「海ちゃんまた会ったの? ちゃんと相手できた」
夏「会いに来てくれたんだけど。会わなかった」
弥生「なんで?」

口をつぐむ夏。
2人が食卓につく。

夏「先に弥生さんに全部説明したくて。曖昧にしてごまかしたから」
弥生「それはいつもじゃん。いつのどれ?」
夏「妊娠したことは……知ってた」
弥生「うん?」
夏「産んでたことを……知らなくて……」
弥生「ごめんどういうこと?」
夏「おろしたと……思ってた。妊娠したことは聞いてた、知ってた」
弥生「月岡君がおろせって言ったの」
夏が首を横に振る。
弥生「だよね。だと思うけど」
夏「向こうが意思固くて」
弥生「うん」
夏「それで同意したんだけど。すぐ振られて。その後のこと、何も知らなかった」
弥生「うん」
夏「この先、あの子のことどうするか、まだ、分かんないけど……」
弥生「うん」
夏「でも……。正直……。ほっとした。生きててくれたんだなって。ずっと…。自分が殺したんだって、思ったから」
弥生「殺したなんてことは……」
夏「あるよ」
弥生「そのころ、まだ20歳とかでしょ?そういう選択することも珍しくないと思うし、悪いことじゃない……」
夏「歳とか関係ないし、自分の意思で同意したし。もっと話し合えばよかったって、もっとできることを考えてれば、一緒に育てることだって……」

弥生の眼差しに言葉が詰まる。

夏「そのときは、そういうことを後悔してた。そのころは…別れたばっかのころは」
弥生「(首を横に降って)いいよ、変な気使わなくて」

弥生、席を立ち台所へ向かう。

弥生「よかったよ。ずっと罪悪感抱えてるより」
夏「うん」

弥生、冷蔵庫から麦茶を出し、コップに注ぐ

弥生「話せたから会えそう?」
夏「うん、会ってくる」
弥生「うん」。

弥生、コップについだ飲み物を出す。

弥生「先食べてて、ちょっとトイレ行ってくる」
夏「ありがとう」
弥生「ううん」

◯トイレ
トイレに入った弥生が扉にもたれてうずくまる。目ににじむ涙がこぼれないように天井を見上げる。ほほに一筋の涙が伝う。

ドラマの映像と音と解説放送を元に筆者が作成

弥生の涙の訳

弥生の涙の訳は、その後明かされる。弥生には中絶の経験があったのだ。相手はスーツを着た男。おそらく社会人だろう。中絶を決めた理由は明かされていない。「父親がいないとかかわいそうだし」という弥生の言葉からは、2人で育てられない事情があったことがうかがえる。男には家庭があったのかもしれない。

「殺したなんてことは……」「そのころ、まだ20歳とかでしょ?そういう選択することも珍しくないと思うし、悪いことじゃない……」夏のことを気遣ったかのように聞こえた弥生の言葉は、弥生が自分に言い聞かせているようにも思える。

「歳とか関係ないし、自分の意思で同意したし。もっと話し合えばよかったって、もっとできることを考えてれば、一緒に育てることだって…」という夏の言葉が、弥生に突き刺さる。弥生は中絶したことに罪悪感を抱えている。弥生が同意書に自分の名前を書いた時、横に置かれていた飲み物の影が揺れ動いていた。まだ揺れ動く気持ちの中、弥生は中絶を決めたのだ。弥生は、納骨堂で中絶した子を供養していたことが描かれる。弥生は何度も納骨堂を訪れていたようだ。位牌に手を合わせた後、弥生はある決意をする。

「もし、月岡君がお父さんやるってなったら、私がお母さんやれたりするのかなって」「決めるのは海ちゃんだけど、選択肢の中に入れてもらえたらなって」弥生は夏に電話でそう告げた。弥生は選択肢をできるだけ広げて、相手とともに、その中から一番いいものを選ぶ人である――前回の記事でそう述べた。弥生がそんな生き方をするに至ったのには、この中絶の経験があったからなのではないか。

海の選択

そんな弥生に押されて、夏は海に会いに行く。手土産に鳩サブレを持って。海はまだ学校から帰宅していなかった。朱音はまだ、夏に警戒心があるようだ。ところが、夏が手土産の鳩サブレを差し出すと朱音の顔がほころんだ。水季も海も鳩サブレが好きだったからだ。夏は思い出す。水季が大学の講義中にこっそり鳩サブレを食べている姿を。その鳩サブレを水季は自分で買ったという。鳩サブレはお土産でもらうものと思い込んでいた夏にとって、それは驚きだった。前回の記事でも述べたように、水季は自分で選ぶ人なのだ。水季は鳩サブレを3枚取り出し、夏に選ばせる。「違うの?」と戸惑いながら、夏は一番右の鳩サブレを選ぶ。本当はたった一つしかない選択肢を水季は夏に選ばせたのだ。

「水季からね、海のことで、これだけは絶対って言われたことがあるの。海に選ばせてあげて。正解を教えるより。自分の意思で選ぶこと。大事にさせてあげてって。手引っ張ったり。横に張り付いたりしないで。後ろから見守ってあげてほしい」朱音は夏にそう言った。この言葉には、海にどういうふうに人生を歩んで欲しいかという水季の考えが表れている。そんな水季の海に対する姿勢は、第1話冒頭の海岸のシーンでも描かれた。水季の先を歩いていく海に、水季は「行きたい方行きな」と声をかけ、海を後ろから見守っていた。水季は、海がどう生きるか自分で選ぶことを願っていたのだ。

海が学校から帰宅する。海は、一瞬戸惑いながらも、夏に抱きつく。夏は驚いて固まる。そんな海を見て、朱音は小さく微笑んだ後、寂しげな表情を浮かべる。朱音は海の選択に気づいたのだ。海は夏と生きていきたいと思っていることに。海はなぜそう思うのか。第2話の冒頭に手掛かりがある。それは、水季が海と2人で暮らしていたときのことである。

◯アパートの部屋
水季が膝を抱え、じっと娘を見つめている。
青いランドセルを開け閉めして遊ぶ海。海が顔をあげる。

海「欲しい?」
水季「フフフ……。ううん。それは海の。似てるなと思って見てただけ。夏君に」
海「夏君?」
水季「海のパパ」
海「パパいるの?」
水季「いるよ「パパがいない子はいないよ。パパって絶対いるの。パパがいないと。ママもママになれないから」
海「ふーん」
水季「パパが2人いる人もいるの。いていいの」
海「ふーん」
水季「夏君。会いたい?」
海「ママは? 海とパパ会ってほしい?。ママの好きでいいよ」。
水季「フフッ……。ホントそっくり」

ドラマの映像と音と解説放送を元に筆者が作成

ここで海は初めて父の存在を知らされた。父に会いたいかと問われた海は、「海とパパ会ってほしい?」と聞き返す。その答えは、自分より他人のことを考えてしまう夏によく似ている。水季は海の問いにどう答えたのであろうか――それはここでは描かれない。だが、海は夏に会いに来た。

水季の「パパが2人いる人もいるの。いていいの」という言葉は、夏のことが念頭にあったのかもしれない。夏にも父が2人いる。実の父と母の再婚相手・和哉(林泰文)である。これは母が2人いてもよいということだ。弥生は、夏に新しい恋人がいることを知っていたのかもしれない。海が選ぶのなら、そして夏とその恋人が選ぶのなら、夏の恋人が母になってもよい。水季はそう思っていたのではないか。そんな風にも思える。

このドラマは選択にまつわる話である――前回の記事でそう述べた。海は夏と生きることを選択した。海が望むなら弥生は海のお母さんになろうとしている。夏はどういう答えを出すのか。それは3話以降で描かれるのだろう。

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