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「ブランド価値が高まれば、価格を上げるのは当然」という考えはどこから来ているか

少し前に、WWDの記事で「ジャパン・ラグジュアリー」の特集があり、大変興味深かったので、この記事を元に、日本と世界のラグジュアリーブランドとの違いについて書きたいと思います。

まず、ラグジュアリーブランドとは何か?という問いについては以下のように書かれています。

歴史があり、全世界で流通して認められていて、そのブランドにしかない意匠や技術があること。

「歴史があり、そのブランドにしかない意匠や技術があること」については、日本のブランドにも当てはまる事だと思います。
特に、職人さんの手作業によるモノづくりは、ラグジュアリーブランドが重要視している点で、ラグジュアリーブランドの条件の一つといっても過言ではないでしょう。

日本だけでなく世界各地の老舗産地は、技術の継承が大きな課題となっている。いかにして伝統の技を継承し、未来に向けて発展させるか。職人や物作りの現場をフォーカスして、その価値を広く発信する取り組みが広がっている。

繊研新聞より

全世界で流通して認められるためには何が必要なのか?グローバルブランドと日本のブランドの違いについて3つの視点から説明します。

1.原価構造の違い
2.マーケティングに対する考え方
3.グローバル起点でのモノづくり

1.原価構造の違い

日本では、メーカーが販売価格を決める際に多くの場合が原価積み上げ方式です。原価がどれくらいかかるか。それにより、利益を設定し、競合他社の価格に合わせた価格を設定することで最終的な利幅を調整します。

いいものを安く売るという真面目な価値観の元、販売されることが多いです。そして残念ながら、アパレル産業では特に顕著ですが、消費者(バイヤー)が求める価格に合わせるために、生産拠点を海外に移すケースが多く、メイドインジャパンの製品を探すのも難しくなりつつあります。

対して、グローバルのラグジュアリーブランドだとどうでしょうか。
ラグジュアリーの定義として、生産活動において生産コストを考慮しないこと,生産拠点を海外に移さないこと。この2つが前提となっています。つまり、日本のモノづくりの流れとは真逆の考え方です。

いいものをより安くではなく、良いものを、さらに良くするためのモノづくりをして、生産コストから利幅を考えるのではなく、ブランドの付加価値をつけて、高価格で販売します。日本だと高価格で販売することは、顧客がつかないことをおそれて、メーカーやバイヤーにはなかなか理解されません。

2.マーケティングに対する考え方

高価格帯で商品を販売できるラグジュアリーブランドは、利益幅も大きく、それだけ販管費(宣伝やマーケティング含む)にもコストを割くことができます。マーケティングに対する考え方にも、明確な違いがあると言えます。

前提として、1に記載した原価構造が違う点がマーケティングにかける費用の違いにも繋がります。通常のブランドと、ラグジュアリーブランドではマーケティング費用のかけ方に大きな違いがあります。当然ながら後者の方がマーケティングにかけるお金は大きくなります。

さらに言うと、日本の場合は、マーケティングは宣伝費用として捉えられる事も少なくなく、単発的なキャンペーンや施策に留まってしまう方が多いです。

一方で私が所属していたブランドでは、世界観の作り込みにたくさんのリソースを割いています。
毎回新しいラインナップを発表する時は、ショートムービーともいえる動画を撮影して公開しています。作り込み方も半端なく、いわるるスタジオロケで撮影するレベルではなく、映画を撮影しているような開放感あふれる場所で展開をし、一流のモデルが登場するシーンが多く、ぼーっと見ていても飽きることがありません。

いわゆるプロモーションムービーを観ている感覚ではなく、ショートムービーを観てブランドの世界観を体験できるようになっています。

商品写真や、動画ひとつとっても、SNS用に撮影するとか、投稿して終わりではありません。
写真や動画素材をアセット(資産)と呼んでいます。つまり、素材を消費して終わりではなく、資産として蓄積していくことで、ブランドの世界観がブレないように作られていくのです。

前回のnoteでも述べましたが、ブランドの世界観を伝えるのに、1000ページからなる写真集が作れるか、100分ものドキュメンタリーを作るほど語れる要素があるか、それだけ世界観の作り込みができているかは、グローバルに広げていくためには必要な要素かもしれません。

また、世界観を創るということは、「顧客の要望を考慮しない」ことの表れでもあります。顧客によりすぎてしまうと、顧客の憧れではなくなります。いつかは使ってみたい、そのブランドを身に纏うだけでワクワクするようになるには、ブランドの創るドラマや夢の中に顧客に入ってもらう設計が必要になります。

3.グローバル起点でのモノづくり

3点目は、モノづくりから少し離れた例を挙げた方がわかりやすいかもしれませんので、映画を例に説明します。
これまで日本の映画は、国内でヒットさせること前提で日本の顧客にウケるための作品づくりがされてきました。海外で上映するためには、言語の問題と、海外での配給を別で動く必要があり、また国内でヒットしないと海外からも声がかからない現状があったかと思います。

それがNetflixやAmazonを始めとしたネット配信サービスの台頭で一気にグローバルとローカルの垣根がなくなってきました。最近ではシティハンターが日本以外の32カ国で視聴者数トップ10入りを果たしたことが話題になっていましたが、国内のコンテンツを最初から海外で配信することができる環境が整ったことで、コンテンツの作り方が変わってきました。

ブランドの話に戻すと、「ラグジュアリー産業: 急成長の秘密」で書かれている内容が大変わかりやすいので、記載します。

日本市場を特別視・特殊視するのをやめ、グローバルに考えることが強く求められている。ラグジュアリー・ブランドは,世界のどこにおいても同じようなアイデンティティを共有する。適応がまったくなされていないわけではないが、原則としては世界を1つの市場と捉えている。ヨーロッパのラグジュアリー・ブランドのマネジャーが築き上げるヘリテージは,先に国内の顧客を意識して考案されるのではなく,はじめから普遍的な価値を提示しようとしているのである。まず日本で発売し,成功したら次に海外展開 (主にアジア進出)するというように,段階的には考えられていない。最初から世界市場に向けて商品を開発しようと思えば、従業員と経営者の多様性を高める必要性にも迫られることだろう。日本企業における外国人役員の割合は,いまだに低すぎるといわざるをえない。そうしたことが,世界市場に訴えるブランド・アイデンティティの弱さにつながっているようにも感じられる。

ラグジュアリー産業: 急成長の秘密より

モノづくりにおいても、日本だけではなく、世界を一つの市場として捉えて開発、販売していくことが求められます。ラグジュアリーブランドは固有のマーケットに合わせたモノづくりではなく、世界で共通したコンセプト、マーケティングプランを実行することで誰もが欲しくなるブランドになっています。

「言うは易し行うは難し」の典型的な例ですが、顧客理解をローカルに合わせるか、グローバルに合わせるかのスタート地点を変えるだけでも、既存のプロダクトとは違ったモノづくりができるかもしれません。

まとめ

3つの視点から、グローバルブランドと日本のブランドの違いについて紹介しました。以下、要約します。

・製品開発において顧客の要望を聴きすぎない(グローバルに展開するには?という視点を最初から持つ事)
・生産活動において生産コストから、価格を設定しない
・生産拠点を海外に移さない
・ブランド価値を上げる努力をし続ける事(単発的なキャンペーンではなく、映画を作れるくらいのストーリーを創る)
・広告は、売るためではなくメッセージを伝えるために行う

日本と海外で圧倒的に異なるのは、価格とブランド価値とのバランスでしょうか。
BOF(ビジネスオブファッション)という海外のメディアでも、「日本のバイヤーは価格を重視しますが、国際的なバイヤーは全体像を見ている」と紹介されている通り、生活者の中にハイクオリティロープライスな製品がいたるところにあり、満足しきっている点もあると思います。

だからこそ、メーカーは価格に対して消極的にならざるを得えなくなっていますが、目先の売り上げや利益だけを追求しては、グローバルに通用するブランドを創れる時代ではありません。

ブランドエレベーションとは?

私が所属していたブランドでは、ブランドエレベーションという考え方が浸透していて、ブランド価値をいかに上げるか?も売上をいかに上げるかと同じ視点で語られていました。日本だと、値上げして申し訳ありませんみたいなカルチャーですが、海外のブランドは、ブランド価値が高まれば、価格を上げるのは当然という見方です。

日本は製品の品質は高く、間違いなく良いモノを作れるのですから、グローバルに通用する世界観を作ること、ブランド価値を上げることで、モノづくりをする人が報われるような利益を還元する仕組みを作ることができれば、まだまだチャンスはあると信じています。


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