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社会の安定性よりも「特許重視」に動いた中国・韓国・台湾、社会の安定性を重視した日本

いま、東アジアは、プロパテントのラッシュなんですよね。
プロパテントというのは、特許権をはじめとする、知的財産権全般の保護強化を意味します。
つまり、社会の安定性よりも「特許重視」に、行政や司法が手続きを行う政策のことです。

もともとは、アメリカが、レーガン政権の際に採用した考え方です。
レーガン政権の当時のアメリカは、日本からの貿易戦争に負け続けていました。
巨額の貿易赤字を、日本からの輸入からのせいで、築き上げていたんですよね。

アメリカ人の消費者って、すごく正直で、安くて良いものを優先的に買うんですよね、国産であるかどうかは、二の次なんです。
レーガン政権中の1980年代の後半に開始された、日本の貿易戦争の対策の1つが、プロパテントでした。

このプロパテントが、東アジアのハイテク事業を行っている国々で、一般的になってきました。

「懲罰」という賠償金

具体的には、中国、韓国、台湾で、知財の懲罰的な賠償金が、運用されてきています。
では、「懲罰」という賠償金の制度って、いったい何でしょうか?
通常の知財の侵害ではなく、意図的に侵害を行った場合は、最大で数倍まで、実際の損害の賠償金額を増加させたんですよね。

特に、知財の分野では、会社が当事者の訴訟になることも多く、企業活動による損害額は大きくなるのが一般的です。
それを、アメリカの場合は、3倍の損害の賠償金額まで、請求できるとしたんです。

これは、当時、侵害系の仕事をしている日本の知財関係者の間では、とても恐ろしいルールだったんです。
たとえば、4億円の賠償金が、12億円もなってしまうんですよね。
日本は、90年代以降、この懲罰賠償金のルールに、とても苦しめられたんですね。
というのも、10億円を超える知財の損害賠償金を支払える、日本企業は、2000年以降、ほとんどなかったんです。
アメリカの特許権者が、このような懲罰賠償金を、日本企業相手に請求してきました。

クロスライセンスという、日本ならではの制度

これが、今度は、東アジアのハイテク事業を行っている国々で、知財の懲罰的な賠償金が、一般的になってきました。
中国、韓国、台湾で、実際の運用されています。

あれ、日本は違うの?思いますよね。
日本は、歴史的にクロスライセンスが多かったので、特許侵害の賠償金を多くしちゃうと、事業活動に影響をきたすので、見送られたんですよね。

クロスライセンスというのは、日本ならではの制度で、保有している特許の実施を、複数の企業間で互いに許諾し合うことです。
ひとつの会社で、技術を独占するということは、同じような製品を販売していた日本企業の場合は、稀だったんですよね。

だって、10社以上の電機メーカーが、ほとんど同じ商品を、作って売っていますよね。
この場合に、企業間の特許侵害リスクを避けて、製品も効率よく製造して、利益を得たかったんです。
そのために、クロスライセンスが利用されています。
特許法ではクロスライセンスを容易にするために、実施許諾の協議を認めています(特許法92条)。

中国、韓国、台湾で、潮目が変わった

それでは、実際に、実際の運用をしている中国、韓国、台湾では、どのような状況になっているんでしょうか?
この間、発表された2021年2月の習近平主席の「知的財産権保護活動の全面的な強化」の宣言により、中国のプロパテント政策の内容が明らかになりました。
これにより、日本よりも、さらに進んだ知財保護に、中国は向おうとしています。

中国の知財保護の全面的な強化として、先ずは侵害に対する懲罰的な損害の賠償を認めることとなりました。
何と、最大5倍まで、損害の賠償金額を増やすことができるのです(反不正当競争法 第 17 条第 3 項)。

具体的には、「経営者が商業秘密の侵害行為を悪意で実施し、情状が深刻である場合、確定した額の1倍以上5倍以下で賠償額を確定することができる。賠償額は、権利侵害行為を制止するために権利者が支払った合理的な支出を含むべきである。」と規定しています。

ここで、「悪意」というのは「知っていて」という意味です。
つまり、侵害している者がその侵害行為を知っていて、かつ、深刻である場合に、懲罰的損害賠償が適用されるんですね。
この「深刻である場合」というのは、どのような場合になるかは、今後の判例を通じて、分かっていくこととなります。

台湾は、もっとアグレッシブ

一方で、台湾は、もっとアグレッシブで、押収した商品の小売単価の 500 倍から 1500倍までの賠償金額を請求することができます。
台湾では、被害者が実際に被った損害は、その販売数量がどのくらいなのか、侵害者はだいたい秘密にして公開しないと考えられています。
確かにそうですよね。

そのため、常に証明しがたいもので、知財の侵害者は調査を進めていることを知った後、手段を選ばず商品を売り飛ばすとも考えています。
このような賠償額を実際の損害額の 3 倍まで増加させることができる、という規定が設けられています。

しかも、結局のところ、法律によってその法定賠償額が定められたほうが妥当である場合もあるので、押収した商品の小売単価の500倍から 1500倍までの賠償金額を請求することができるようになりました。
ただし、これは行き過ぎであるとの批判もあって、実際の数値については、その後に修正されています。

かなりの実績がある韓国

また、韓国なんですが、特許侵害に対する損害賠償において、3倍賠償制度とともに、特許権者の生産能力を超えても、「逸失利益と合理的な実施料」の合算による損害賠償制度が開始しています。

そして、懲罰的な損害賠償は、裁判所が裁量で決定するようになっています。

特に、その運用では、かなりの実績があって、2019年のデータでは、
逸失利益の損害賠償 13.5%
侵害者利益に基づく損害賠償 28.8%
ロイヤリティベース 9.6%
懲罰的損害賠償 48.1%
という、裁判所の判決結果になっています。
懲罰的損害賠償が、半数も上がっているのは驚くべきことです。

損害賠償金は、知財の価値のバロメータ

知財の損害賠償金が高騰すれば、それはその国の特許の価値が著しく向上しますよね。
つまり、損害賠償金というのは、知財の価値のバロメータなんですよね。
東アジアのハイテク事業を行っている国々で、知財の懲罰的な賠償金が、一般的になってきました。

具体的には、中国、韓国、台湾で、実際の運用されています。
このようなアジアのハイテク先進国の影響を受けて、日本でも、今後、懲罰的な知財の損害賠償が認められることを期待しています。

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