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なぜ、大企業は知財保護の重視に反対するのか?

2019 年3月1日に閣議決定された「特許法改正案」では、日本における特許の侵害訴訟で得られる、損害賠償金の見直しが行われる可能性が明記されていました。
日本の損害賠償金は、東アジアのハイテク生産国の中では、非常に脆弱な保護しか行われていません。
理由は、日本の大企業の猛反対にあります。

なぜ、大企業は反対するのか?

多くの場合に、特許訴訟では、売上額によって、勝敗が事前に決まってしまいます。
どういうことかというと、知財の損害の賠償は、販売額をもとに算出されるので、売り上げが大きい方が、圧倒的に不利なのです。

特許の侵害を訴える側(原告)として考えると、売上の圧倒的に大きい大企業と、少ない中小企業とでは、世界は全く違うのです。
大企業側が、一番嫌なのが、売上高が自分たちよりも低い中小企業や個人から、特許訴訟を仕掛けられることです。

もし、被告である大企業側が負けたら、大企業側の売り上げは、不正に特許侵害して得た利益になってしまいます。
一方で、売上高が低い中小企業や個人は、原告である限り、負けてもダメージはそれほどありません。

「原告」であることがキー

ここでは、「原告」であることがキーなんですよね。
原告というのは、訴える側のことですが、自分が被った損害を、相手方が得た利益を基に計算することが、法律上できるのです。

これは、特許法102条に規定されているのですが、侵害者の利益を特許権者の被った損害の額と推定するという規定です。
となりますと、販売額の大きな大企業側が、侵害者側(被告)になってしまうと、特許権の侵害の範囲がとても大きくなってしまうんです。

反対に、大企業が原告側になっても、損害の賠償ができるのが、自分たちよりも売り上げ規模が圧倒的に小さい相手では、損害賠償が取れずに意味がありません。
なので、大企業側は、売上高が低い中小企業や個人が、原告で訴訟することに警戒しているんです。

そのため、売り上げが圧倒的に大きい、大企業はこぞって反対するのです。

世界の潮流に目を背ける日本

世界を見渡すと、日本を除く先進国では、このような反対は、あまりありません。
アジアでは、日本よりも、むしろ、中国、韓国、台湾の方が、知財の損害の賠償を高く評価する制度を導入しています。

これらの国では、日本では認められていない、数々の損害賠償金の算定方法を取り入れています。
日本の知財保護は、このような世界の潮流に目を背け、ガラパゴス化が顕著になってきました。

日本の知財は既得権益のかたまり

でも、中国、韓国、台湾にくらべたら、日本は、古くから知財の保護を行っているから、保護の歴史が浅い他のアジアの国に比べ、進んでいるはずだ、と思ってはいませんか?
でも、実際は、日本の知財保護の方針は、大企業中心で、中小企業や個人のことは、切り捨てています。

日本の場合は、マネしたもの勝ちと言って過言ではないのです。
それを反映してか、日本の特許を出すのは、ほとんが大企業です。
日本の中小企業数は、およそ358万社と全企業数の99.7%以上を占めていますが、特許の出願件数に占める中小企業の割合は16.1%にすぎないのです(2020知財白書)。

つまり、言い換えると、全企業数の0.3%の大企業が、83.9%の特許出願を出しています。
これは、もう、既得権益ですよね。

個人は、ほぼ無敵の知財訴訟のはずが

実は、特許とは、ビジネスの世界で、唯一と言って良いほどの、「ジャイアントキリング」ができるツールなんですよね。
どういうことかと言うと、事業規模が小さければ小さいほど、知財の訴訟の世界では有利なのです。
むしろ、なにも事業を行っていない個人などは、ほぼ無敵です。

理由は、先ほど説明しました、損害賠償額の額の算定基準が、実際の売り上げがベースなのです。
そして、訴える側は、自分が被った損害を、相手方が得た利益を基に計算することが、法律上できるのです。
そうなると、売上高が小さい側が訴えてしまえば、自分よりも売り上げ規模の大きな相手の金額を、損害賠償金の基礎とできるんですね。

日本の経済よりも、大企業の保護

もちろん、その内容を細かく裁判では争われますし、多くの場合はライセンス料相当の賠償金に落ち着く場合もあります。
そのため、ただでさえ大企業にリスクがある、特許制度の損害賠償金を、高額化する制度改正なんて、絶対に反対なわけなんです。

日本の損害賠償金は、東アジアのハイテク生産国の中では、非常に脆弱な保護しか行われていません。
理由は、日本の大企業の猛反対にあります。
海外のように、大企業の既得権益を、中小企業や個人が覆す未来は、果たして来るのでしょうか。


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