稲垣早苗
ものづくりと共にある時間の中での思考を文章化したもの。以前にブログなどに綴ったものを加筆修正して記録しています。
今日出会った新しい芽、のようなものごと。
しきれない。 お伝えしきれない、というもどかしさ。 自由学園明日館での青の手しごと。 今回は、婦人之友のにしむらあきこさんとの対談記事を中心とした構成。 にしむらあきこさんは初日と最終日に来られるので、それ以外の日は私やうさ村さんがどっぷりあきこさんの作品にま向かう時間をいただいています。 ほんの10分もしないで池袋駅だというのに、この空間の静けさはどこから来るのだろう。 人の意思と智慧と善意が時の中でつながって、この空間が育まれ、今の時代にも続いている。その実りの中
歩く速度は考える速度葛の花 茂 十四歳の時、俳句と出会わせてくれた国語教諭で、俳句への導師となった先生の句を最近よく思い出します。有季定型の骨格確かな句を詠む師だったから、字余りのこの句は珍しいのですが。 句の上の部分は、吟行に連れられていった寺で、住職の説教に出てきたフレーズでした。 なるほどそうだなぁ。穏やかに歩いている時と、満員電車に揺られている時に考えることは違うだろうな。ゆっくり歩きながら考えることを大事にしよう。ませていたのか奥手だったのか、高校生だった私は
川上。 カワカミって、繊維業界の用語でもあるのですけれど、ご存知ですか? 工房からの風を企画している母体の日本毛織(株)は、今はコルトンプラザをはじめとして、さまざまな事業を営んでいますけれど、創業からの繊維事業では、「川上」の部分の仕事といわれています。 川上、とは、布そのものを作る仕事。 布はその後、服飾メーカーさんのもとで、洋服になったりしていきます。 使い手が知る名前は、最終のデザインを行ったブランド名。 そう、川下の名前です。 ::: 工房からの風は、川上を大
唐突ですが、あんぱんのことを考えていました。 世の中には、食パンも、クロワッサンも、クリームパンもあります。 別にどれが一番!と順番をつけるのではないけれど、 あんぱんってとってもおいしいんだよ。 って知ってほしいとします。 そして、おいしいあんぱんを作っている人が、人知れずいるんだよ。 それを、人々にもっと知ってほしいよ。 あるいは、おいしいあんぱんを探している人に伝えたいよ。 と。 あんぱんを工藝に置き換えてみましょう。 工藝が世の中のすべてではないけれど、工藝がある
ことばひとひら その視線が、頁をめくる指先の滑らかな動きが、いとおしさを伝えていた。これでもか、というほどに。こんな風に育まれてきたのだとおもった。誰かにとって、いとおしくて、大切で、そうっとそうっと両のてのひらの間に抱えてきた、そんなふうな。工房からの風の、ほんとうにちいさなたねだったときから、可憐に咲くいまの時代までが、わたしのなかですうっと繋がっていった。はじめからそれを見たこともないのに、ふしぎと誰かのこころに灯されたあかりのなかで、はっきりとひとつの時代を、受け継
工房からの風では「文庫テント」という企画テントを設けました。 担当いただいたのは、陶芸作家の松塚裕子さんと彫金作家の長野麻紀子さん(Anima uni)。 今日は、松塚裕子さんから寄せられた文章(松塚さんのブログ)から、許可をいただき、一部を転載させていただいて綴りますね。 ::: いしいしんじさんの、ぶらんこ乗りにでてくる一説がぽかっとうかんでくる。 サーカスのぶらんこ乗りの夫婦の話のところ。 ―わたしたちはずっと手をにぎってることはできませんのね ―ぶらんこのりだ
日々の新しい芽を綴ろう!と始めながら、先週は北海道行きや、その前後のあれやこれやにぎゅうぎゅうになって、さっそくお休みしておりました。 noteを使って、あんなこと、こんなことをしよう、、と構想があって始めたので、まずは習うより慣れろという感じなのですが、始めてみると早速noteならではの使い方、活用法が感じられてきました。 日々のことを綴る場ではなくって、論文的?にまとめてみたりが効果的かなぁと気づいてしまったり(笑 とはいえ、ひとまず、「マガジン」という機能を使って、
「このレースを編んだ人たちはきっと天国へ行ったよね」 と僕は感嘆しつつ言った。 しばらくして、僕がもう忘れてしまった時、ママンはゆっくり言った。 「天国へ?その人たちはみんな、このレースの中にいると思うわ。そう思って見ると、これは本当に永遠の幸せかもしれないのよ。」 『マルテの手記 (光文社古典新訳文庫)』(リルケ, 松永 美穂 著) 上に引いた一文は、2018年10月に行った第16回「工房からの風」での哲学者鞍田崇さんとのトークイベントで出てきたお話しからのもの。 ライ
雨の日に始まったガラスの個展。 津村里佳さん。 ヒナタノオトでは初めての個展を開いていただきました。 里佳さんとの出会いは、2009年の「工房からの風」。 その年の最年少作家だったそのひとは、子リスのように愛らしい表情で、「工房からの風」出展に向けて、その一生懸命さが際立っていました。 印象に残っているのは、開催の直前だというのに、ボランティアでお庭の手入れに加わってくださったこと。 一瞬一秒を惜しむような開催直前の時間に、弾むような表情で庭作業に勤しむ姿に驚いたのでした。
出展作家ミーティングをした。 「工房からの風」に出展が決まった作家と、出展に向けて行う個人ミーティング。 全員と行うわけではなく、依頼があった時に行っている。 今年は今のところ50人中20人。 今月あと数名の方と行います。 一対一で話すことがほぼ初めての相手。 作家の中には、とても緊張している人もいて、私の仕事は、まず緊張をほぐすことから始まります。 少しでもフラットな感じになってもらったら、作家のことを尋ねます。 ここ、大事なところです。 作家の中には、いきなり Ho
二日前にあげたnoteの書初め。 「新しい芽」の文字の脇に書いた署名の大きなこと。 あらためて見て、自分でびっくり。 名前って、自分に贈られた最初のプレゼント。 その言葉を、名付けられた時から繰り返し聞かされていく。 自分では選べないから、好きではない人もいますよね。 私の場合は、特に好きでも嫌いでもなかったのですが、 俳句をするようになった中学3年から好きになりました。 歳時記の初夏の頁に記された自分の名前。 苗代の稲の苗。 美称を玉苗と言ったりもするそう。 田植えを終
婦人之友7月号が発売になりました。 今号では「手しごとのモノサシ」vol.2として、 和紙造形作家のにしむらあきこさんとの対談頁を掲載いただいています。 10頁! https://www.fujinnotomo.co.jp/magazine/fujinnotomo/f201907/ 今回、にしむらあきこさんとの対談頁を作ることになったのは、 これはもう、必然!としか、いいようのないタイミングでした。 私サイドや編集部の都合や段取りが一転あったあとの、結果オーライ。 何よ
芽という言葉が好き。 生まれてきた必然。 育っていく可能性。 瑞々しくって、あたらしい響き。 ::: 日々、さまざまな仕事の場に向かう。 行ったり来たりを繰り返すふたつの家。 出会った人と交わすやりとり。 ふかぶかと自然の草木や生き物に触れてみたり、 幾つかの習い事で、 力のなさをしたたかに実感してみたり。 時は留まることなく過ぎていきますね。 その中で、いくつもの「芽」に気づいたとしても、 心をそこに、ひととき置くこともできずに見送ってしまい、